即 効 薬
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即効薬 第五話 従兄妹で Side-B
・序章
「…アズみん、大丈夫?」
「えっ? 大丈夫って、何?」
いつもと同じ昼休み。リナと真奈と一緒に中庭でお昼を食べている時、真奈が突然そう聞いてきた。
「どうしたの、真奈ちゃん?」
「だってアズみん、何だか具合悪そうだから…」
「そう言われてみれば… 梓、大丈夫なの?」
やっぱり真奈って鋭い。誤魔化してもいいんだけど、そんな事したら、また真奈は心配しすぎて落ち込んじゃうから…
「たいした事じゃ無いんだけどね。食べてる時に何なんだけど… …また、出なくなっちゃって…」
「…ご、ごめん、アズみん…」
「もう… 先月言ったじゃない。真奈やリナになら知られても平気だって。こんな事でいちいち謝らないの。」
「うみゅ、そうだったね。」
「でも、本当に大丈夫なの? 苦しくないの?」
「ちょっと苦しいけど、大丈夫だよ。まだ3日目だから、先月程じゃないし。やっぱり、アレと同時に来ちゃうみたい。」
「うに、でも早く出しちゃわないと、もっと苦しくなっちゃうし、出なくなっちゃうよ?」
「うん。だから、今日帰ったらアレを使うから。先月買ったのがまだ余ってるから…」
「ア、アレって…」
リナの顔が一瞬で赤くなった。先月の事を思い出しちゃったみたい。それを見たアタシと真奈の顔も赤くなる。
「そ、そうだ真奈。ひとつお願いがあるんだけど…」
「うみゅ、何?」
「前に話してた、よく効いてお腹に優しい薬、教えてくれないかな? 今日はアレを使うけど、次からのために…」
「んに、いいよ。今度1回分持って来るから、試してみて? 体に合うようだったら、タカちゃんのお店で売ってるからね? マナが代わりに買ってきてもいいし。」
「…真奈ちゃん、私も1回分、お願いしていい?…」
「にゅ、もちろんだよ。」
前に便秘になって、リナと一緒に薬を買って使ってから約1ヶ月。アレが来ると同時に、アタシはまた便秘になっていた。また平日だから、下剤は使いたくない。そうすると、使えるのはあの薬しかない…
…本当は、あんな苦しくて恥ずかしい薬、使いたくない。けれど、先に延ばしたところで、症状は悪くなるだけ。だったら、とっととやっちゃって、早く楽になった方がいいから…
・第一章 目撃
「ただいまー」
いつも通り、家には誰もいない。 …心臓が、普段はあり得ないくらいにドキドキしてる…
「…やっぱ、止めよっかな?…」
つい、そんな言葉が口から出た。 …でも、ここで止めても、何の解決にもならない。
「…よし、やっちゃおう。」
アタシは早速準備を始めた。トイレに行って、トイレットペーパーを少し持って来る。そして、冷蔵庫からマーガリンを取り出して、ペーパーに一欠片落とす。そして、アタシの部屋に行って、ドアを閉める。
「…大丈夫、大丈夫だから…」
自分にそう言い聞かせながら、アタシはカーテンを閉めて、スカートとパンティとソックスを脱いで、ベッドの上に置いた。そして、鍵の掛かった抽斗を開けて、アレを取り出した。 …そう、先月買って、残った浣腸… …さすがに、直接手にすると、少し決心が鈍っちゃう…
「…苦しいのは、ちょっとだけ… …すぐ、すぐに楽になるから…」
前回と同じように、浣腸を袋から取り出して、キャップを取って、差し込む部分にマーガリンを塗る。そして、アタシは四つん這いになった。 …ここまでは、前回と同じ。でも、ここからは、アタシが他の人にするんじゃなくて、してもらうんじゃなくて、アタシ自身に…
「…がんばれ。やるしかないんだから…」
アタシは、さっきのマーガリンの残ったトイレットペーパーで、お尻の穴を拭いた。
「ひぁっ…」
覚悟はしていたけれど、あまりの冷たさに、思わず声が出ちゃった… でも、四つん這いの格好のまま片手を後ろに回すのって、結構疲れるかも… アタシは、顎と胸を床に着けて、お尻を突き上げるような格好になった。 …ここにはアタシしかいないんだけど、それでも結構恥ずかしい。こんな格好、絶対に人には見せられない…
「…や、やらなきゃ…」
…アタシは浣腸を手に取って、その先端をお尻に当て、ゆっくりと沈めていった…
「くぅっ… ひゃぁぁ…」
先月と同じ、むず痒いような気持ち悪さがお尻を襲う。 …これで、後は潰せば…
「くあぁっ… うぁっ…」
お尻の中を、冷たい違和感が襲う。そして、その冷たさは、すぐに熱さへと変わっていく。ゆっくりと潰した後で、浣腸をお尻から引き抜いた。その中には、半分とまでは行かないけれど、まだかなりの薬が残っていた…
「…やっぱり…」
やっぱり、1回では上手く全部入れられない。アタシは、急いで潰れた浣腸を膨らませ、再びお尻に沈めていった…
「くぁっ…」
…もう、少しお腹が痛くなってきた… 後は、これを潰せば… …そうか、こうすれば…
「うぁぁっ… うぅっ…」
アタシは、さっきみたいに浣腸をただ潰すんじゃなくて、両手で折り畳むように潰していった。薬の冷たさと熱さと、ゴボゴボとした空気の感覚が、一緒になってお尻に入り込んで来る。そうか、こうすれば最初から全部入ったかも…
ガチャ
「梓ちゃん、いる?」
「…えっ?…」
「…あっ?…」
突然、部屋のドアが開いて、男の人が顔を出した。 …あれ? 従兄の直君だ。どうしてここに?… …って、そんな事より!?
