SPACE銀河 Library

作:水薙紫紋

即 効 薬

即効薬 第四話 親友 Side-B


・序章
「本当にいい雰囲気のお店ね。知らなかったわ、こんな近くに…」
「へっへ〜 いい店でしょ? 家族で結構来たんだけど、何頼んでも美味しかったよ。」
「やっぱり、真奈ちゃんも誘えば良かったわね?」
「う〜ん… でも、『委員会が終わるまで1時間位待っててね』ってのは、いくら何でも…」
「それもそうよね… そんな空き時間があったら、多分早く帰って恋人と会いたいだろうし…」
「今日は下見って事にして、今度は3人で来こうよ?」
「うん。じゃあ、近いうちに3人で。」
「…でも、真奈って羨ましいよね〜 私達の中で彼氏がいるの、真奈だけだもんね〜」
「幼馴染みから恋人同士か… なんか憧れちゃうよね…?」
「…言っておくけど、いくら幼馴染みだからって、アタシはそっちの趣味は無いからね…」
「…そんなの、私だってある訳無いないじゃない…」
「…あ、そういえばまだ何も注文してなかった… 決まった?」
「え〜と… うん、決まったわ。」
「すいませ〜ん! 注文お願いしま〜す!」

 私は瑞穂理奈(みずほ りな)。現在高校2年生。今、目の前にいる梓とは、小学校時代からの幼馴染み。高校生になってからは、私達と同じクラスになった真奈ちゃんと一緒に、よく3人で遊んでいるの。2年になって、真奈ちゃんとはクラスが離れてしまったけれど、今でも変わらず仲のいい友達。
 落ち着いた雰囲気のある喫茶店で静かに読書を楽しむって素敵… …と思って梓に相談したら、駅前にある喫茶店を紹介してくれたの。こんな所で? と思ったけれど、店内はとっても落ち着いた雰囲気で、本当に私の希望通りのお店だった。本当は真奈ちゃんも誘いたかったんだけど、私も梓も委員会があって遅くなっちゃったから、今回はふたりだけ。梓が言うには、何を頼んでも美味しいらしいので、ケーキも一緒に頼もうかなと思ったんだけど、今日は…


・第一章 発覚
「あれ? 梓、コーヒーだけでいいの? ケーキとかは?」
 梓は、女の子としては結構食べる方なんだけども、今はコーヒーしか頼んでいない。
「うん、ちょっとね…」
「ダイエット?」
 いくら食べても太らない体質を自慢してたから、そんな事は無いとは思うんだけど…
「う〜ん… まぁ、ちょっと食欲が無くて… そういうリナこそ、紅茶だけ? 甘党党の党首なのに?」
「…何それ? その、ちょっと風邪気味で、お腹の具合が…」
「あれ? 風邪って治ったんじゃなかったっけ?」
「風邪薬でほとんど治ったけど、お腹の具合だけちょっと…」
 そう言いながら、私はカップを傾ける。確かにお腹の具合が悪くて、そのせいで食欲も無い。でも、どんな具合なのかを知られたくないから、わざと勘違いされやすいようにそう言った。
「…出ないの?」
「!! ケホッ ケホッ…」
 いきなり言われて、私は噎せ返ってしまった。の、喉が熱い…
「だ、大丈夫!?」
 梓が慌てて私の背中をさすってくれた。でも、まだ苦しい…
「ちょ、ちょっと… …い、いきなり何を言うのよ…」
 何とか呼吸が整ったところで、目に涙を滲ませたまま、梓に抗議する。
「ごめんごめん… でも、風邪薬ってそうなっちゃいやすいし…」
 …何でそっちの方に考えが行っちゃったのかと思ったら、そう言う事だったの… …せっかく、勘違いしてもらおうと思っていたのに…
「…うん、そうなの… …風邪薬飲んでから、出なくなっちゃって…」
「いつから?」
「…月曜日からだから、今日で4日目…」
「結構長いね… ソレの薬とかは?」
 薬… 頭の中に、テレビでよくCMしている、ピンク色の小さい錠剤が頭に浮かぶ。
「まだ、飲んでない… 飲んでみたいけど、いつ効くか分からないから、ちょっと怖いの。通学中とか授業中に効いて来ちゃったら…」
「う〜ん、そうかぁ… 真奈みたいに神経太くならないと、飲めそうにないよね?」
「うん、ちょっと私には…」
 去年の事だけど、授業中にいきなり真奈ちゃんが『おトイレ行ってきまーす!』と言って、本当にそのままトイレに行っちゃった事がある。 …ああいう事は、男の子でもなかなか出来ないよね?
