SPACE銀河 Library

作:水薙紫紋

即 効 薬

即効薬 第一話 幼馴染みで Side-A


・序章
「ふにゅ〜」
「いらっしゃいま… あ、マナちゃん?」
「ふにぃ〜 タカちゃん、いつものアレ、ちょうだい。」
「うん。60錠のだよね?」
「うん…」
「でも、こんなに使って大丈夫? 前に買ってから1ヶ月半しか経ってないよ?」
「大丈夫じゃないけど、しょうがないよ…」
「そっか… でも、あまり体にいい物じゃないから、気を付けてね。」
「うん… ありがと…」
「それじゃあ、お大事にね。」
「うん、ありがとね。さよなら〜」

 僕は神城高志(かみしろ たかし)。現在高校2年生。家は商店街で小さな薬局をやっていて、母さんがパートに行く水・木・金の夕方と日曜日は、大体ひとりで店番をしている。
 さっき店に来たのは、3軒隣に住んでいる、幼なじみのマナちゃんだ。小柄で、元気で、少し面白い喋り方をする女の子。マナちゃんは、大体1ヶ月半ごとに60錠入りの有名な下剤(それもかなり強力な)を買っていく。マナちゃんは昔から重度の便秘で、金曜日の夜に大量の下剤を飲み、1週間分を一気に出すというのが、既に生活習慣の一部になってしまっている。当然ながら、そんな量の薬を一気に飲んで無事に済むはずはなくて、その晩から次の日の晩まで、丸1日は激しい下痢と腹痛でトイレから出る事が出来なくなってしまう(トイレが家に2つあるので、他の家族は何とか大丈夫らしい)。
「1ヶ月半で60錠だから、1回10錠か。本当に大丈夫なのかな…」
 誰もいない店内で、つい言葉を漏らしてしまう。体に良く無いどころか、体を壊しかねない量だ。大丈夫なはずはない。体に優しい薬に変えるか、病院に行ってちゃんと治療をした方がいいと思うのだが、それがなかなか言い出せない。
 結局僕が出来る事は、マナちゃんが動けるようになる日曜日まで、マナちゃんの無事を祈って時間を過ごす事だけだった…


・第一章 決意
 1ヶ月後。
「うにぃ〜」
「いらっしゃいま… あ、マナちゃん? どうしたの?」
 金曜日の夕方、辛そうな声を上げて店に入ってきたのはマナちゃんだった。
 どうしたんだろう? 前回薬を買ってから、まだ1ヶ月しか経っていないのに…
「うにゅ〜 タカちゃん、いつものアレ、ちょうだい。」
「えっ!? だって、前に買ってからまだ1ヶ月しか…」
「それが… いつもの量じゃ効かなくなっちゃって…」
「効かないって… 今1回に何錠飲んでるの?」
「…15錠…」
 これは本当にまずい。説明書に1回1〜3錠と書かれている薬だから、限界量の5倍を飲んでいる事になる。僕も昔1錠飲んだ事があるのだが、翌日半日は下痢が続いてひどい有様だった。
「…マナちゃん、そんな量を飲んでると、本当に死んじゃうよ? 少し量を減らすとか…」
「うん… でも、この位飲まないと出てくれないし… でも、量を減らすとお腹が痛くなるだけで全然出なくて、かえって苦しいの。」
「うーん… やっぱりちゃんと病院で…」
「ヤダッ!! 絶対行かないっ!!」
 突然マナちゃんが大声を上げ… いや、叫んだ。以前病院に行って、嫌な事があったのだろうか?
「…なら、こっちの薬は? こっちの方がお腹に優しいし。」
「その辺のお薬は前に試したけど、ダメだったの。普通に飲むと全然効かないし、多く飲んでもお腹が痛くなるだけだし…」
 言われてみればその通りだ。これより何倍も強い薬を大量に飲まなければ効かないのである。この位の薬が効くはずはない。実際に効かなかったのだから、『試しに』などとはとても言えない。
「じゃあ… これは?」
「あ…」
 いきなりマナちゃんの顔が真っ赤になる。無理もない。僕が棚から取り出したのは、浣腸だった。女の子にとって、最も恥ずかしい薬に違いない。しかし、下剤の使用に体が限界に達している今、もうこれしか無いのでは、と思う。
「…それも前に試したけど、すぐにお腹が痛くなって、ほとんど我慢できなかったの。結局、お薬しか出なかったし…」
 マナちゃんは俯いて、小声で途切れ途切れに答えてくる。
「殆ど我慢出来なかったって、どれ位?」
「…1分くらいしか…」
「それじゃあ効かないよ。もっと我慢しないと。」
「…だって、無理だよ… …あんなに苦しいの… …自分じゃ…」
「…なら、僕がしてあげようか?」
「!?」
 マナちゃんの顔が更に赤くなる。しまった。咄嗟にとんでもない事を口走ってしまった。いくら幼なじみで仲が良いとはいえ、男が女の子に言っていい言葉ではない。『バカ!!』という罵声と共に平手くらい飛んでくるのを覚悟した。が…
「…うん、いいよ… …タカちゃんがしてくれるなら…」
「えっ!?」
 平手が飛んでくる代わりに、マナちゃんの口からとんでもない言葉が飛び出した。僕は耳を疑って、思わず聞き直していた。
「…お願い。それ、マナに使って… …マナも、もうあんなに苦しいのイヤだから…」
 俯いたまま、更に赤くなって、マナちゃんが答えてくる。時計を見ると、5時半を少し過ぎていた。閉店は6時なのだが、どうせ客は来ないのだから、もう閉めてしまっても大丈夫だろう。
「…うん、分かった。 …ただ、閉店とか色々準備があるから、6時頃にまた来てね?」
「…うん、それじゃあ、また後でね…」

 マナちゃんが帰った後、僕は大急ぎで店を閉め、治療の準備を始めた。幸いうちは薬局なので、大抵の物はその場で揃う。しかし、商品を勝手に使う訳にはいかないので、ちゃんとレジに打ち込み、小遣いで買って、普通に売った事にした。普通の浣腸だけなら安いのだが、極度の便秘であるマナちゃんには、おそらくこんな量では効かないだろう。そして何より、なるべく恥ずかしい目や苦しい目にあってもらいたくない。医学書を引っぱり出してきて確認し、必要な物を揃える。いくつかの品物は近くのスーパーに買いに行く。結構高くなってしまったが、マナちゃんが楽になってくれるなら、それでいい…