「キャァァァァァァァァァァッ!?」
み、見られちゃった… ドアは真横にあったから、直接大事な所を見られてはいないけれど、下半身裸で浣腸しているところを、男の人に見られちゃった…
「ご、ごめんっ!」
一瞬硬直していた直君だったけれど、アタシの悲鳴で我に返ったみたい。慌てて後ろを向いた。
「な、何で直君がここに!?」
アタシは、お尻から浣腸を抜いて、真っ赤になって立ち上がりながらそう聞いた。
「か、母さんに頼まれて届け物を… チャイムを押しても誰も出てこなかったけど、鍵が開いていたから中に入って… そしたら、梓ちゃんの部屋の方から呻き声が聞こえたから…」
…そう言えばアタシ、玄関の鍵掛けて無かった… …チャイムは昨日電池が切れて、今日入れ替えるはずだったんだ…
「…うぁっ…」
お、お腹が痛い… や、やだ… 直君の前なのに…
「…あっ! い、いいから、早くトイレに… 僕は、あっち向いているから…」
「う、うん…」
直君は壁の方を向いてくれた。アタシはその後ろを通って、逃げるようにトイレへ駆け込んだ。ドアを閉めて、便座に腰を下ろす。
「ん、んんっ…」
慌ててお腹に力を入れると、お尻から薬が出ていった。そして、塊が出ていく感触が…
「んぁっ… くぅっ…」
更にお腹に力を入れ続けるけど、もうこれ以上出そうにない。お腹の痛みも無くなっていた。 …そういえばアタシ、音消しの水流してない… …出す時の音、直君に聞こえちゃったかな?… …アタシは中腰になって、便器の中を覗いた。
「…えっ?」
塊は、ほんの少ししか出ていなかった。3日分どころか、絶対に1日分にも満たない。 …そういえば、直君が来たから慌てちゃって、全然我慢してなかった…
「…しょうがないか…」
アタシはお尻を拭いて、水を流した。そして、服装を直して…
「あっ!?」
服装を直すどころか、アタシは腰から下は何も身に着けていなかった。 …そうだ、脱いでから浣腸して、直君に見られて、そのままトイレへ… 服と下着はアタシのベッドの上… そして、部屋の前には直君が… さすがに、リナの時みたいに持ってきてもらう訳にはいかないし… …ど、どうしよう…
「…そうだ、あれで…」
アタシはトイレから出て、隣にある洗面台の下の扉を開けた。そこには、洗濯済みのバスタオルが入っている。とりあえずこれをスカートみたいに腰に巻いて、後はアタシの部屋まで…
廊下の陰から顔を出してリビングを覗くと、直君はまだ壁の方を向いていた。アタシの足音を聞いてか、振り返ろうとする…
「梓ちゃ…」
「駄目! まだ見ないで!」
「う、うん…」
直君は、また壁の方を向いてくれた。アタシはダッシュで部屋に飛び込んで、ドアを閉めた。バスタオルを取ってパンティを穿く。ついでだから、制服から普段着に着替えた。そして、さっき使った浣腸とトイレットペーパーをティッシュで包んでテープで止めて、また包んでテープで止めて… 数回繰り返して、絶対に中身が分からないようになってから捨てた。
「これで良し、っと…」
…って、良しじゃない… …直君にしっかり見られちゃって、浣腸している事がバレちゃったんだ… …けど…
・第二章 談笑
後片付けが終わってから、アタシは部屋を出て、直君の前に立った。
「あ、梓ちゃん… その…」
アタシは、キッと直君を睨み付けて、右腕を振り上げ…
ペチッ
直君のホッペタを軽く叩いた…
「…ごめんね… …アタシが怒っちゃいけないよね… …玄関の鍵を掛けなかったアタシが悪いんだから…」
アタシは俯いて、直君のホッペタに手を当てたまま謝った。
「そんな事無いよ… …無断で家に入ったんだし… …何より、梓ちゃんの部屋に入る前にノックしなかったんだから… …本当にごめん…」
「ううん、もういいよ… 両方とも悪かったんだから、おあいこって事で…」
「で、でも…」
「いいの! おあいこ! 直君がそんな風にしていると、却って恥ずかしいんだからね!」
直君は、ホッペタに当てたままのアタシの手に、自分の手を重ねた。
「うん、分かった… 梓ちゃんがそれでいいって言うなら…」
やだ… そんな事すると、まるで恋人同士みたいじゃないの… アタシは急に恥ずかしくなって、慌てて直君のホッペタから手を離した。
「と、とりあえず、そこに座ってて… …えっと、コーヒーでいいかな?」
「あ、うん。ありがとう。」
アタシは、直君にリビングの椅子を勧めて、コーヒーを入れ始めた。確か、直君は濃い目のブラックだったよね? アタシは砂糖とミルク、両方とも多めだけど…
「ところで、急にどうしたの? 突然だから、すごく驚いちゃった。」
「あれ? おばさんから聞いてない? 母さんの実家から梨をいっぱい貰ったから、お裾分けに来たんだけど…」
「アタシが帰って来た時は、もうママはいなかったから何も聞いて無いよ。 …あれ?」
コーヒーを持ってテーブルに行くと、テーブルの上にはママの伝言メモと、乾電池が置いてあった。
『梓へ 朋絵おばさんが梨を分けてくれるそうです。直樹君が持ってきてくれるそうなので、受け取っておいてください。あと、電池買っておいたので、チャイムの電池を入れ替えておいてください。 ママより』
「…こんなの、全然気が付かなかった。帰って来てから部屋に直行しちゃったから… …それに、チャイムの電池の入れ替えって、どうすればいいのよ?」
自慢じゃないけど、アタシもママも、超が付くほどの機械音痴だ。まあ、携帯電話で話すくらいは出来るんだけど、メールとか電池の入れ替えとかビデオの録画なんかは全然分からない。こういう事はパパに頼まないと…
「はいはい。チャイムのスピーカーって、あれだよね?」
直君は微笑みながら電池を取って、スピーカーらしき小箱の所に行って、何かカチャカチャいじった。そしてそのまま玄関の方に行って…
ピンポ〜ン
玄関のチャイムの音が聞こえてきた。えっ? もう直ったの?
「よし。これでいいかな?」
「直君、すごい。ほんの数秒で…」
「こんなのたいした事じゃないって。はい、古くなった電池と、お裾分けの梨。」
「わ、ありがとう。ちょっと待っててね?」
直君から受け取った袋には、おいしそうな梨が一杯入っていた。アタシはひとつを残して、残りを冷蔵庫に入れた。残ったひとつを、皮を剥いて切ってから皿に載せて、楊枝を2本刺してテーブルに持っていった。
「はい、どうぞ。ちょっと冷やした方が良かったかな?」
「…僕なんかより、梓ちゃんの方がすごいよ。こんなに簡単に料理出来るなんて…」
直君は、心底感心しているみたいにそう言った。 …これ位の事で?
「料理って、ただ皮を剥いて切っただけじゃない。これこそたいした事無いって。」
「いやいや、この間仲間内で鍋をやったんだけど、女の子が遅れて来るっていうんで男だけで準備していたら、人参剥けば半径1センチは減ってるわ、魚はグチャグチャになるわ、具材だけでなくて指も切るわで…」
「…まさに阿鼻叫喚…」
…男の子が料理をすると、そんな事になっちゃうんだ…
「そうなんだよ。女の子が来た時の第一声が、『何これ!?』って悲鳴だったからなぁ…」
「…いいの? これからお医者さんになろうとしているのに、そんな不器用で?」
直君は、現在大学の1回生。確か医学部に入ったはず… なんだけど…
「まあ、料理と手術とかは根本的に違うから、大丈夫だと思うんだけど…」
そんな事を色々話していると、不意に直君が心配そうな顔で聞いてきた。
「まだお腹痛い? 大丈夫?」
「えっ?」
気が付くと、アタシは左手でお腹を押さえていた。そんな事してるつもり無かったのに…
「…ううん、痛くないんだけど、何か落ち着かない感じがしたから…」
言われてみれば、何かお腹が重いような、下痢してる時みたいな違和感が残っていた。
「まだ薬が残ってるのかな?」
薬… その言葉を聞いて、一瞬で顔が赤くなる。やだ、さっきの事思い出しちゃった…
「あっ… ご、ごめん…」
「…ううん、いいよ。もうバレちゃったんだから…」
アタシは、俯いてそう答えた。 …ちょっと、恥ずかしいな…
「あの… …便秘、してたんだよね?」
「…うん。今日で3日目なの…」
「下剤とか、使わないの?」
「あんまり使いたくない… あれって効き目が長いから、いつお腹痛くなるか分からないし… もし、通学中とか授業中にお腹痛くなったらと思うと…」
「そうか… そうすると、やっぱり浣腸が一番手っ取り早いか…」
「…うん…」
「まあ、ちゃんと薬が出れば、そのお腹の違和感も無くなるから、もうちょっとの我慢だよ。」
「…ううん、もうちょっとじゃない…」
「えっ?」
直君が、不思議そうに聞き返してきた。
「…実は、さっきはほとんど出なかったの… …だから、もう1回しないといけないけど… …でも…」
「…でも? どうしたの?」