「そっか、飲み薬は駄目か… …じゃあ、入れる方は?」
「!! …そ、それって、まさか…」
 一瞬で顔が赤くなるのが分かる。入れるって、その… …浣腸、しかないよね…? さすがに普通の声で聞くのは恥ずかしいので、小声で聞いてみる。 …けど、恥ずかしくて、顔を上げられない…
「そう、アレ。使った事ある?」
「…ううん、無い… …買いに行くのも恥ずかしいし、使うのも怖いし…」
 …お尻の中に入れるのって、考えるだけでも怖い… …そして、そんな事をするって、買う時にお店の人に知られるのも恥ずかしくて嫌…
「そっか… 確かにそうだけど、すぐ効くからいいと思うんだけどなぁ…」
「…梓は、使った事あるの?…」
「小学校に入る前に、何回かね…」
「…そうなんだ… …どんな感じなの?…」
 梓も恥ずかしいみたいで、顔を赤くして、声を潜めて答えてくれる…
「…容器を入れられる時は、怖いし、とっても気持ち悪かった… …薬が入って来ると、すごく冷たいんだけど、すぐに熱くなって… …そして、下痢の時よりも、すごくお腹が痛くなって、我慢出来ない位出したくなっちゃって… …でも、すぐに出すと効かないからって、しばらく我慢させられて… …でも、その後はスッキリするから…」
「…やっぱり、怖い…」
「…でも、使ってみない? 今日はまだ木曜日だから明日授業あるし、土曜日は部活でしょ? そうすると、あと2日もこのままだよ? もし出なかったら病院に行くしかないけど、日曜日は休診だから、7日間になっちゃうよ? そうなってから病院に行ったら、間違いなくアレをされるだろうし… 絶対に病院でされる方が恥ずかしいから…」
「…うん、そうだけど…」
 本当に、そうなんだよね… このままだと1週間経っちゃうのも、1週間も放っておいたら絶対に病院に行かなくちゃ行けないのは分かってる… 病院に行けば、アレを使われるのも、先生に見られちゃうのも、先生が男の人の可能性がある事も… …けれど、それでも…
「…やっぱり、買いに行くの、恥ずかしいし… …それに…」
「…自分でするの、怖い?」
「…うん…」
「…手伝ってあげようか?」
「…えっ!?」
 手伝うって、何を!? 買いに行くのを? それとも、まさか…
「一緒に薬局に買いに行ってもいいし、その後もやってあげてもいいよ?」
「…な、なんで、そこまで…」
 …そこまでするって、普通、嫌じゃないの?…
「リナの事、心配だから… それに、明日辛そうな顔してたら、真奈も心配するよ?」
「…うん…」
 真奈ちゃんは図太い面もあるけれど、友達の事に関してはとっても敏感で繊細。私達が風邪を引いて具合悪そうにしてるだけで、真奈ちゃんは本気で心配しちゃう。昔、真奈ちゃんの前で、梓と大喧嘩しちゃった事があったんだけど、私達が仲直りするまで、端から見ていられない程落ち込んじゃってた… あの時は、真奈ちゃんの悲しむ顔を見ていられなくて、仲直り出来たみたいなものだった。それからは、全く喧嘩はしていない。真奈ちゃんの悲しむ顔なんて、もう絶対に見たくない… …また、真奈ちゃんに心配させちゃうよりは… …それに、梓になら少しくらい見られても…
「…そうよね、恥ずかしいけど、お願い… …でも、本当にいいの?… …そんな汚い事頼んじゃって…」
「そんな事、気にしないの。一緒にお風呂まで入ってた仲じゃない?」