・第二章 検査
 丁度6時に、マナちゃんは再び訪ねてきた。
「うにぃ〜 タカちゃん、来たよ〜」
 真っ赤な顔で俯いたまま、辛そうに小声で僕を呼ぶ。治療の事を考えてだろうか、さっきはズボンだったのに、ミニスカートに替わっている。シャワーを浴びて来たみたいで、髪も少し湿っている。
「うん。じゃあ、僕の部屋で…」
「…うん…」
 マナちゃんは頷いて、僕に続いて2階へ上がる。2階には、僕の部屋と空き部屋、そしてトイレと洗面台がある。僕の部屋に入ると、マナちゃんは入口から動けなくなってしまった。さすがに緊張しているのだろう。浣腸するという事は、まず下着を脱いでお尻を出さなければいけないって事で、それはつまり、大事なところまで僕の目に晒してしまうと言う事だから…
「じゃあ、マナちゃん。まずコレを。」
「ふにゅ? 何コレ?」
 僕が差し出したそれを、マナちゃんは不思議そうに見ている。それは、厚手の紙で出来た、白い短パンだった。そして、丁度お尻の部分に縦に切れ込みが入っている。
「コレは、病院で使う使い捨てのパンツだよ。コレなら汚れても平気だし、穴が後ろ向きになるように穿けば、お尻しか見えないから… 向こうの部屋を使っていいから、スカートとパンティを脱いで、コレに着替えてきてね?」
「うん。ありがと…」
 マナちゃんはそういって、隣の部屋へ着替えに行く。コレを渡さなければ、マナちゃんの全てを見る事が出来ただろう。それに興味が無いわけでは無いが、そこまでしたらふたりの仲は気まずくなってしまうだろうし、やはりマナちゃんには恥ずかしい目にあってほしくない。これからの治療自体が十分恥ずかしい行為なのだから…
「にゅ〜 着替えてきたよ〜」
 そんな事を考えていると、マナちゃんが帰ってきた。少し安心したのか、恥ずかしいと言うより、照れくさいといった表情に近づいてきている。
「それじゃあ、ベッドの上に横になって、お腹を見せてね?」
「うん。」
 マナちゃんは素直に横になる。僕はマナちゃんの上着をお臍の辺りまでたくし上げ、脇腹を少し押してみる。そのまま徐々に押す場所を下げていくと、ウエストの少し上辺りで指先に硬い感触があった。その途端…
「痛っ!」
 マナちゃんが突然悲鳴を上げる。その場所からは軽く押したまま、下の方へ撫でてみると、パンツと皮膚越しにコロコロした感触が伝わってくる。1週間分というとこんなに溜まってしまうのか。かなりの量を入れないと出せないかもしれない。
「…よし。じゃあ次は、四つん這いに…じゃなくて、ベッドに上半身を乗せて床に膝を付いて。」
「…う、うん…」
 今度は一瞬躊躇してから指示に従う。丁度僕に向かってお尻を突き出す形になり、嫌でもこれからの処置を考えてしまうのだろう。だがその前に、僕はもうひとつ検査をしなければいけない。
「そのままちょっと待っててね。」
 僕は部屋の片隅に置いておいたクーラーボックスを開ける。その中は、少し熱めのお湯で満たしてあり、これからの治療で使う薬が瓶のまま入れてある。丁度体温位の温度に温めたかったのだが時間が無かったため、こうしてみたが、丁度良い温度に仕上がっているみたいだ。僕はその中からスーパーで買ったオリーブオイルの瓶を取り、ほんの少しだけ紙コップに注ぐ。そして医療用の使い捨てのゴム手袋を両手に着け、マナちゃんの元に戻った。
「じゃあ今度は、お尻の中を調べるから。」
 興奮を隠し、あえて事務的な口調でマナちゃんに告げる。興奮してはいけない。コレはあくまで治療なのだ。自分にそう言い聞かせながら…
「えっ!? ちょ、ちょっと、お尻の中って!?」
 途端にマナちゃんの顔がまた赤くなり、信じられないといった感じで聞き直してくる。
「お尻の中に傷がある状態で浣腸すると、薬によっては刺激が強すぎて痔になっちゃう事があるんだ。だからその前にちょっと見せてね? 痔になりたくはないでしょ?」
「…み、見るって、どうやって…?」
「目で見る訳じゃないから安心して。少し指を入れて触ってみるだけだから。」
「指!? ヤ、ヤダ! 怖いし、痛いし、汚いし、そ、それに…」
 少し怯えたマナちゃんの声は段々と小さくなっていき、最後は言葉として聞き取れないくらいに小さい。
「大丈夫。潤滑剤を塗るから痛くないし、手袋してるから汚くないよ? 確かにちょっと気持ち悪い感じがするけど、心配しないで?」
 最後の聞き取れない部分はわざと無視して、マナちゃんに告げる。
「…うん、わかったよ…」
 マナちゃんは耳まで真っ赤になった顔をベッドに埋めて、小声で答えてくる。やはり恥ずかしいのだろう。足をぴったり閉じてしまっている。
「マナちゃん、足を少し開いて力を抜いて。このままだと見られないよ。」
 マナちゃんは無言で足を開いてくれる。しかし、まだ体から力が抜けていないようだ。まあ仕方ないだろう。僕はマナちゃんの後ろに回り、オリーブオイルの入ったコップを手に取る。
「じゃあ、潤滑剤を塗るからね。」
 僕は、パンツの切れ目から左手でお尻を開き、右手の中指でオリーブオイルを掬って、マナちゃんのお尻の穴にマッサージをしながら塗り付ける。
「ひぁっ! みゅっ! う、うあぁぁぁぁぁっ!」
 僕が触れる度、マナちゃんはビクッと体を震わせ、声を上げる。その声を聞いていると、頭の芯が熱くなり、意識がぼんやりしてくる。が、なんとか正気を保つ。これは治療なんだと自分に言い聞かせながら…
 …結局、5回ほど塗り込んだ。マナちゃんのお尻の穴は油でテラテラと輝いている。この位塗り込めば大丈夫だろう。
「じゃあ、潤滑剤塗り終わったから、指を入れるよ?」
「ハァ… ハァ… …うん、いいよ…」
 息も絶え絶えになったマナちゃんが、やっとこという感じで返事をくれる。
 僕は改めて中指にオリーブオイルを塗ると、そのままマナちゃんのお尻の穴に当てる。触れた瞬間、マナちゃんの体がビクッと震える。改めて意識してしまったのだろう。そのままゆっくりと、中指を第二間接までマナちゃんに埋める。
「う、うあぁぁぁぁぁっ! くうぅっ!」
 再びマナちゃんは声を上げる。やはり相当気持ち悪いのだろう。指が締め付けられる。
「よし、入ったよ。どう? 痛くない?」
「い、痛くはないけど、あ、熱いし、気持ち悪いよ…」
「少し我慢してね? じゃあちょっと動かすけど、痛かったら言ってね?」
「えっ? ひゃあっ! くあぁぁぁぁぁっ!」
 僕はマナちゃんの中に指の腹を押しつけると、そのまま中でクルッと1回転させた。
「痛くない?」
「う、うん …大丈夫、痛くない…」
「うん、じゃあ、もう少し深く入れるよ?」
「え? う、うん、いいよ… うくぁぁぁぁぁっ! きゃぁっ!!」
「あ…」
 指を沈めていくと、中指が全部入りきらないうちに、何か硬い感触が伝わってきた。それと同時に、マナちゃんが体を震わせ、悲鳴を上げる。この硬いのは…
「ひぁっ!! みゅっ!! くぅあっ!!」
 つい3回ほど突ついてしまった。そのたびマナちゃんはビクビクッと体を震わせ、悲鳴を上げる。突つかれた衝撃がお腹の奥まで響いててしまったのだろう。
「どう? 痛くなかった?」
「…だ、大丈夫だよぉ… …痛くないよ… …で、でも、今のは、すごく気持ち悪いよ…」
「ご、ごめんね… じゃあ、抜くよ?」
「う、うん… うあぁぁぁぁぁっ!」
 指で触れた硬い物が何なのか、マナちゃんにも分かってしまったのだろう。さっきよりも恥ずかしそうに答える。そして指をゆっくり引き抜くと、やはり辛そうな声を上げる。抜いた指には油しか付いていないように見える。が、微かに油以外の臭いが付いていた。
「…あっ? ヤ、ヤダッ!」
 その臭いがマナちゃんにも届いてしまったのだろう、再びマナちゃんが声を上げる。
「大丈夫、気にしなくていいよ? それより、お尻に異常が無いみたいだから治療出来るけど、少し休もうか?」
 僕は手袋を脱ぎ、汚れた面を内側にして縛り、ゴミ箱へ捨てた。これでもう臭わないだろう。マナちゃんはさっきからかなり呼吸が荒くなっている。相当疲れているだろう。あれだけの恥ずかしさと不快感に耐えてきたのだから…
「ううん、大丈夫。早く楽になりたいし… おねがい、このままやっちゃて…」
 マナちゃんはベッドから顔を上げ、僕の方を見て呟いた。