「…さっきのが、最後の薬だったから… …だから、まず買いに行かないと… …でも、買いに行くの恥ずかしいから…」
どうしよう、こんな事言っちゃって… まさか『買って来て』なんて言える訳無いし… …そうだ、神城君の店まで、車で送ってもらおうかな? あの店なら、何とか買えそうだから…
「…父さんの病院に行こうか?」
「えっ?」
…父さんの病院? そうか、おじさんは診療所を開業してるんだった。ここからはちょっと離れているらしいから、アタシは行った事は無いけど…
「今日は父さんが出張で、ちょうど休診なんだ。病院用の浣腸だけど、僕がいれば使う事が出来るから。」
「…いいの? おじさんに内緒でそんな事しちゃって?…」
「まあ、本当はよくないんだけれども、何とか大丈夫だよ。それくらいの事はちゃんと出来るから。」
…直君がいれば使う事が出来る、って… …それって、もしかして直君がアタシに?… …駄目。そんなの、恥ずかしすぎる…
「…でも、やっぱり恥ずかしいから…」
「大丈夫、使い方も教えてあげるから。ひとりで使って、終わったら呼んでくれればいいからね。」
ひとりで使う… それだったら、大丈夫かも…
「…じゃあ、お願いしちゃっても、いい?…」
「うん、いいよ。でもその前に、コーヒーと梨を食べちゃおうね。せっかくの梓ちゃんの手料理、残したら勿体無いからね。」
「…だから、料理なんてたいそうな物じゃないってば…」
直君の言葉に、アタシはつい笑ってしまった。 …ひょっとして、わざとなのかな? アタシの緊張をほぐすために…
・第三章 弁明
それからしばらくして、アタシは直君の車に乗って、おじさんの診療所に向かっていった。
「そういえば、おじさんの病院って行った事無いんだけど、結構遠いの?」
「まあ、電車とかだとちょっと遠いかな? 車ならすぐだけどね。」
診療所に着くまで、アタシと直君は色々雑談していた。そんなに遠いところに住んでる訳じゃないけど、普段あんまり会わないから…
「…あれ? ここって…」
「どうしたの?」
車は、何故か見覚えのある道を通っていた。 …ここは真奈の家や神城君の店のある商店街…
「…診療所って、この近くなの?」
「うん。ほら、見えてきた。あそこにある上川診療所だよ。」
直君は、診療所の駐車場に車を停めた。ふたりで車から降りて、入口に向かう。直君がポケットから財布をとりだして、そこに付いている鍵で入口のドアを開けた。
「さ、入って。」
「うん…」
直君に促されて、アタシ達は待合室に入った。誰もいない、ブラインドが降りているから薄暗い、静まり返った待合室。その静けさは、どことなく不気味で、何となく不安になって来る…
「梓ちゃん。トイレに行って、ちょっと頑張ってみてくれるかな? トイレはそこだから。」
「えっ?」
直君が、入って右側のドアを指差す。 トイレって、これから、その… …浣腸するんじゃないの?…
「お腹の具合がおかしいって事は、まださっきの薬が効いているって事だからね。ここでちゃんと出ちゃえば、またしなくても済むからね。僕は、一応準備だけしておくから。」
「う、うん…」
そうか。ここで出ちゃえば、また苦しまなくていいんだよね… アタシは、直君に促されるままトイレに入った。ドアを開けると、個室が3個と、壁に見慣れない便器が3個… …男女共用? 今はアタシと直君しかいないけれど、普通の日だったら結構恥ずかしいかも… アタシは個室に入ってドアを閉め、パンティを下ろしてからスカートをたくし上げ、和式便器をまたいでしゃがみ込んだ。そして、お腹に力を入れる…
「ん、んんっ…」
頑張って出しちゃおうと思ったけど、お尻からは、水みたいなのが少し出ただけだった… アタシは、トイレットペーパーで拭いてから水を流して、待合室に戻った。
「梓ちゃん、こっちに来て。」
「あっ、うん。今行くから。」
診察室の奥の方から、直君の声が聞こえた。そっちに向かって歩いていくと、左手に診察室があった。そこを越えると、ベッドが3台並んでいた。大きな部屋の隅っこに診察室用の小部屋があって、その外にベッドがあるって感じなのかな? 更にその奥に『レントゲン室』と『処置室』と書かれたドアがあり、処置室のドアが開いていた。直君の声と物音はその中から聞こえて来る。アタシは、入口に立って中を覗いた。
「どうだった?」
「…駄目だった…」
処置室の中には、ベッドや点滴用のスタンドらしき物、色々と薬や何かが入っている棚、その他にも今まで見た事が無い道具がいくつかあった。そして、白衣をまとった直君が… …やだ、何か怖い…
『…病院は、昔診てもらった時、とってもひどい目にあっちゃったから… …だから、もう病院には絶対に行かない…』
ふと、真奈が先月言った言葉が頭をよぎった。 …ここって、真奈の家の近くだよね… …それじゃあ、もしかして、ここがその病院なの?…
「それじゃあ、やっちゃおっか。やり方教えてあげるから、こっちに来て。」
直君が優しい声で呼びかけてくれる。けれど、アタシは射竦められたように動けない…
「…梓ちゃん? どうしたの?」
「…やだ、何か怖い…」
アタシは、ちょっと震える声でそう言っていた。
「大丈夫だよ。安心して? 僕が梓ちゃんに酷い事すると思う?」
直君は、アタシを安心させるように、笑顔でそう答えてくれた。でも…
「と、友達の家がこの近くにあるの。その友達、昔病院で便秘の治療して、酷い目にあったって言ってたの。それって、もしかしてこの病院なの?」
アタシは、ついそう聞いてしまっていた。こんな断片的な事を言っても、絶対に分かるはず無いのに… …でも、直君は一瞬驚いた後、ちょっと顔色を曇らせた…
「…昔って事は、まだその友達が子供の頃だよね? それだったら、確かにここの事かもしれない…」
「えっ?」
直君の口から出た言葉は、信じたくない言葉だった。『違う』という返事を期待していたのに…
「ちょっと、その事について話そうか。」
直君は処置室から出てきて、診察室のベッドに腰を下ろした。アタシも、その隣に腰を下ろす。
「ここには小児科も入っているんだけど、小児科の便秘の治療っていうと、大体浣腸なんだ。子供には、下剤は少し強すぎる場合が多いからね。」
「うん…」
「それで、子供に浣腸をする時なんだけど、汚れると悪いから、まずは下半身裸にしちゃうんだ。ズボンとかスカートとかパンツとかは全部脱がせてね。それで、ここのベッドの上で浣腸しちゃうんだ。」
「ここ、で…?」
「うん。今日は誰もいないけれど、普段は先生や看護婦さんだけじゃなくて、他の患者さんや付き添いの人もいるんだけどね…」
「でも、カーテンがあるから…」
アタシは、上を見上げてそう言った。ベッドを囲むようにカーテンレールがあって、カーテンが下げられていた。必要な時には、周りから見えないように目隠しできるように…
「このカーテンは、先月付けた物なんだよ。カーテンも衝立もないまま、周りから丸見えの状態で浣腸されちゃうんだ。」
「えっ!?」
「そして、ここで時間まで我慢させた後、トイレに行かせるんだ。結構ギリギリまで我慢させるから、そのままの格好で看護婦さんがお尻を押さえたまま、待合室のトイレまで連れて行くんだ。」
「そのままの格好って… …待合室?」
「うん。下半身裸のまま、他の人がいる待合室を通って… そして、トイレで出すんだけど、浣腸って苦しいから、充分出なかった時に、子供って誤魔化しちゃうんだ。そうさせない為に、看護婦さんが最後まで見ているんだ。」
「最後までって、その… …出してる間ずっと?…」
「うん、トイレのドアを開けっ放しで… 我慢が限界でトイレまで行けなさそうな時は、ここでお尻に便器を当てて出させちゃうんだ。その時も、特に隠すような事はしないから、周りから丸見えの状態で…」
「…」
あまりの事に、アタシは声も出なかった。多分、顔も真っ青になっているだろう…
「どうも、『まだ子供なんだから恥ずかしくない』って思われていたみたいなんだ。まるっきり昔の考え方だけどね。」
「そんな… 酷すぎる…」
…子供の時でも、そんな事恥ずかしいのに…
「それで、一番酷い話なんだけど… …小児科の範疇は、中学生までなんだ。つまり、15歳位までは子供扱いで、そういう治療をさせられちゃうんだ…」
「!?」
中学生!? その頃なんて、絶対に子供なんかじゃない! もしもアタシが一昨年にそんな目にあったら、絶対に立ち直れない… …もしかして、真奈は本当にそんな目に?…
「年頃の子供にとっては辛いよね… 子供だけど子供じゃない、一番傷つきやすい頃だから… 女の子なら勿論、男の子でもそんな事されたら、かなり辛いはずだから…」
「…」
直君は、少し辛そうに話し続けていた。 …良かった。直君は辛いって事が分かってくれているんだ…