「…うん… …ありがとう…」
「…じゃあ、そろそろ… …行こうか?…」
「…うん…」
 私達は、喫茶店を出て、次の目的地に向かった。そう、薬局に…


・第二章 買物
「駅前の薬局で買っていこうよ。近いし、品揃えいいし、安いし。」
「ち、ちょっと待って。商店街の薬局に行かない?」
 確かに駅前の薬局はここから近くて、品揃えが良くて、安いけれど、でも…
「商店街の? 結構遠いよ? また何で?」
「駅前の薬局だと、学校の近くだし、お客さん多いでしょ? 知っている人に買う所を見られちゃうかもしれないから…」
 今は帰宅ラッシュの時間に近いから、駅の近くにあるお店は絶対に混んでいるはず。私の学校でも、ちょうど部活が終わる時間だから、知っている人に見られちゃうかもしれない…
「あ、そっか… でも、商店街の薬局って、真奈の家の近くだよ?」
「今から商店街に行くと、6時前になっちゃうから、たぶん家にいると思うし…」
「それもそっか。」
 そうして、私達は駅へと向かった…

 電車を降りて、真奈ちゃんの家の前を通り過ぎて3軒目。その薬局はすぐに見つかった。一応、私達は周りに人がいないのを確認してから、ドアを開けて中に入る。
「あ、いらっしゃいませ。」
 カウンターにいたのは、私達と同い年くらいの、優しそうで格好良い男の子。 …えっ? 男の子?… …買う時に、見られちゃうよね?… …恥ずかしい…
「あ、お店の人、男の子だ…」
「ど、どうしよう…」
「急いで買って帰ろうよ… 多分ここにはもう来ないと思うし…」
「そ、そうね… どこにあるか、聞いてみる?」
「…ううん、聞くのは恥ずかしいから、まず探してみようよ…」
 私達はアレを探して、コソコソと店内を探し回った。時々店員の男の子の方をチラチラ見ていたから、挙動不審に見られちゃっているかも… でも、参考書に熱中しているみたいで、こっちの方は見ていないみたい…
 …でも、いくら店内を探しても、アレは見つからなかった。
「…どうしよう、無いよね?…」
「…しょうがない、聞こうか… …あ、あれ…」
「…あ、あんな所に…」
 店員の男の子がいるカウンターの後ろに、棚が3つあった。その棚の上には、『風邪薬・鎮痛剤』『便秘・整腸・胃腸薬』『栄養剤・ビタミン剤』って書いてあった。店員の男の子と顔を合わせるのが恥ずかしかったから、一番目立つ所なのに見つけられなかった。その棚の中にある物を買うには、店員の男の子に頼んで取り出してもらわなくちゃいけない…
「…行こう、リナ。このままじっとしてても、どうにもならないし…」
「…う、うん…」

「…あの、すみません…」
「はい? 何でしょうか?」
 男の子は、参考書から顔を上げて、聞き返してくる。
「…そ、その… …か、か… …ええと…」
 だ、駄目… …恥ずかしくて、声が出ない… …また、顔が赤くなっちゃう…
「…あの、浣腸って、ありますか?」
 私が吃って聞けないうちに、梓が聞いてくれた。
「あ、はい。大人用30gでよろしいですか?」
「…は、はい…」
 大人用って… 私が使うって事、バレちゃった…?
「では、こちらで。中に2個入っていますので。」
 カウンターの奥の棚から、1箱取り出して、説明してくれる。 …早く買って、帰っちゃおう…
「…それを2箱、お願いします…」
 突然、梓がそういった。 …えっ? 何で?