・第三章 治療
「うん、わかったよ。じゃあ、準備をするから、ちょっと待っててね?」
 僕は、先ほどのクーラーボックスへと向かい、必要な薬と道具を取り出す。予想していた通り、いや予想よりもマナちゃんの便秘は酷い。市販の浣腸を使っても、たぶん腹痛だけで効果はないだろう。何個も入れれば効果があるのかもしれないが、それはそれで猛烈な腹痛と恥ずかしさとの戦いになるはずだ。そして最悪の場合、漏らしてしまう事も考えられる。出来ればそんな事は避けたい。やはり、あれを使おう。僕は、新しい手袋を付け、さっきのコップにオリーブオイルを注ぎ足す。そして、100mlのグリセリン浣腸器を手に取る。
「な、何? その黄緑色の瓶?」
 さっきは見てなかったのだろう、マナちゃんが不安そうにこちらを見ている。
「これから使う浣腸の薬だよ。」
 言いながら、僕はオリーブオイルをコップから浣腸器に吸い上げていく。医学書に載っていた重度の便秘患者用のオリーブオイル浣腸だ。これなら時間はかかるが、お腹は痛くならないだろう。
「でも、普通の浣腸って、そんな色してないよ?」
「うん、普通使わないけど、時々病院で使われる浣腸なんだって。効き目は弱いから、お腹も痛くならないよ。その代わり、普通の薬より多めに入れないと効かないけどね。この浣腸器で2回入れるから。」
「そ、それに2回って… いつものカフェオレパックくらい?」
 かなり怯えた目で僕を見る。カフェオレパックというのは、マナちゃんがいつもお昼に飲んでいる500mlの紙パックのカフェオレの事だ。お気に入りの理由は、『甘いし、安いから』らしい。浣腸器が大きく、ガラスが厚いため、そう見えてしまうのだろうか?
「まさか、そんなに多くないよ。ほら、この紙コップ1杯分だから、大体牛乳のブリックパックくらいだね。」
「よかった、思ったより少なそう… でも、本当に痛くないの?」
「大丈夫だよ。量が多いからお腹が膨らむ感じがすると思うけど、そんなに痛くないよ。さっき、これでお尻の中を調べたけれど、痛くなかったでしょ?」
「あ… さっきの潤滑剤?」
「そうだよ。これで滑りをよくして、出しちゃうからね。普通の浣腸みたいに、お腹を刺激して出すんじゃないから。」
「よかった…」
 安心したのか、少し微笑んでいる。最も、耳まで真っ赤なのは替わらないが。
「それじゃあ、始めるよ?」
「う、うん…」
 再びマナちゃんは、ベッドに顔を埋めてしまった。僕は浣腸器とコップを持って、マナちゃんの後ろへと回る。さっきと同じように、左手でお尻を開き、浣腸器を当てる。またマナちゃんがビクッ震える。
「じゃあ、入れるよ?」
「…う、うん… うぅっ うぁっ! くあぁぁぁぁぁ…」
 マナちゃんの返事を待って、浣腸器をお尻に差し込み、薬を注入する。体温位の温度に温められたオリーブオイルが、マナちゃんのお尻を逆流していく。固まりの隙間を伝っていくためピストンが重いが、焦らず、ゆっくりと押していく。やはり相当気持ち悪いのだろう。注入している間、マナちゃんのうめき声は止まらない。
「よし、1本目終わり。一度抜くから、お尻、気を付けて?」
「う、うん… ふぁっ!」
 注入が終わり、マナちゃんもお尻からゆっくり浣腸器を引き抜く。マナちゃんは、声を上げたけど、漏らさなかった。次の浣腸液をコップから吸い上げる。コップの底の部分で少し空気が入ってしまい、ズズッと音を立てた。
「どう? 痛くない?」
「痛くないけど、入って来る時の感触が、気持ち悪いよぉ… お腹の中で、動いてるの…」
「…悪いけど、そればっかりは仕方ないから… じゃあ、次を入れるよ?」
「い、いいよ… ひあっ くぁっ! うあぁぁぁぁぁ…」
 僕が浣腸器のピストンを押すと、再び襲ってきた不快感に、マナちゃんはまた声を上げる。
「はい、おしまい。また抜くから、気を付けてね?」
「い、いいよ… くぁっ!」
 浣腸器を抜くと同時に、ほんの少し薬が漏れた。ちょっと入れ過ぎちゃったかな? 僕はトイレットペーパーを適当に切ってマナちゃんの手に握らせる。
「マナちゃん、さっきの潤滑剤でお尻がベトベトだから、一度拭いて? お尻の力を抜かないようにね?」
「う、うん…」
 恥ずかしいと悪いので、薬が『漏れた』とは言わない。受け取ったトイレットペーパーで、マナちゃんはお尻を拭き始める。僕が拭いても良かったのだが、驚いて力を抜かれると困る。その間に僕は、トイレットペーパーを四角く何重にも折っていく。マナちゃんが拭き終わったので、使用済みのペーパーを受け取り、ゴミ箱へ捨てる。そして、さっき折ったペーパーを代わりに握らせる。
「…? これ何?」
「しばらくそれでお尻を押さえてて。何かの弾みに漏れるといけないから。それと、そのままベッドに横になって。」
「う、うん… わかった。」
 マナちゃんはそのままベッドに仰向けに寝転がった。
「おっと、そうじゃなくて、左側が下になるように。」
「う、うん… でも何で?」
 体制を変えながらマナちゃんが聞いてくる。
「人間の腸は、こんな風になっているから」
 僕は、マナちゃんのお腹を指差しし、左回りに指を動かす。ちょうど大腸の形を示すように。
「こんな風に左側を下にした方が、薬が奥まで流れて行きやすいんだ。」
「あ、そうか。ほんとだ、奥に流れていく感じがする。」
 これで一段落付いた。後は時間が来るのを待つばかりだ。