「大学に入ってから、僕はここで時々手伝いをしているんだけど、その事に気が付いたのは8月の初めだった。小学校6年生の女の子が便秘の治療の為にやって来たんだ。そこで、そういう治療が行われて… その夜、父さんと言い争ったんだ。『子供なんだからそんなに恥ずかしくない 早く治療して楽にしてあげるべきだ』という父さんと、『子供だって恥ずかしいんだ 相手が子供でも、プライバシーはちゃんと尊厳しなくちゃいけない』っていう僕の意見とぶつかっちゃってね。でも、証拠を見せたら、父さんも納得してくれたから。」
「…証拠?」
…恥ずかしくて辛い証拠って、何?…
「僕はその頃、カルテの整理と薬とかの発注を主にやっていたんだけど、お尻に注射とか浣腸とか直腸診とか摘便とか… とにかく、そういう恥ずかしい治療を人前で受けた年頃の子供は、大体の場合もうここには来なくなっちゃうんだ。全員何年も風邪ひとつ引かないなんて事はあり得ないから、病院を換えちゃったって事だと思うんだ。」
…そうか。そんな環境でお尻に注射とか浣腸とかされたら、絶対にその病院には行かなくなっちゃうよね… …後のふたつは何の事だか分からないけど…
「それを話したら父さんも納得してくれて、ベッドにカーテンを付けたり、大人と同じように処置室で処理したり、他の患者さんにバレないようにするよう看護婦さんに教育をするようになったんだ。」
良かった… アタシは、直君の肩にもたれかかった。
「…梓ちゃん?」
「良かった… この病院だって事否定してくれなかったから、不安だったんだ… でも、直君がそういう考えを持っていてくれて、良かった…」
直君がアタシの頭を撫でてくれる。何だか気持ち良くて、ホッとする… …でも、ちょっと恥ずかしいな…
「…もう大丈夫かな? 治療しちゃおうか?」
「うん、大丈夫…」
「それじゃあ、あっちの処置室でね。おいで?」
そうして、アタシは直君に連れられて、処置室に入った。
・第四章 説明
処置室の中は、色々と知らない物が多くて、何となく重苦しい雰囲気が漂っていた。部屋の左側にはベッド、右側には棚やスタンドがあって、更にその奥には小さな部屋があった。その部屋の入口はドアではなく、カーテンで区切られていた。
「まず、その奥の部屋だけど、トイレになってるから。」
カーテンを開けると、普通のトイレの個室よりも広いスペースの中に、洋式の便器が設置されていた。そして、あちこちに手すりも付けられていた。
「ここだけ洋式なんだね。それに、結構広いね。」
「うん。レントゲン室と処置室は、5年前に建て増しした部分だから、まだ新しいんだ。あと、車椅子とか松葉杖の人でも楽に入れるように、ドアじゃなくてカーテンで仕切って、中も広くなってるんだ。」
ベッドに腰を下ろすと、直君はビーカーみたいな容器から何かを取り出して、タオルで拭いてからアタシに渡してくれた。
「はい。これが病院で使う浣腸だよ。」
「こ、これ…?」
渡されたのは、袋に入ったままの、オバケみたいな浣腸だった。さっきアタシが使ったのに比べて、薬の入っている膨らみは2倍位大きくて、お尻に入れる部分は15センチ位ある。そして、温かい。でも…
「病院の浣腸って、注射器みたいなのだって思ってたんだけど…」
「梓ちゃん、浣腸器知ってるんだ。」
直君のその言葉で、アタシの顔は赤くなった。や、やだ… まるで、それを使って浣腸した事があるみたいじゃない…
「…しょ、小学校の時の理科の実験で使った事あるから… …確か、空気圧の実験…」
「あっ、ごめん… 変な意味で言ったんじゃないからね? ついこの間まではその浣腸器を使っていたんだけど、扱いが面倒だし、壊れやすいし、消毒も大変だから、先月からこの使い捨てタイプに切り替えたんだ。薬代はちょっと高くなるけど、消毒とかの費用を考えると同じくらいになっちゃうから。それに、使い終わった後の処分も簡単だからね。」
そう言うと、直君はアタシの隣に腰を下ろした。
「袋を開ける前に、一応使い方だけ説明するね。袋から出したら、チューブを上に向けたままで、ここのコネクタをカチッて鳴るまで回してね。それからチューブのここを持ってキャップを回しながらはずしてね。その時容器を持つと、薬がこぼれちゃうから気を付けてね。」
直君は、浣腸を手にとって、手振りを交えて説明してくれた。
「う、うん…」
「準備が出来たら、トイレの中でいいから、屈んでお尻にゆっくりチューブを差し込んでね。差し込む深さだけど、ここの5って書いてある所位までは入れてね。ただし、10って書いてある所より深く入れないでね。それと、痛かったら無理しないで、ちょっと角度を変えて入れ直してね。心持ち後ろに向けて入れた方が入れやすいから。」
「あ、あの… 油みたいなのって、塗らなくてもいいの…?」
先月アタシ達が使った時は、油を塗らないと痛くてお尻の穴に入っていかなかったから…
「大丈夫だよ。キャップを取ると、先端に潤滑剤が塗られているから。もし滑りが悪かったら、この潤滑剤をトイレットペーパーにちょっと出して、チューブとお尻に塗ってね。」
そう言って、直君はチューブに入った薬を渡してくれた。何とかゼリーって書いてあるけど、チューブが潰れていて、何て書いてあるかは良く分からない。
「くれぐれも、深く入れすぎたり、無理して入れないでね。もしも腸を傷付けちゃうと、救急車を呼ばなくちゃいけなくなる場合もあるからね。」
救急車!? 浣腸って、失敗すれば命に関わるような危険な治療だったの…? その一言で、アタシはいきなり怖くなっちゃった…
「後は普通の浣腸と同じで、お尻に入ったら、ゆっくりと容器を潰してからチューブを抜いて、お尻をトイレットペーパーで押さえてトイレに行ってね。出来るだけ我慢してから出しちゃえば終わりだから。」
「…こ、こんなに一杯入れるの…?」
「うん。市販の浣腸は最低限の量しか入っていないんだけど、病院の浣腸は十分な量が入っているから、大きめなんだよ。これ1個で、市販品2個分位の薬が入っているからね。薬の成分は市販品と同じだから、心配しないでね。」
「…それに、どうしてそんなに深くまで…」
「直腸の中で一番便意を感じる場所って、肛門のすぐ内側にあるんだ。そこから遠ければ遠いほど、要は深いほど便意を感じにくくなるんだ。だから、深い所に薬を入れると、便意が起こりにくくて、我慢しやすくなって良く効くからね。」
「…もし、もしも腸を傷付けちゃったら、どうなるの?…」
「軽傷の場合は、簡単に言うと切れ痔になっちゃうんだ。そうするとそこから薬が血管に入って、腎不全を起こしちゃう事があるんだよ。深く入れすぎた場合は、チューブが腸を突き破っちゃう事もあるんだ。どっちにしろ、すぐ救急車を呼ばなくちゃいけなくなっちゃうから。だから、入れる時は注意してね。あと、容器を勢い良く潰して、薬がすごい勢いで出た時も、水圧で傷が付いちゃう事もあるから、必ずゆっくり潰してね。」
「う、うん…」
「あと、汚さないように下は脱いじゃった方がいいと思うよ。全部終わるまで、僕はここから出てるから、心配しないでね。それと、何かあったら、このスイッチを押してね。インターフォンで外と話せるようになってるから。」
「う、うん…」
「それじゃあ、頑張ってね。」
直君は、再びアタシに浣腸を渡して、ベッドから腰を上げた。そして、処置室から出ていこうとする…
「ま、待って!」
「梓ちゃん?」
アタシは、大声で直君を呼び止めていた。
「…その… …やっぱり、怖い… …この薬、アタシじゃあ危なくて使えそうにない…」
「大丈夫だよ。そんなに危ない薬じゃないから。ゆっくりと慎重にやれば大丈夫だからね。」
「…で、でも… …やっぱり、怖い…」
「…それじゃあ、しょうがないね。近くに薬局があるから、市販の浣腸を買ってきてあげるよ。さっき梓ちゃんが使っていたのと同じのだから、それならひとりで使えるよね?」
直君はちょっと困った顔をした後で、そう言ってくれた。確かに、普通の浣腸ならひとりで使えるから、そんなに恥ずかしくない。 …でも、アタシは、首を横に振った。
「…お、お願い… …直君、アタシにその浣腸をして?…」
「えっ? で、でも…」
「…いいの。もう、さっき見られちゃったんだから、これからちょっとくらい見られちゃっても…」
「…わ、分かったよ… …でも、極力見ないようにするから…」
「うん… ありがとう…」
真っ赤になっちゃった直君に、アタシは同じく真っ赤になってお礼を言った。 …男の人って、やっぱり見たいんだよね? でも、見ないって言ってくれる直君の心遣いが、とっても嬉しかった…
アタシは、さっき受け取った浣腸を直君に返した。直君はそれを受け取って、しばらく見つめてから、こう言った。
「ねえ、梓ちゃん。量が少なくてお腹が痛くなっちゃう薬と、量が多くてお腹があんまり痛くならない薬と、どっちがいいかな?」
「えっ?」
お腹があんまり痛くならない薬?