「はい。少々お待ちください。」
「…ちょ、ちょっと… …何で2箱も?…」
「…あれ? すみません。これは1箱で売り切れでして… 5個入りならありますけど、どうしますか?」
「…じゃあ、それでお願いします…」
 梓が頷く。その時、私は棚を見て、ある事に気が付いた。
「…あ、あの… …そっちの箱は違うんですか?」
 棚の中には、さっき店員の男の子が出してくれた物と同じ位の大きさの箱があった。デザインは全然違うけれど、間違いなく浣腸って書いてある…
「あ、これですか? こちらと中身は同じなんですけど、値段が高いので、あまりお薦め出来ませんが… …どうしますか?」
「…さっきのでいいです…」
 梓がそう答える。 …何でこんな事聞き返しちゃったんだろう? 店員の男の子と顔を合わせている時間が長くなっちゃうだけなのに…
「はい。それでは、294円になります。」
「…こ、これで…」
 梓がお金を取り出して、店員の男の子に渡した。
「はい。では、1,000円お預かりします。706円のお返しに…」
 後ろで、お店のドアが開く音がする。 …誰か来ちゃった?
「ふにぃ、こんにちは〜 タカちゃん、いる?」
『!!』
 う、嘘!? 今の声、まさか… タカちゃんって… …まさか!?
「あ、マナちゃん。今お客さんが来てるから、ちょっと待っててね。」
 ま、真奈ちゃん!? じゃあ、この人が、真奈ちゃんの恋人の神城さん!?
「にゅ? アズみんにみずりーじゃない? お買い物?」
「真奈ちゃん!?」
「真奈!?」
 慌てて振り返ると、そこにはいつもの…真奈ちゃんがいた。
「…えーと…」
 神城さんが、困ったような声をあげる。
「タカちゃん、前に話した友達の上川梓ちゃんと瑞穂理奈ちゃんだよ。んで、アズみんとみずりー、この人が神城高志ちゃん。」
 ま、真奈ちゃん… お願いだから、私達の事なんか教えないで… こんなの買っている時に…
「んに、何買ったの?」
「駄目ぇっ!!」
「真奈っ!!」
「マナちゃん!!」
 真奈ちゃんがカウンターを覗き込んできた。私は咄嗟に両腕を広げて、一歩前へ出た。真奈ちゃんからカウンターを隠すように。そして、梓は真奈を押し戻していた。
「うわぁっ、おっとっと… …あっ…」
 …あれ? 何で?… 何故か、真奈ちゃんの体が横に動く。そっか、覗き込もうとして体を傾けているところを押されたから… …あれ? でも、そうすると… …だ、駄目っ!
『…』
 私は、固まったまま動けなかった… 梓が、ゆっくりと振り返る。梓が真奈ちゃんを押し返さなければ、私が盾になって、カウンターは見えなかったはず。私が前に出なければ、真奈ちゃんが梓に押し戻された場所からでもカウンターは見えなかったはずだった… ふたりが同時に動かなければ… 私は、恐る恐る後ろを振り返って、更に事態が悪くなっている事に気が付いた。神城さんは、真奈ちゃんに見られる前に、箱を紙袋に入れようとしてたみたい。でも、結局間に合わなくて、箱を持ったまま固まっている。ちょうど、真奈ちゃんからよく見える高さに…
 …みんなが咄嗟に取った行動、それが全て裏目に出ていた…
『…』
「…ご、ごめん… …アズみん、みずりー…」
 真奈ちゃんは俯いて、今にも消えそうな小さな声で、謝ってくる。 …アレが何だか、分かっちゃったよね?…
『…』
 …私達は何も言えなかった… …本当は、『気にしないで』って言いたいのに、言葉が出てこない…
「…あの…」
『…』
 神城さんが、申し訳なさそうに、お釣りと紙袋を差し出す。私は無言で受け取った。梓が、私の手を引いて、真奈ちゃんの横を通り、店を出ようとする…
「上川さん、瑞穂さん。」
『!!』
 店を出ようとした私達を、神城さんが呼び止める。心臓が跳ね上がり、射竦められたように、振り向けないまま動けなくなる…