・第四章 告白
「ねぇ、どのくらい我慢すればいいの?」
 僕を見上げるように、マナちゃんが聞いてきた。
「んー、我慢出来なかったら途中で行っちゃってもしょうがないけど、大体1時間位かな?」
「え〜? 何でそんなに?」
「時間が経つと、薬が染み込んで、出やすくなるんだって、本に書いてあったから。」
「あ、なるほど。んんっ…」
「大丈夫? 苦しくない?」
「ん、大丈夫だよ。ちょっとお腹が張ってるけど、全然痛くないし。」
「そっか、良かった。なるべく苦しい思いはしてほしくなかったから。」
 僕はマナちゃんの頭の下に枕を入れてあげる。そして、浣腸器を持って立ち上がる。
「あっ… 何?」
「道具を洗ってくるよ。すぐに戻るから。」
「あっ… うん。」
 マナちゃんは『道具』と聞いて、つい先ほどまで自分のお尻に入っていた物を見て、再び顔を赤く染める。部屋を出て、洗面台で浣腸器を洗う。油でかなりヌルヌルするが、落とさないように気を付けて石鹸で洗い、外側の水分を拭き取る。どうせすぐに使うので、内側の水分はそのままにしておく。部屋に戻って、浣腸器をケースのスタンドに置き、手袋を脱いで捨てる。マナちゃんはベッドに横になったまま、顔だけをこちらに向けてきた。
「1時間もこのままかぁ。苦しくはないけど、なんか退屈。」
「そうだね、テレビでも観る?」
「ううん、今の時間、あんまり面白い番組無いから。それよりお話ししない?」
「うん、そうしようか。」
 確かにこの時間帯は、面白い番組はない。それだけでなく、この状況の中、ふたり無言でテレビを観ているというのも何か気まずい。僕はベッドの横の床に座った。これでマナちゃんの顔と同じくらいの高さになる。
「…何でいつも、こんなに酷い便秘になっちゃうのかなぁ…」
「うーん… 何でだろ?」
 時々考える事だが、マナちゃんが便秘になる要素はあまり無い。昔から野菜は大好きでよく食べているので繊維質不足はあり得ない。また、体を動かす事も大好きで、運動不足もあり得ない。授業中でも平気で『おトイレ行って来ま〜す』と平気で言える程の図太い女の子なので、トイレを我慢して便秘になってしまうわけでもない。となると…
「たぶん水分不足かな? 無理してでも多めに水分を取らないと。」
「うみゅ〜 気を付けてみるよ。」
「あとは毎日出ないから栓になっちゃっているのと、下剤の使いすぎかな?」
「ふぇ!?」
 マナちゃんの意外そうな声があがる。下剤で便秘になるという繋がりが分からなかったのだろう。
「強い下剤は腸に刺激を与えて、無理矢理働かせて外に押し出す薬なんだ。無理矢理働かされた腸はその反動で一時的に働きが鈍くなっちゃうから。しばらく経てば元に戻るけど、今の薬の使い方だと、元に戻る前にまた弱めちゃって、尚更出なくなる悪循環なんだ。その結果薬の量が段々増えちゃったでしょ?」
「…そうか、それであんな量に… …ひょっとして、マナのお腹、もう元に戻らないのかな…?」
「大丈夫だと思うよ? 刺激の少ない薬で栓になる前に出してれば、お腹も回復してくると思うし。出来ればちゃんと、病院で刺激の少ない下剤を処方してもらって…」
「ヤダッ!! 病院は行かないっ!!」
 店に来た時と同じように、突然マナちゃんが叫んだ。よぽど病院で嫌な事があったのだろうか?
「…じゃあ後で、うちの薬から良さそうな物を選んでおくね?」
「…うん、ありがと…」
 そして、しばらく気まずい沈黙が流れた。一体病院で何があったのか、とても気になる。しかし、そんなに嫌がっている事を聞き出す事は出来ない。
「…昔、1回だけ便秘で病院に行った事があったの…」
 僕の心を察したのか、マナちゃんが静かに話し始める。
「小学校6年の時に、あまりにも便秘がひどくて、そこの診療所に行ったの…」
 そこの診療所というのは、ここから徒歩5分の所にある診療所だ。内科・外科・小児科・胃腸科・消化器科・肛門科・皮膚科・整形外科・形成外科を兼ねていて、場所が近いため、この辺の人は大体そこを行きつけにしている。
「そしたら、ベッドの上で、スカートもパンティも脱がされて、四つんばいにされて、突然お尻に指を入れられて、その後浣腸されたの… 先生から、さっきと同じくらいの大きさの浣腸器に半分くらい入れられて… 他の患者さんもいる中で、下半身裸のまま10分くらい押さえられて… そして、そのままの格好で待合室を通ってトイレに行かされたの… そして、看護婦さんに出すとこまで見られて…」
「…そんな事が…」
 色々な科を持っている診療所だから、患者は子供や女性ばかりではない。診察室はともかく、処置を行うベッドは個室ではない。周りには他の治療を受けている人や治療待ちの人もいるのだ。更に待合室となると、何人もの前を通って見られた事になる。小学生は、一応小児科の範疇なので、子供扱いなのだろう。心は子供では無いのに…
「結局出なかったんだけれど、そのままの格好でまた待合室を通ってベッドまで戻されたの… そしてもう1回、今度は1本入れられて、また10分くらい我慢させられて、その前と同じようにトイレに行かされたの… 看護婦さんと一緒に… そして、また見られて…」
「…いくら何でも無神経すぎる…」
 いくら治療のためとはいえ、女の子に対して、何て無神経な病院なんだ…
「結局、それでも出なかったの… またそのままの格好でベッドに戻されて… そしたら先生が、『もっと我慢しなきゃ駄目じゃないか』っていって、今度は四つんばいじゃなくて、仰向けにさせられて両足を持ち上げられたの… イヤがったけど、看護婦さん達に両足を押さえられて、今度はいきなり2本も入れられたの… そして、『20分はこのままで』って先生が言うの もうその時はお腹が千切れそうなほど痛かったのに…」
「…酷い…」
 看護婦さんは女性でも、先生は男性だった。他の患者さんもいる中、全てを見られて… マナちゃんは涙ぐんでいた。声も肩も震えている。
「…マナちゃん… …もう、喋らなくてもいいよ…」
 それでも、マナちゃんは喋り続けた。
「それでも何とか時間が来たんだけど、今度はトイレに行かせて貰えなかった… 『これじゃあトイレまで歩けそうにないね』って言われて… お尻に便器を当てられて… そのまま… ベッドで…」
 マナちゃんの瞳から涙が零れる。僕は、ベッドに上がり、マナちゃんと向かい合うように横になる。
「…タカちゃん?… …あっ…」
 そして、そのままマナちゃんを抱きしめた。僕の胸に、マナちゃんの頭を押し付けるように…
「…もう、いいよ… …ずっと昔の事だよ… …忘れちゃってもいいんだよ… …涙でみんな流しちゃって… …ね?」
「…ひっく… …うぅっ… …うえぇ… …うわあぁぁぁぁぁっ…」
 堪えきれずに僕の胸の中で泣き出したマナちゃんに、僕は抱きしめたまま、頭を撫で続けるくらいの事しか出来なかった…