「そ、そんなの有るの?」
「効き目の弱い薬を大量に使う方法があるんだよ。弱い薬だからお腹が痛くなりにくいけれど、量が多いから確実に効くんだよ。浣腸っていうより、お腹の中を洗うって言った方が近いかもね。」
「も、もう… …そんなに良いのが有るんだったら、最初からそれを教えてくれてれば…」
そんなに良い薬があるのに、何でお腹の痛くなる薬なんか使わせようとしたんだろう?
「それがね、薬の量が多いから、道具が大がかりになっちゃうんだ。点滴をするような道具を使うんだけれども、とてもひとりで使えるような物じゃないんだ。つまり、それを使うんだったら、僕がしてあげなくちゃいけない訳で…」
「…ひょっとして、アタシにするの、嫌だった?…」
…もしもそうだったら、本当にごめん… …でも、さっきの話を聞いて、浣腸自体が少し怖くなっちゃったんだ…
「えっ? そうじゃなくて、その間直接見られちゃう訳だから、絶対に嫌がると思ったんだ。それに、時間がかかる浣腸だから、恥ずかしい時間も長くなっちゃうから。でも、僕がしてあげるんだったら、これを使えるかなって思って… …それで、どっちにする?」
「…恥ずかしいけど、痛くない方がいい…」
アタシは、更に真っ赤になって、そうつぶやいた…
・第五章 治療
「うん、分かった。準備するから、ちょっと待っててね?」
直君は、そう言って部屋の奥に向かった。点滴用のスタンドに、ガラスで出来た容器をぶら下げた。そして、その容器の下に透明なビニールチューブを繋いで、その先にオレンジ色のチューブを繋いだ。
「そ、それでするの…?」
「うん。このオレンジ色のチューブをお尻の中に入れると、点滴みたいに自動で入っていくからね。」
それから直君は、透明なチューブをクリップみたいな物で挟んで、ガラス容器に計量カップでお湯を注ぎ始めた。 …えっ? 直君は、1リットルくらい入っちゃいそうな計量カップで、2杯もお湯を注いでいた。 …あんなに入れられたら、アタシのお腹、パンクしちゃう…
「そ、そんなに入れるの…?」
「ああ、これね。大丈夫、器具を温めているだけだから。なるべくお腹に負担が掛からないように、お風呂よりちょっとぬるめ位に温めた薬を使うんだけど、器具が冷たいと冷めちゃうからね。実際に入れるのは、0.5リットルくらいだかね。」
「…それでも結構多いと思うけど、大丈夫なの?…」
「大丈夫だよ。普通に使われている量だからね。多めに入れた方が良く効くけど、苦しかったらすぐに止めるからね。」
そう言いながら、直君はアタシが腰掛けているベッドの所までやって来て、ベッドの下から毛布と小さめのシーツを取り出した。シーツをベッドの下半分に掛けて、足下に毛布を置いて、今度は薬棚へと向かった。何かの薬の瓶を取り出して、それを秤を使ってで慎重に計っていく。そして、その薬をさっきの計量カップに入れて、重さと温度を測りながらお湯を注いでいった。
「…あれ? …0.5リットルじゃなかったの?」
1リットルの計量カップは、どう見てもお湯が並々と注がれているように見えた…
「これで丁度1リットルなんだ。ちょうどいい量だから、調合もしやすいんだよ。それに、薬がいっぱいあった方が冷めにくいからね。」
「そ、そうなんだ…」
それから直君は、オレンジ色のチューブの先端を流しに置いてから、クリップを外して中のお湯を捨て始めた。それと同時に、水漏れがないかチェックしているみたい。お湯が全部流れ落ちてから、直君は透明なチューブを再びクリップで挟んだ。そして、さっき作った薬をガラスの容器に注いで、クリップを外した。薬がチューブの先からちょっと流れたところで、再びクリップでチューブを挟んで流れを止めた。
「…さて、準備出来た。それじゃあ梓ちゃん、僕は部屋から出ているから、準備してくれるかな? 下半身裸になって、こっちを頭にしてベッドに仰向けになってね。その後で、腰まで毛布掛けちゃっても良いからね。」
「…う、うん…」
「それじゃあ、準備出来たら、インターフォンで教えてね。」
そう言って、直君は処置室から出ていってくれた。 …これから、その… …あんなに一杯、入れちゃうんだよね?… …そして、見られちゃうんだよね?… …直君の事信じているけど、怖くて、恥ずかしい… …でも、自分でさっきの薬を使うのよりも怖くなさそうだし、苦しくなさそうだし… …直君もアタシの事心配して、こんな汚い治療をしてくれるんだよね?… …だったら、アタシも心を決めないと… アタシはスカートとパンティとソックスを脱いで、脱衣籠に入れる。直君にパンティを見られるのが恥ずかしいから、スカートを一番上にして… そして、ベッドに横になって、毛布を腰まで掛けた。そして、インターフォンのスイッチを入れる。
「…直君、あの…」
『梓ちゃん、もう良いかな?』
「…うん、準備出来たよ…」
『うん。これから行くからね。』
インターフォンが切れると、すぐに直君が入って来た。
「それじゃあ、早速やっちゃおうか。なるべく恥ずかしくないように、早めにするからね。」
「…うん…」
「まず、そのまま左向きになってね。そして、右の膝をちょっと前に出して。」
「…うん…」
アタシは、その言葉に従った。直君の方にお尻を向けて… …四つん這いにさせられるかと思っていたけど、それよりも見られにくそう。ちゃんと、見えないように考えていてくれているんだ…
「次に、ちょっと右手を出してくれるかな?」
「…えっ? うん…」
「そして、ちょっとここを押さえていてね。」
「ひぁっ!?」
アタシが右手を出すと、直君はその手を取った。そして、お尻の下…アタシの大事な場所の辺り…に導いた。自分の手だけども、突然そんな所に当たっちゃったから、ビックリして思わす声が出ちゃった…
「あっ、ごめん… ここをちゃんと押さえていれば、毛布が捲れ上がっても見えないと思ったから… ちゃんと言ってからすれば良かったね…」