「心配しないで。僕達、誰にも言わないから…」
 神城さんが、心配そうに、そう言ってくれる。
「…あ、ありがとう…」
 …梓が、小声で答える。 …声を出すのも、やっとみたい… 私も、『気にしないで』って言いたいんだけれども、声が出ない…
「…アズみん、みずりー、本当にごめん…」
 やっと聞き取れるような声で、真奈がまた謝ってきた。
「…い、いいよ、真奈ちゃん… …気にしないで…」
 …本当は真奈ちゃんの顔を見て、微笑んで安心させてあげたいんだけど、どうしても、振り返る事が出来ない…
 そこまでが精一杯だった。あとは振り向きもせず、ダッシュで店から逃げ出す。店から出て、しばらく行った所で、私達は振り返って店を見る。入り口の上に、『神城薬局』と、しっかり看板が出ていた。
「…確かに、真奈の彼氏の名字だよね…」
「…何で気付かなかったの? 神城さんの事、見た事あるんでしょ? 前に『駅前のカフェで見た』って言ってたじゃない…」
「…見たって言ったって、ちらっと見かけただけだもん。しっかりなんて覚えてないよ… リナこそ気付かなかったの? 前に『幼馴染みの〜』とか言ってたじゃん…」
「…私だって、真奈ちゃんに話を聞いた事があるだけだから… …顔まで知らないわよ…」
『…』
「あー、今のは事故! もう忘れよう!」
 梓が勢い良くそう言った。まるで、何かを吹っ切るように。
「そ、そうよね。事故よね事故!」
 私も、梓と同じように声を上げる。もう終わった事なんだ。もうバレちゃったんだから、今更悩んでもどうにもならない。それに、真奈ちゃんと神城さん…真奈ちゃんが選んだ恋人…なら、絶対誰にも言わないから。
「それじゃあ、帰ろうか。」
「うん。 …でも、この後どうする?…」
「…じゃあ、アタシの家で… …今、誰もいないから…」


・第三章 治療
 電車でまた学校の方に戻って、梓の家に向かった。これからの事が頭から離れなくて、ふたりとも無言だった… 学校近くのマンションの3階の一室。ここが梓の家。ちなみに私の家は、同じマンションの5階にある。
「ただいまー」
「…お邪魔します…」
 誰もいないみたいだけど、一応挨拶をして中に入る。梓のお父さんとお母さんは共働きで、この時間はどちらも家にいないらしい。
「…でも、本当にいいの? してもらって…? それに、私の家じゃなくて…? 臭いもあるし、もし、汚しちゃったりしたら…」
「いいの、気にしないで。リナの事、心配で見てられないし。それに、リナの家は今ママがいるんでしょ?」
 …そうよね… …こんな事、お母さんにも知られたくないから…
「…うん… …ありがとう…」
「それじゃあ、リビングに行ってて?」
 私がリビングに向かうと、梓は、トイレからトイレットペーパーを1個持ってきた。改めて、これからやっちゃうんだって実感が湧いて来ちゃう…
「じゃあ、さっさとやっちゃおうよ。薬、出して?」
「う、うん…」
 そうだ、私が持ってたんだった… 私は、鞄から紙袋を取り出して、梓に渡す。顔が赤くなっていくのが、嫌でも分かってしまう…
「あ、あと、お薬のお金だけど…」
「ん? いいよ、終わってからにしようよ?」
「あ、うん…」
 …私、やっぱり、本当は怖いのかな?… …無意識に引き延ばそうとしてる… 梓は、箱を開けてピンクの塊を2個取りだし、そのうち1個を私に渡す。
「? こ、これ…」
「袋に使い方が書いてあるから、一応読んでおいて?」
「…う、うん…」
 私は梓からそれを受け取って、説明書を読んだ。それだけで、顔が真っ赤になっちゃっているのが分かる… 説明書には、これを1個注入する事、出来るだけ我慢する事、効かない場合にはもう1個注入する事と書かれていた。これが、これから私のお尻に… これを1個って、こんな小さいので効くの…? 我慢するって、我慢しなくちゃいけない程苦しくなっちゃうの…?