・第五章 再開
「…落ち着いた?」
「…うん… …もう大丈夫… …ありがと…」
 マナちゃんが泣き止んだのは、それからかなり時間が経ってからの事だった。心配する僕に、微笑みを返してくれる。
「…ひとつ、聞いてもいいかな?」
「うん、何?」
「…さっきの話だけど、あんな事があったんなら、今のコレって、凄く嫌だったんじゃない? それなのに、どうして?」
「…だって… …タカちゃん本当にマナの事心配してくれてたし… …昔からマナのお腹の事知ってたし… …優しいから絶対にひどい事しないって信じてたし… …病院みたいに他の人に見られないし… …それに、マナも、もうこんな辛いのイヤだったから…」
 再びマナちゃんの顔が真っ赤になってくる。僕は、またマナちゃんの頭を撫でる。
「そうか、信じてくれてありがとう。」
「…えへへっ…」
 僕は、またマナちゃんの頭を撫でてあげた。マナちゃんは、幸せそうに微笑む。しかし突然…
「あ、あれ? あ〜っ!」
「な、何? どうしたの?」
「時計見て! 時間!」
 時計を見ると、とっくに一時間は過ぎていた。
「…大丈夫なの? 一時間以上経っちゃったけど…」
「時間が長くても大丈夫だよ。病院でこの薬を使うときは、お尻に栓をして、一晩そのままって事もあるらしいから。」
「ひ、一晩?… 痛くはないから、大丈夫かもしれないけど…」
「まあそれは置いといて。ゆっくり起きあがって、トイレに行っておいで? お尻の紙は、そのまま流しちゃってもいいから。あと、換気扇は付けたままでいいよ?」
「う、うん…」
 マナちゃんはゆっくり起きあがって、そしてトイレに向かう。マナちゃんが部屋から出た後、僕はクーラーボックスを開け、中からペットボトルを取り出す。500mlのペットボトルの中には、少し濁った液体が半分ほど入っている。僕はそれを勢いよく振り、中を見る。ちゃんと混ざっているようだ。その時、部屋の外からマナちゃんの呻き声と大きな音が聞こえて来た。トイレは廊下に出てすぐの所にあるので、どうやっても音が聞こえてしまう。僕は両手で耳を塞ぎ、マナちゃんが部屋に戻ってくるのを待った…