「…ううん、大丈夫だから、謝らないで…」
「うん… …次は、お尻出すね。」
「…うん…」
アタシが返事をすると、直君は毛布を捲って、アタシのお尻を出した… …急に出たから、スースーする… …とうとう、さっきよりはっきり見られちゃった…
「次に、お尻に潤滑剤を塗るからね。ちょっと冷たいけれど、ビックリしないでね。 …それと、ちょっと触っちゃうけど…」
「…うん… …恥ずかしいけど、いいよ…」
アタシがそう返事をすると、直君はアタシのお尻を開いて…
「うぁっ… ひゃっ!? くぁっ… うぅっ…」
…お尻の穴に、冷たくてヌルヌルする物を塗りつけられた… …ちょっと気持ち悪いし、恥ずかしい…
「それじゃあ、お尻にチューブを入れるからね。気持ち悪いと思うけど、我慢してね。」
「…あの、お尻にそんなの入れて、痛くないの?…」
「大丈夫だよ。太さは指より細いくらいだし、お尻にもチューブにもちゃんと潤滑剤塗ったから。でも、もし痛かったら、すぐに言ってね。」
「…う、うん…」
「それじゃあ、入れるね。」
再び直君がアタシのお尻を開いた。そして…
「くぁっ… うぁっ!? う、うぁぁっ…」
…お尻の中に、入って来た… …普通の浣腸よりも、とっても太い… …お尻の中が、とっても熱く感じて、気持ち悪い…
「どう? ちゃんとお尻に入ってる?」
…えっ? 何でそんな事聞くの?… …もしかして、何かまずい事でもあったの?…
「う、うん。大丈夫… …もしかして、変な手応えがあったとか?…」
「いや、大丈夫だよ。ただ、女性には間違った所に入っていないか、確認する決まりだから。」
「…ま、間違った所って…」
…間違えて入れる? …お尻の穴と? …女性には? …お尻以外の穴!?
「…ばっ、馬鹿!!」
その言葉の意味を理解した途端に、アタシは叫んでいた。いきなり、何て事を言うのよ!?
「ごめんね。でも、本当に間違えちゃうと悪いし…」
「…でも、あんなに見た目が違うのに、間違える筈無いじゃない… …直君だって、見た事あるんでしょ…」
「…いや、その… …まだ、見た事無いから…」
…えっ?…
「…直君、女の人の… …その… …見た事、無いの?…」
「うん。ここでの手伝いは、事務と簡単な治療ばっかりだからね。傷の消毒とか、包帯を巻くとか。だから、そういうのを見ちゃうような治療は、まだしてないんだ。」
「そ、そうじゃ無くて… …その… …彼女、とかは?…」
「えっ? 彼女?」
「うん、恋人… …大学生にもなれば、その… …エッチな事とか… …あ、あの…」
「その… …まだ、恋人はいないから…」
「そ、そうなんだ…」
…そうか、いないんだ…
「…やっぱり、変だと思う? この歳になって、大学生にもなって、その…」
「ううん… …ごめんね、変な事言っちゃって…」
「いいよ、気にしてないから。だから、梓ちゃんも気にしないでね?」
「うん…」
『…』
そして、沈黙が訪れた… …どうしよう、気まずいよ…
「…治療、続けてもいいかな?…」
「あ… …うん、続けて…」
「それじゃあ、もうちょっと奥まで入れるからね。」
「…うん… くぅぅっ…」
再び、さっきの気持ち悪さが襲ってきた。そして、その違和感はお尻の奥深くまで進んで、ようやく止まった。
「…こ、こんなに奥まで…」
「初めにも言ったけど、奥まで入れると我慢しやすくなるんだよ。大体10cm位入ったからね。」
そう言うと、直君は後ろで何かをカチャカチャ動かし始めた。たぶん、薬の入ったガラス容器を動かしているんだろうけど、その時の揺れがアタシのお尻に入っているチューブに伝わって来る…
「それじゃあ、これから薬を入れるからね。痛かったり、我慢出来そうになかったら、すぐに言ってね。」
「…う、うん…」
「それじゃあ、入れるよ。」
再び、チューブが少し動いた。そして…
「うあっ!? ぐぅっ… うぅっ…」
お尻の奥に、温かい気持ち悪さが襲ってきた。お尻の中で暴れて、お腹まで駆け抜けていく。さっきのチューブを入れる時よりも、何倍も気持ち悪い。 …だ、駄目! こんなの我慢出来ない!
「うぁぁっ… …あっ?」
「梓ちゃん、大丈夫? 痛くない?」
突然、アタシを襲っていた気持ち悪さが止まった。そして、直君が心配そうに声をかけてくれる。 …そうか、心配して止めてくれたんだ…
「…痛くないけど、とっても気持ち悪かったから… …今のは、あんまり我慢出来そうに無いよ…」
「初めてだから、やっぱり気持ち悪いよね? もうちょっとゆっくり入れるようにするからね。」
「…うん、お願い…」
そうすると直君は、また後ろで何かをカチャカチャ動かし始めた。
「よし、これで… それじゃあ、また入れるからね。」
「…う、うん…」
「それじゃあ、入れるよ。」
「うぅっ…」
その声を合図に、またさっきの気持ち悪さが襲ってきた。でも、さっきほど酷くは無い。この位なら、余裕で我慢出来そう。
「どう? 大丈夫?」
「うん、大丈夫… これ位なら、我慢出来るよ…」
「それじゃあ、しばらくそのままでいてね。ちょっとゆっくりだから、しばらく時間がかかっちゃうけど…」
「うん、大丈夫だから…」
『…』
アタシが返事をすると、再び沈黙が訪れた。 …な、何だか気まずいな… …何か、何か喋らないと…
「…ねえ、直君… …今、好きな人っているの?…」
つい、アタシは、さっきの事を聞いてしまっていた。 …アタシの馬鹿! 気まずくなった原因のひとつが恋人の話だったのに、その事を聞き直してどうするの!
「…うん、いるよ。ずっと昔から、好きだって想っている人が…」
直君は、ちょっと困ったように、そう答えてくれた。 …やっぱり、いるんだ…
「…告白、しないの?…」
「…正直、少し怖いんだ… …その人にとって、僕は多分恋愛対象外だから…」
…恋愛対象外? …どういう事なの?