「…リナ、始めていいかな?」
「!! う、うん…」
 突然梓に呼びかけられて、私は驚いて返事をする。いつの間にか、説明書ではなく、袋の中のピンクの塊を凝視していた… …ひょっとして、説明書じゃなくて中身を見ていたの、気付かれちゃった?…
「それじゃあ、スカートとパンティとか全部脱いじゃって? 汚れちゃうといけないから…」
「あ、うん… …でも、恥ずかしい…」
「気にしなくてもいいよ、女の子同士だし… それに、一緒に何回もお風呂に入った仲じゃない?」
「…うん、でも… …やっぱり恥ずかしいの…」
 恥ずかしいけれど、もうやるしかないんだよね…? 私は、スカートとストッキングを脱いで椅子にかける。
「…あ、可愛いパンティ…」
「…や、やだぁ… …恥ずかしいから、言わないで…」
「…ご、ごめん…」
 梓の一言で、私と、梓の顔が真っ赤になる。フリルがいっぱい付いたピンクのパンティ。確かに可愛いから穿いてきたんだけど、そう言われるととっても恥ずかしい… 普段なら、着替えの途中で、パンティが大人っぽいとか可愛いなんて普通に言っているのに… …やっぱり、ふたりとも意識しちゃってるんだ…
「…い、いいわよ…」
 私は、腰から下は全部脱いで、梓に声をかける。 …さすがに恥ずかしいので、前を手で隠して…
「じゃあ、こっちにお尻を向けて、四つん這いになって。」
「えっ!?」
 そ、そんな格好したら、全部見られちゃう… …いくら女の子同士でも、恥ずかしい…
「…恥ずかしいのは分かるけど、そうしないと出来ないよ?」
「…う、うん…」
 私は仕方なく、梓にお尻を向けて四つん這いになる。顔がさっき以上に真っ赤になっているのが分かる… 梓は、後ろで何かガサガサやっている。薬を袋から出しているんだろうか…?
「…梓、まだ?…」
「うん、今からやるよ。 …あっ…」
 …ひょっとして、今、見られちゃった?… …駄目、恥ずかしいよ…
「…あ、あまり見ないで… …恥ずかしいから…」
「…ご、ごめん… …それじゃあ、始めるけど、いい?」
「…うん… ひゃっ! うぁっ!」
 梓が、私のお尻の穴を指で広げて、何かを当てる。その度に、私はつい体を震わせてしまった… …これから、これが入って来て、それから…
「それじゃあ、入れるよ?」
「…うん、いいよ…」
 梓が、手に力を入れるのが分かる… …浣腸の先っぽが私のお尻の中に…
「痛いっ!」
「あ、あれ?」
 …お尻の中に、入らなかった。お尻の穴に入る前に、滑らないで引っかかっているみたい…
「…ごめんリナ、ちょっと座って待っててくれる?」
「…うん、いいけど… …どうしたの?…」
「入口の所で引っかかって入らないみたいだから、油か何か、塗る物を持ってくるね?」
「う、うん…」
 そう言うと、梓は浣腸のキャップを閉めてから、台所へ行った。私は、とりあえず正座をして梓を待った。しばらくして、梓は手にマーガリンの箱を持って戻ってきた。
「リナ、油あったよ。これを塗っておけば、もう痛くならないよ?」
「ありがとう、梓… …って、そのマーガリンは?」
「これを浣腸の入れる部分とお尻に塗っておけば、ちゃんと滑って入るから、痛くならないと思うんだけど…」
「…確かにそうだけど… …でも、バターナイフで、直接塗るの?…」
「まさか。そんな事しないよ。」
 梓は、トイレットペーパーを畳んで、その上にマーガリンを一欠片落とした。そして、そのトイレットペーパーを使って、浣腸の先っぽにマーガリンを塗った。
「さてと、こっちはこれでいいから、またこっちにお尻向けて?」
「…うん…」
 私は、またさっきと同じく四つん這いになった。梓は、私のお尻の穴を広げて、そして…
「うぁっ! ひゃぁっ!?」