「ふにゅ〜」
 しばらくして、マナちゃんがスッキリした、でも赤い顔で戻ってきた。
「…音、聞こえちゃった?」
「聞かなかったよ。で、どうだった?」
「本当にこのお薬、凄いね。全然お腹痛くなかったし… …いっぱい出たし…」
 さすがに言葉の後半は小声になっている。
「あ、でも、ちょっと流れなくて。いや、アレは流れたんだけど、お薬がいくら流しても残っちゃってて…」
「ああ、気にしなくてもいいよ。油だから流れにくいし。あとでちゃんと洗剤入れて洗っておくから。」
「あ、油? だったの?」
「うん、オリーブオイル。」
 僕は、さっき使ったオリーブオイルの瓶を持ってきて、マナちゃんに見せる。
「1000ml… こんな大きいのがあるんだ… でも油がこんなに効くなんて不思議… でも、コレをお腹に入れて、太らないの?」
 何処か的外れな疑問に、僕は思わず笑ってしまう。
「大丈夫だよ。大腸は水分しか吸収出来ないから、油を入れても吸収されないよ?」
「そっか、安心。」
「それでね、マナちゃん、申し訳ないんだけど…」
「んに?」
「もう1回浣腸するから、またさっきと同じように…」
「えぇえええっ!? 何で? マナ、ちゃんといっぱい出たよ? あ…」
 心底驚いたという感じで、マナちゃんが声を上げる。つい余計な事まで言ってしまい、また真っ赤になる。
「さっき浣腸したのは油なんだけど、この油ってのが、腸に張り付いちゃって、なかなか全部が外に出て行かないんだ。おまけに腸から吸収されないから、しばらくお腹の中に残っちゃうんだ。そうするとお尻から垂れて来ちゃう事もあるしね。」
「う、うにゅ、そうなんだ…」
「だから、さっきの油を洗い流す薬を入れなきゃいけないんだ。」
「う〜ん、わかったよ…」
「それじゃあ、またさっきと同じように、ベッドに上半身を乗せて床に膝を付いて。」
「は〜い…」
 マナちゃんは、またさっきと同じポーズを取る。僕は新しい手袋を付け、新しい紙コップにさっきのペットボトルの中身を注ぐ。そして、さっき使っていた紙コップに残っているオリーブオイルを指先に付け、浣腸器の先端に塗る。更に残りを集め、指先に付ける。
「じゃあマナちゃん、またさっきみたいに潤滑剤を塗るから。」
「う、うん… ふぁっ! んにゅっ!」
 さっきと同じように、マナちゃんのお尻の穴にマッサージをしながら塗り付ける。
「くぁっ! んにゃ! く、くうぅぅぅぅぅっ!」
 また、マナちゃんが体を震わせる。しかし今度はさっきほど念入りには塗らない。まだお尻の中に潤滑剤が残っているから、これで充分。
「はい、もういいよ。じゃあ、これから入れるからね。」
「こ、今度のお薬って何? 油を落とすんだから、石鹸とか?」
 緊張を紛らわせようとしてか、マナちゃんが話し掛けてくる。冗談のつもりだったろうが、実は大正解である。
「大当たり。エネマソープって言って、普通の石鹸と違って、浣腸用の石鹸だよ。」
「あ、当たっちゃった…」
「これをさっきと同じ量入れるからね。今度のは少しお腹が痛くなっちゃうんだ。我慢出来なければ仕方ないけど、出来れば10分くらい我慢してね?」
 僕はマナちゃんに説明しながら、コップから浣腸液を吸い上げる。
「う、うん。がんばる…」
「はい、それじゃあ、入れるよ?」
「うん、いいよ… うぅっ くぅっ! うきゅぅぅぅぅぅ…」
 返事を待って、浣腸器をお尻に差し込み、薬を注入する。先ほどの黄緑のオイルとは異なり、やや白く濁った石鹸水が、マナちゃんの中に注がれる。今度は障害物がないので、ピストンは先ほどよりの軽いが、勢い良く入れてお腹が傷ついたり、便意が高まってもいけないので、さっきと同じくらいゆっくり押し込む。
「ハァ… ハァ…」
「1本目終わったよ。大丈夫?」
「う、うん。苦しくないけど、なんかさっきよりもお腹が重い…」
「今度の薬は少し刺激があるからね。もう1本入れるけど、大丈夫?」
「う、うん、大丈夫。がんばるから…」
「うん、分かったよ。じゃあ、とりあえず抜くから、お尻、気を付けて。」
「う、うん… ひゃっ!」
 浣腸器を抜き、残りの薬を吸い上げる。念のため、もう一度浣腸器の先に、オリーブオイルを塗る。
「お腹、大丈夫? 準備出来たから、次いくよ?」
「う、うん、早く… くぅっ… くぅぁっ! ひぃぁぁぁぁぁ…」
「じゃあ、おしまい。抜くから、お尻、気を付けてね?」
「うん、いいよ… ひぁっ!」
 再び浣腸器をマナちゃんから抜き取る。さっきと同じ量の薬を入れたのだが、今度は漏れなかった。少し感触に慣れたのか、1回目で余計な物を出して空きが出来たのか。たぶん両方だろう。僕はお尻に当てる紙を用意しながら、マナちゃんに声をかける。
「マナちゃん、終わったよ。よく頑張ったね? さっきみたいに、ベッドに横になってくれるかな?」
「ハァ… ハァ… う、うん… くぁっ…」
「大丈夫? お腹苦しい?」
「だ、大丈夫… 少し重苦しいけど、まだ痛くないし、我慢できるよ…」
「じゃあ、もう少し我慢してね? それと、またこれでお尻を押さえててね?」
「…うん…」
 僕はまたベッドの横に腰を下ろし、マナちゃんの頭を撫でる。そうするとマナちゃんは、またとても嬉しそうに微笑んでくれる。
「タカちゃん、ありがと… こうしてもらうと、なんだかとても落ち着くよ…」
 そう言って貰えると、僕も嬉しくなって、思わず顔がゆるんでしまう。しばらくそうしていると、今度はマナちゃんが僕に聞いてきた。
「ねえ、タカちゃんってどうして… …このお薬… …の事、詳しいの?」
 さすがに浣腸と口に出すのは恥ずかしいのか、『このお薬』の部分は小声になってしまっている。僕は、マナちゃんの頭を撫でながら、こう答えた。
「…僕も子供の頃は、よく便秘になったんだ。それで、いつも親に浣腸されて、便秘と浣腸の腹痛に耐えていたんだ。」
「…そうだったんだ…」
「といっても、まだ5歳頃の話だけどね。それで、何とか痛くない方法がないかなって家にあった医学書を探したら、この方法が載っていたんだ。まだあまり字も読めない頃だったけど、何となく痛くなさそうだなって思って。結局、この方法はやって貰えなくて、いつも市販の浣腸で苦しいままだったから、無駄になっちゃったんだけどね。それで、さっきマナちゃんが来た時に、この方法を思い出したんだ。で、もう1回医学書を読み直して準備したんだよ。」
「無駄になんかなってないよ。今、その方法でマナが苦しまなくてすんだんだから…」
「そうだね、本当に良かったよ。マナちゃんが苦しむ顔なんて、見たくないから。」
「…やっぱりそういう所、心配してくれてたんだね? タカちゃんの優しさ、感じてたよ…」
 ニッコリ微笑んでくれるマナちゃん。僕は思わず照れ笑いを浮かべていた。そのマナちゃんの笑顔が、突現怪訝そうな表情へと変わる。
「あっ…」
「どうしたの? お腹、痛くなってきた?」
「ううん、痛くはないけど、何か出ちゃいそうな感じが…」
 時計を見ると、ちょうど10分が経っていた。
「そうだね、もうトイレに行っていいよ? 起きる時に気を付けてね?」
「わかってるよぉ〜 よいしょっと。 …あ、ありがとう…」
 少し辛そうなマナちゃんの手を取って、起きあがるのを手伝ってあげる。そして、そのままトイレまで一緒に連れていってあげる。
「まだ我慢出来るかな? トイレに座ったままでいいから、出来るだけ我慢してね?」
「う、うん… わかったよ。じゃあ、また後でね。」
 マナちゃんがトイレに入ってドアを閉める。僕はそのまま部屋に戻り、さっき使った道具をもって洗いに行こうとして、ある事に気づいた。洗面台は、僕の部屋とトイレとの間にある。僕が洗面台にいると、マナちゃんが出す音が聞こえてしまう。仕方ない、マナちゃんが出てくるまで待つか。
 しかし、マナちゃんはトイレから出てこない。それどころか、物音ひとつしない。時計を見ると、マナちゃんがトイレに行ってから20分、つまり浣腸してから30分が経っていた。何かあったのだろうか? それとも我慢しているだけなのだろうか? 様子を見に行きたいけれど、もしも最中に当たっちゃったらどうしよう? 考えれば考えるほど不安になってくる… …やっぱり、マナちゃんに様子を聞いてみよう。もし最中に当たってしまっても、何かとんでもない事になっちゃうよりマシだ。部屋を出て、トイレの前に立ち、ドアをノックする。
 コン、コンッ…
「ひゃぁっ!! タ、タカちゃん!?」
 驚いたマナちゃんの声。どうやら大丈夫そうだ。
「大丈夫? あまり遅いから心配になって…」
「うん、だいじょうぶだよ。お腹は重いんだけど、我慢できないほど痛くも苦しくもないから、ずっと我慢してたんだけど…」
 薬の効き目が弱かったのかな? ひょっとして、作るときに薄すぎた?
「マナちゃん、もう出しちゃっていいよ? それを入れてからもう30分経ってるし…」
「えっ!? もうそんなにたったの?」
「うん。だから、もういいよ? 僕は部屋に戻っているから。」
「わかったよ。教えてくれて、ありがとう。」
 僕が部屋のドアを閉めると、トイレからあの音が聞こえてきた。僕は先ほどと同じように、音が聞こえないよう、耳を塞いでいた。