「そういう梓ちゃんこそ、恋人とか好きな人はいるの?」
今度は、直君がそう聞いてきた。 …直君は答えてくれたんだから、アタシもちゃんと答えないと…
「うん… 恋人はいないけど、アタシもずっと昔から好きな人がいるの… アタシも怖くて告白できないけど… …その人も、アタシの事を恋愛対象として見てないと思うから…」
『…』
…やっぱり、かえって気まずくなっちゃったな… …アタシってば、何であんな事聞いちゃったんだろう…
「…今、どうかな? 痛かったり気持ち悪くない?」
「うん、大丈夫… お尻は気持ち悪いけれど、お腹はじんわり温かくって、ちょっと気持ちいいかも… …あっ…」
「大丈夫、変な事じゃないから。お腹が気持ちいいって思っちゃう人も、結構いるみたいだからね。」
『…』
「…ねえ、さっき言ってた、チョクチョウシンとかテキベンって、何の事なの?…」
「直腸診って言うのはね、お尻の穴に指を入れて、中を調べる診察の事だよ。摘便は、浣腸しても出なかった時に、指でお尻の穴から掻き出す治療の事だよ。 …あっ、ごめん。変な事言っちゃって…」
「…ううん、いいよ… …聞いたの、アタシだし…」
『…』
…ど、どうしよう… …話せば話す程段々と気まずくなっていっちゃうよ…
・第六章 後始末
…しばらくすると、だんだんとお腹が苦しくなってきた。直君の言ったとおり、お腹は痛くないんだけど、だいぶ張ってきたみたい。左手でお腹を撫でてみると、さっきよりちょっと膨らんでるような気がする…
「…ねえ、直君… …まだ、入れなくちゃ駄目?… …アタシ、そろそろまずいかも…」
アタシは、直君にそう告げた。
「…えっ? あっ、そろそろいいかな? それじゃあ、止めるよ。」
「…うん… うぁっ…」
直君がそう言って、薬を止めてくれた。その時に、ちょっとチューブが動いて、アタシはまた声を出してしまっていた…
「それじゃあ、チューブを抜くからね。」
「…う、うん… くうぅっ…」
お尻に入っているチューブが引っ張られると、入れる時とは違う気持ち悪さが襲ってきた。その気持ち悪さに、お尻から力が抜けちゃいそうになって、アタシはあわてて力を入れた。
「うぅっ… くぁっ!?」
チューブがお尻から完全に抜けた。その瞬間に、お尻に今までより強い気持ち悪さが襲ってきた。全力でお尻を閉めている時に太いチューブが抜ちゃったから、その反動なのかな…? や、やだ… お尻に奥から押し寄せて来て、出ちゃいそう…
「…よし。それじゃあ、トイレに行っていいよ。僕は外に出てるからね。」
直君はそう言って、急いで出口に向かっていった。後ろだから見えないけれど、足音でわかる。アタシは、トイレに行こうと体を起こして…
「うぁっ!? くぅっ…」
…体を起こそうとした瞬間に、お腹に力が入っちゃって、一気に出ちゃいそうになっちゃった… …ど、どうしよう、動けない… …こ、このままだと…
「うぅっ… …な、直君…」
「…梓ちゃん?」
アタシが必死に直君に呼びかけると、直君は再びベッドの近くに来てくれた。 …どうしよう、じっとしてても、だんだんと出ちゃいそうになって来ちゃった…
「…も、もう出ちゃいそう… …どうしよう、動けない…」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って! もうちょっとだけ我慢してて!」
「…う、うん… …うぅっ…」
直君は慌ててそう言うと、後ろの棚から慌てて何かを取り出したみたい。
「梓ちゃん、これからお尻に容器を当てるから。ちょっと冷たいけど、ビックリしないでね。」
「…う、うん… …うぁっ…」
直君がそう言うと、毛布の上から、アタシのお尻に何か冷たい物を当てた。お尻の穴にじゃなくて、お尻全体を覆うような大きな物が。 …これって、一体何?…
「ちょっと、毛布を取るからね。見ないようにするから、心配しないでね?」
「…うん… …ひゃっ…」
今度は、毛布を下の方に引っ張った。アタシと容器に挟まれていた毛布が抜ける。そして、その毛布を、改めて容器とお尻の上から掛け直してくれた。
「それじゃあ、このまま仰向けになってね。お尻の下に容器があるから、ちょっと苦しいと思うけど、もうちょっとだけ我慢してね。」
「…う、うん… …うぅっ… …くぁぁっ…」
直君の指示に従って、アタシは仰向けになった。お腹がちょっと反っちゃって、さっきよりも苦しい… …どうしよう、尚更動けないよ…
「…よし。それじゃあ、このまま出しちゃっていいからね。」
「…えっ? …このまま、って?」
…どういう事? …このままって、ベッドの上で?
「今、お尻の下に便器を入れたから。このまま出しちゃっても大丈夫だよ。」
「えっ!?」
べ、便器って… トイレじゃなくて、ベッドの上で?… …や、やだっ! こんな所でなんて恥ずかしい…
「や、やだ… 恥ずかしいから… …お願い、トイレで…」
「ごめんね。恥ずかしいのは分かるけど、姿勢を直すだけで我慢出来ない程苦しいんだったら、どうやってもトイレには間に合わないから。」
…確かに、そうだけど… …もう、全然動けないけど…
「…そ、それに… …見られたくない…」
「大丈夫、僕は外にいるから。絶対に見ないから。」
「…う、うん… …分かった…」
「僕が出たら、ちょっと両膝を立ててね。そうした方が楽になるから。そ、それじゃあ、終わったらインターフォンで呼んでねっ!」
「…あっ…」
そう言い終わると、直君は慌てて出ていって、ドアを閉めた。 …そうか、アタシがすぐに出せるように、見ないように、慌てて…
「…んぁっ…」
…それでも、こんな所でなんて、やっぱりやだ… …やっぱり、トイレで… …まずは、起きあがって…
「…うぁっ! …ああ… …やだ…」
…体を起こそうとした瞬間に、ちょっと出ちゃった… …やだ… …アタシ、ベッドで… …誰もいないんだけれど、こんなの恥ずかしい…
「…うぅっ… …くぁっ…」
…出て来るのを一生懸命止めようとするんだけど、一度出始めたそれは、なかなか止まってくれなかった… …少しずつ、薬が出ていっちゃう… …こんなの、やだ…
「…そ、そうだ…」
…せめて、塊だけはトイレで… …ここで、薬だけ出しちゃって… …アタシはそう思って、お尻の力を抜いて、両膝を立ててから、少しだけお腹に力を入れた…
「…あ… …や、やだ…」
お腹に力を入れたとたん、さっきより勢い良く薬が出ていった。勢い良く便器に当たって、大きな音を立てながら… …は、恥ずかしすぎる… …でも、もうちょっとだけ出してから、トイレで…
「…うぅっ… …うぁっ!?」
突然、アタシのお尻から塊が飛び出した。あまりにも突然だったので、反射的にお腹に力が入っちゃって、残りも大きな音を立てながら出ていった…
「…あぁっ… …だ、駄目… …うぁぁっ…」
…もう、その勢いを止める事は出来なかった… …アタシは、ベッドの上で全部出しちゃったんだ…
「…ぐずっ… …ひっく… …うぅっ… …うあぁっ…」
…もう、こんなのやだ… …涙が、涙が止まらない… …アタシも、昔この病院で診てもらった女の子みたいに、酷い目に…
「…あれ?…」
いや、違う… 直君が気を遣ってくれたから、この位で済んだんだ… それに、直君の言ったとおり、お腹もほとんど痛く無かったし、スッキリしたし…
「…直君、ありがとう…」
…そうだ、終わったから、直君に教えないと… アタシは、インターフォンのスイッチを入れた。
「…直君…」
『梓ちゃん、どう? 具合悪くない? 大丈夫?』
直君の声は、とっても不安そうだった。 …アタシの事、心配してくれてたんだ…
「…うん、大丈夫…」
『それと、その… …どうだった?』
「…うん、その… …ちゃんと、出たから…」
『そうか、良かった…』
とっても恥ずかしかったけれど、あたしは正直に報告した。直君も、それを聞いてやっと安心したみたい。
『それじゃあ、これから片付けに行くから。』
「えっ?」
片付けるって、道具の事…? まさか、アタシが出した物も…?
「だ、駄目っ!」
『梓ちゃん?』
アタシは、つい叫んでしまっていた。部屋の中は、アタシが出した臭いで充満してるから嗅がれたくないし、何より、出した物なんて絶対に見られたくない!
「…今、見られたくないし、嗅がれたくない… …出来るだけ、アタシが片付けるから……」
『…そ、そうだよね… …気が回らなくて、ごめん…』
「…ううん…」
『…それじゃあ、トイレットペーパーは枕元にあるから。それと、中身はそのままトイレに流しちゃっていいからね。便器はトイレットペーパーで軽く拭いて、トイレの横のポリバケツに入れておいてね。あと、トイレの中にある消臭スプレー、使っちゃっていいから。』
「…うん… …ありがとう…」
インターフォンが切れてから、アタシは枕元にあるトイレットペーパーに手を伸ばして、お尻を拭いた。そして、体操でするブリッジみたいに体を反らしてから、便器を横にどけた。
「…こ、こんなに…」
便器の中には、普段からは信じられない程大量の… …お腹の中の物が全部出ちゃったみたいに…
「…やっぱり、この浣腸ってすごく効いてたんだ…」
手に持った便器は、ずっしりと重く感じられた。アタシは、それをトイレまで持っていって、中身を捨てた。 …自分で自分の出した物を片付けるのはとっても惨めだけれど、直君に見られちゃうよりは… 後は、便器をトイレットペーパーでしっかりと拭いて、ポリバケツに入れてから、部屋中に消臭スプレーを撒いた。だいぶ量が減っちゃったけれど、これで臭いも消えたと思う…
「…終わった…」
それから、アタシは手を洗って、処置室を出た…
「梓ちゃん、大丈夫?」
処置室を出ると、すぐに直君が駆け付けて来た。
「…梓ちゃん?」
直君の顔を見た途端、ホッとしちゃって、涙が零れた… …アタシはそのまま直君に抱きついて、直君の胸に顔を埋めた…
「…大丈夫?」
「…ごめんね… …少し、このままで…」
「…うん… …ごめんね。僕のせいで…」
そう言って直君は、アタシを軽く抱きしめて、頭を撫でてくれた。こうしてもらうと、すごくホッとする… …でも、何で謝るの?…
「…何で、直君が謝るの?… …『僕のせい』って?…」
「…治療してる時、何となく気まずくて、ずっと薬棚を見ていたんだ。そうしたら、ちょっと薬が多く入っちゃって… …僕が気を付けていれば、あんなに恥ずかしい思いをさせなくて済んだのに… …本当にごめんね…」
…そうか… …それで、あんな急に出ちゃいそうになっちゃったんだ… …でも…
「…いいよ。怒ってないから… …直君、治療の時に気を遣ってくれてたの分かってるし、本当に痛く無かったから… …それに、スッキリしたし…」
「…ありがとう、梓ちゃん…」
アタシは、そっと直君から離れた。本当は、もう少しこうしていたいけれど、それ以上に直君に心配をかけさせたくなかったから…
「アタシにも言わせて。直君、本当にありがとう… …もう、大丈夫だから。」
良かった。普通に笑顔で言う事が出来た。直君もアタシの笑顔を見て安心したのか、心配そうな表情からいつもの笑顔に戻った。
「それじゃあ、ちょっと待っててね。道具を片付けて来るから。」
「うん。ここで待ってるから。」
そうして、直君は処置室へと入っていった。アタシは診察室のベッドに腰掛けて、直君が出て来るのを待った。
「…あっ…」
…道具って、薬を入れた容器とか、お尻に入れたチューブとか、さっき使った便器の事だよね?… …や、やだ、恥ずかしい… …でも、ずっと放っておく訳にもいかないし、直君になら…
「…全部終わったよ。」
しばらくして、直君が処置室から出てきた。けれど、アタシは真っ赤な顔のまま、俯いていた。直君はそのまままっすぐ歩いてきて、アタシの隣に腰を下ろした。
・終章
「梓ちゃん、今さらだけど… …本当に、僕がやっちゃって良かったの?…」
直君が、ちょっと不安そうに聞いてきた。
「…えっ?」
「…だって、あんな恥ずかしい事…」
「うん… 恥ずかしかったけど、嫌じゃなかったから… だって、好きな人になら見られてもいいかなって思ってたから…」
「…ありがとう。嘘でも嬉しいよ。」
…もう… …嘘なんかじゃないのに…
「…本当だったら、すごく嬉しいけど…」
「…えっ?」
…ちょっと、今の言葉は嬉しいかも… …でも、直君はアタシよりも…
「…そんな風に思っちゃ駄目だってば。だって、直君は昔から好きな人が…」
「いや、だから嬉しいんだけど… 梓ちゃんだって、昔からそんなに想っている人がいるのに、僕なんかが…」
「うん、直君だったから嬉しいの…」
『…』
「…えっ?」
「…あれ?」
…ちょっとだけ、違和感があった。 …アタシ、何か勘違いしてる?
「ちょ、ちょっと、頭の中整理させて…」
「ア、アタシもこんがらがってきたから…」
『…』
アタシが『好きな人に〜』って言ったら、直君は『嬉しい』って言ってくれた。そして、『直君には昔から好きな人が〜』って言ったら、それでも『だから嬉しい』って言ってくれた。 …つまり、直君が昔から好きな人って…
『…エェーッ!?』
アタシと直君は、同時に叫んでいた。そ、それじゃあ、直君もアタシと同じだったの!? 片想いのつもりで、ずっと両想いだったの!? 慌てて顔を上げると、直君もちょうどこっちを向いたところだった。目と目が合って、動けない…
「…ぼ、僕は、ずっと昔から梓ちゃんの事が好きだった。ただ、ずっと従兄としか見てもらえないかと思っていたから…」
「ア、アタシもずっと昔から直君の事が… でも、やっぱり従妹以上に見てもらえないかもって…」
「…これからは、恋人としてもつき合ってくれないかな?…」
「う、うん… アタシも直君と恋人になりたい…」
嬉しさと恥ずかしさに、アタシの目に涙が滲む。アタシはそれを隠すように、直君に抱きついて、直君の胸に顔を埋めた… そんなアタシの頭を、直君は優しく撫でてくれた…
「…あの、直君… …恥ずかしいんだけど、お願いがあるんだ…」
直君へのお願い… …本当はすごく恥ずかしいから言いたくないんだけど、恥ずかしさ以上に直君にお願いしたいから…
「…何?」
「…今日の治療… …また便秘になっちゃったら、直君にしてほしい…」
「えっ!?」
「…やっぱり、自分でやるの、怖いから… …その、嫌だったら、無理には頼めないんだけど…」
「これ位の事嫌がっていたら、そんなの医者として失格だよ。それに、梓ちゃんがそこまで僕の事を信頼してくれている事、梓ちゃんを楽にしてあげられる事、その事の方がとっても嬉しいからね。」
「…直君、ありがとう…」
「ただ、今日と同じ治療は、ここに誰もいない時しかできないんだ。そんな機会は滅多に無いから、別の場所で、最初の使い捨ての薬になっちゃうけど…」
「…それでもいいよ。直君がしてくれるんだったら…」
「…梓ちゃん…」
「…直君…」
アタシが直君の胸から顔を上げると、直君はアタシの顎に手を添えて上を向かせた。そして、直君の顔が近づいて来る。アタシはゆっくりと目を閉じて…、
『…んっ…』
…生まれて初めての、柔らかい唇の感触。それを感じると同時に、アタシは直君を抱きしめていた。直君も、アタシを優しく抱き返してくれる… …ずっと昔から好きだった人と、初めて好きになった人と、今やっと…
「…あっ?…」
…突然、アタシのお腹とお尻に、さっきと同じ感触が… …や、やだ。こんなにいいシーンなのに… …でも、あんまり長く保ちそうにないよ…
「…ご、ごめん… …その…」
「うん、行っておいで。お腹が落ち着くまで、待っててあげるから。」
「…う、うん… …行って来る…」
アタシは慌てて直君から離れると、処置室のトイレに向かって駆け出していった。 …告白、両想い、ファースト・キス。その直後に、こんな… …でも、直君にだったら、別にいいかもね?…
−終−
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