・第六章 処方
「にぃ〜 終わったよぉ〜」
「お疲れさま。どうだった?」
「…さっきあんなに出たのに… …また、けっこう出た…」
「これでだいぶスッキリしたかな? あ、ちょっと待ってて?」
 僕はさっきから気になっていた事を確認する。マナちゃんが出てくるまで、耳を両手で塞いでいたため、何も出来なかったのだ。エネマソープの説明書を読み、浣腸液の入ったペットボトルを見る。浣腸器2回分の薬を使用したはずなのに、ペットボトルの中にはまだ1回分くらいの液が残っている。
「あ、やっぱり…」
「んにっ? どうしたの?」
「さっきのが効かないみたいだったから、薬を確認してみたんだけど、どうも水の量を間違えちゃったみたいなんだ。200ml分の薬を入れて、水を300ml入れてたみたい…」
「ふにゅ〜 それでなかなか効かなかったんだね? タカちゃんでも間違える事あるんだ〜 …あ、でも、という事はもしかして… …もう1回?」
 心配そうな顔でマナちゃんが聞いてくる。
「ううん、もういいよ。薬が薄かった分、長時間我慢したしね。それに、ちゃんと出たみたいだし。」
「よ、よかったよぉ〜」
 マナちゃんは心底安心したのか、思いっきり気の抜けた声を上げる。その可愛らしい声と姿がおかしくて、つい笑ってしまった。
「あ〜 マナの事笑った〜」
 少し不機嫌そうな声を上げ、ちょっと睨むような目で僕を見る。
「いや、ごめん。あまりにも可愛いらしかったから、つい…」
「…もぅ…」
 今度は、また耳まで真っ赤になってしまった。うん、週末で具合の悪いマナちゃんじゃなくて、いつもの元気なマナちゃんに戻ってくれたみたいだ。
「よし、これで今日の治療は終わり。着替えておいで?」
「は〜い。先生、ありがとうございました〜」
 少しおどけた感じで返事をして、マナちゃんは部屋を出ていった。
 その間に、僕は浣腸器を洗面台で洗う。しかし、洗い終わる前に、マナちゃんが出てきてしまった。
「にぃ〜 おまたせ〜 何やってるの? あっ…」
 僕の手元を覗き込み、何をしているかが分かると、また真っ赤になって黙ってしまう。
「あ、すぐに終わるから、もう少し待っててね?」
「うん…」
 部屋に戻ると、浣腸器の水気を出来るだけトイレットペーパーで拭き取る。クーラーボックスからグリセリンを取り出し、少し浣腸器に入れ、ピストンを動かして全体に馴染ませる。
「…何やってるの?」
「こうしておかないと、水分が乾いたときに、内側と外側がくっついちゃって、動かなくなっちゃうんだ。そうなってから無理に動かすと、ガラスだから壊れちゃう事もあるし。」
「ふ〜ん… 物知りなんだね?」
「…こういう事で物知りって、誉め言葉になるのかな?」
「えっ? マナは本気でほめたんだけど… そういえば、これってどうしたらいい?」
 彼女の手には、先ほどまで穿いていた紙のパンツが握られていた。
「あ、それ? ゴミ箱に入れちゃって。」
「んに、わかった。」
 ポイッと、紙パンツはゴミ箱へ捨てられる。
「よし、それじゃあ、1階へ行こうか?」
「うん!」

「マナちゃん、はいっ。」
「お、おとととっ? ありがと、いっただっきま〜す。」
 僕は冷蔵庫からスポーツドリンクの缶を2本取りだし、そのうち1本をマナちゃんに投げ渡す。マナちゃんは危なげな口調とは裏腹に、しっかりキャッチして飲み始める。
「さーてと、どの薬がいいのかなー?」
 僕も飲みながら、薬局の薬棚へと向かう。マナちゃんがこれから使える薬を選ばなければいけない。もちろん刺激が強い薬は、もっと悪化してしまうから却下。そして食物繊維系もダメ、普段から野菜はたっぷり取っているので、おそらく効果は出ないだろう。そうなると、選べる薬は少ない。
「ふにゅ〜 いいのあった?」
 後ろからマナちゃんが近づいてきて、心配そうに訪ねる。しかし、なかなかいい薬が見つからない。
「うーん、見つからないなー」
「え〜、そんなぁ… マナ、もうあんな痛いのヤダよ…」
 マナちゃんの顔が曇っていく。いい薬がなければ、また浣腸か、あの下剤の苦しみが待っているからだだろう。もう二度と味わいたくないに違いない。しかし、棚の商品を全部見たが、探している薬は見つからなかった。ふと足元を見ると、カウンタの内側に、まだ開けていない段ボール箱が2つ転がっていた。
「そういえば、まだ開けてなかったけど、新製品が届いたんだった この中に無いかな?」
 箱を開けてみると、傷薬と風邪薬、解熱剤と痛み止め、そして下剤が入っていた。手にとって箱の説明を読んでみると、まさに理想の薬だった。
「マナちゃん、あったよ! コレなんてどうかな?」
「うにゅ?」
 説明には、『おなかに優しく、痛くならない』『長期間飲んでも、癖にならない』『おやすみ前に飲めば、翌朝にはスッキリ』と書かれている。
「う〜ん、とっても条件にピッタリすぎるお薬だなぁ… …ホントに効くのかな?」
「ダメモトで試して見ようよ? 少なくとも、前の薬よりはいいと思うよ?」
「そうだよね、試してみなくちゃ変わらないよね。じゃあ、コレにするよ。」
「ええっと、240錠で1,795円。早速今晩から飲んでみようか?」
「ふえ? でも、さっき出ちゃったんだけど…」
「浣腸だと、出口の近くのは出せるけど、お腹の奥のは出せないんだ。飲み薬なら、お腹の奥から出せるからね。それに、今なら出口に栓がないから、テストには丁度いいんじゃないかな?」
「う〜ん、そうだね。はい、お金。」
「ありがと。はい、お釣り。1回2〜6錠で、最小量からって書いてあるけど、とりあえず3錠くらいから試した方がいいかな? それと、水分で押し出す薬みたいだから、多めの水で飲んだ方が効くと思うよ?」
「にゅ、さっそく試してみるよ。」
「それがいいと思うよ。それじゃあ、お休み。また明日ね?」
「うにゅ、おやすみなさ〜い。また明日ね〜」

 マナちゃんが帰った後で、僕は残りの片付けを始めた。手袋や紙パンツなどのゴミは新聞紙で包み直して、外側からは何か分からないようにしてからゴミ袋に入れて捨てる。トイレに行ってみると、便器の水面に元々のオリーブオイルより黄色くなった油が浮いている。食器洗用の洗剤を使って便器の中を洗い、水の中に洗剤を入れてかき混ぜてから流すが、全部は流れない。また洗剤を水の中に入れ、トイレットペーパーを少し多めに捨ててそのまま放っておく。風呂に入り夕食を食べた後でトイレを流すと、殆どの油が流れ落ちていく。まだ少し残っているが、後は徐々に流れていくだろう。
 全ての後始末が終わったので、そのままベッドに身を投げる。さすがに疲れたが、マナちゃんの苦痛が消えて、とびきりの笑顔が見えたので、良しとするか。その時、僕の鼻はベッドからある匂いを捕らえていた。何の匂いだろう? ここは、確か治療でマナちゃんが体を乗せていた…
『マナちゃんの香り』
 …それに気付いてしまった僕の頭の中に、先程の光景が蘇る。恥ずかしそうな表情、我慢する声、明かりに晒され油でテラテラと光ったお尻の穴… …そこまでが限界だった。ダメだ、止めろと思いつつも、僕はゴミ袋の中から、マナちゃんの穿いていた紙パンツを取り出す。そして…

 …僕が興奮から冷める事が出来たのは、かなりの時間と、ティッシュを数枚消費してからだった。興奮が冷めると同時に、後ろめたさを感じる。絶対にマナちゃんの前では今の事を考えないようにしないと… 新しく増えたゴミと紙パンツを他のゴミと共に念入りに新聞紙で包み直し、ゴミ袋に入れる。そしてベッドに横になる。ようやくやって来た睡魔に抱かれながら見た時計は、午前3時を示していた…


・終章
 翌日。
 さすがに今朝は寝坊してしまった。今日は母さんが家にいるので、店番はお休み。こっそりとゴミを出した後、遅めの朝食をトーストとコーヒーで簡単に済ませていると…
「タ〜カ〜ちゃん!」
 玄関から元気な声が聞こえてきた。
「あ、マナちゃん、上がって?」
「は〜い、おじゃましま〜す。」
「すぐ行くから、僕の部屋で待っててよ。」
「は〜い。」
 パタパタパタ… マナちゃんは元気に階段を上がって、僕の部屋に入るのが音で分かった。僕は急いでトーストをかっ込み、コーヒーで流し込み、部屋へ向かう。昨晩の事は絶対に表情に出してはいけないと、自分に念を押しながら…
 マナちゃんは、僕のベッドに腰掛けて微笑んでいた。僕はその隣に腰掛ける。
「…えへへ〜」
「ご機嫌だね?」
「うん。だって、十何年ぶりに迎えられた気持ちのいい土曜日の朝だもん。」
 そっか。今までなら今頃は、トイレで苦しんでいて一歩も動けないはずだったから… …と、いう事は?
「それじゃあ、昨日の薬は?」
「うみゅ、バッチリ、ちゃんと効いたよ。全然痛くも苦しくもなかったし。」
「そうか、良かったね。」
「えへへ…」
 昨日のように、マナちゃんの頭を撫でてあげると、満面の笑みを浮かべてくれる。
「それで、ね…」
「?」
 何だろう? マナちゃんは、突然俯き、また耳まで真っ赤になっていく。
「あの、ね… …その…」
「何?」
 マナちゃんは、何か言い出しにくそうにモジモジしていたが、意を決して、そっと耳打ちをする。
「あのね… もし、また出なくなっちゃったら、その… …また、治療、してくれる?」
「えっ?」
 治療? また? あんなに恥ずかしい治療なのに?
「…お願い… …こんな事、タカちゃんにしか頼めない…」
 …確かに。もし僕が治療を断れば、また苦しい薬に頼るか、さもなくば、あんな目にあった病院に行くしかない。それだったら…
「…いいよ。それでマナちゃんが楽になれるんだったら…」
 チュッ
 頬に温かい感触が…
 …え?
「…えへへ、ありがと…」
 一瞬、何が起こったか分からなかった。マナちゃんが何をしたか気付くと、今度は僕が耳まで真っ赤になる。
「そ、そうだ! タカちゃん、今日は何か用事ある?」
 照れ隠しなのだろう。不自然なほど明るく、僕にそう聞いてくる。
「えーと、店は母さんが出てくれるし、マナちゃんからの報告も終わったから、今日は何も無いよ?」
「それじゃあ、どっかに遊びに行かない? 昨日のお礼に、お昼、おごっちゃうから?」
「じゃあ、駅前の高級フランス料理店でフルコースかな?」
「…にゅ〜 そんなにおこずかいないよぅ…」
「あははっ、冗談だよ。それより、外に出ようか?」
「うん! 早く早く!」
「うわぁっ! 急に腕引っ張っちゃダメ! 上着くらい着させてよ!」
 ドタバタしながら、マナちゃんと一緒に出かける。いや、マナちゃんに引っ張られていく。ひょっとして、これってデートになるのかな? などと考えながら…


−終−


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第1話 Side-B


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