 冷たいっ!? お尻の穴に、突然冷たさが走った。ビックリして、大声を上げてしまった。
「うわっ! ビックリした… リナ、大丈夫?」
「…うん、大丈夫… …何をしたの?…」
「お尻に、さっきの残りのマーガリンを塗ったんだけど… ひょっとして、沁みちゃった?」
「大丈夫… …急に冷たいのが当たったから、ビックリしただけ…」
「そっか。それじゃあ、入れるよ?」
「…うん、いいよ… ひっ! うぅっ!」
 梓が さっきみたいに、浣腸の先っぽを私のお尻の穴に当て、ゆっくりと押し込んだ。今度はスムーズに、中へと入っていくのが分かる。 …けれど、お尻の穴がむず痒くて、背筋がザワッとする感じが、気持ち悪い…
「それじゃあ、薬入れるからね?」
「…う、うん… くぁぁ…」
 その途端、お尻の中に、何か冷たい物が流れ込んできた… つ、冷たいよ… それと同時に、お腹に何か重い違和感が… …こ、今度は熱い、熱くなってきた…
「…よし、それじゃあ抜くから、お尻、注意しててね?」
「うん、大丈夫… ふぁぁっ!」
 梓は、私のお尻から、ゆっくり浣腸を抜き取った。さっきと同じ、ザワッとした気持ち悪さがおそってくる… …あれ? もう、少しお腹が痛くなってきた…
「ごめんね、リナ。もう1回入れるからね?」
「えっ!? 2個目!?」
 私はビックリして、振り返って梓を見る。確か2個目って、効かなかった時の場合じゃないの?
「ううん、違うよ。どうもうまく潰せなかったみたいで、半分くらいしか入らなかったから、もう1回入れ直すね。今度は大丈夫だからね?」
 梓の手にあったのは、薬が半分くらい残った浣腸だった。 …そっか、これで半分なんだ…
「うん、分かった… …ちょっとお腹痛いから、早くやっちゃって…」
「うん、入れるよ?」
「うん… ひぁっ! うくっ! あぁぁ… ひゃっ!?」
 梓は、もう1回お尻の穴を広げて、浣腸を差し込んできた。そして、今度はすぐに薬を入れてきた。うう、気持ち悪いよ… その途端、私のお尻の中に、何かが勢い良く入って来た。それに驚いて、思わず大声を上げてしまった。今のは、一体…?
「リナ、ごめん。ちょっと空気も入っちゃったみたい… じゃあ抜くから、お尻気を付けてね?」
「うん… うぁっ!」
 再び、ゆっくりと浣腸が抜き取られた。また襲って来た不快感とお腹の痛みで、少し出そうになるけれど、何とか我慢できた。梓が、私のお尻の穴をトイレットペーパーで押さえてくれる。それと同時に、かなり強烈な痛みがお腹を襲ってきた…
「どう? お腹痛くない?」
「…結構痛くなって来ちゃった… …もう出ちゃいそう…」
「もうちょっと我慢してね? すぐに出しちゃうと、薬だけしか出ないから。」
「うん、説明書にもそう書いてあったよね? …でも、こんなに苦しいなんて… …うぅっ…」
 入れる前は、あんな少しで効くのかなって思っていたのに…
「大丈夫? まだ我慢出来そう?」
「あ、あんまり我慢出来そうにない… …あ、あれ? 少し痛みが引いたみたい…」
 不思議と、お腹の痛みが引いていった。何でだろう? …ひょっとして、効かなかったの?
「うん、でも気を付けてね? その痛み、強くなったり弱くなったりを繰り返すから。」
「え、そうなの? あ、本当だ… また…」
「どう? もうちょっと我慢できる?」
「…うん、もうちょっと…」
 …でも、今度襲ってきたお腹の痛みには、とても耐えられそうになかった。
「…うぁっ… …今度は駄目みたい… …うぅっ、トイレに…」
「うん、じゃあトイレに行こうね? 押さえててあげるから、ゆっくり立ち上がって。」
「う、うん…」
 私は苦しさに耐えて、ゆっくりと立ち上がった。梓は私の動きに会わせて、漏れないように押さえ続けてくれている。
「そのまま、トイレまで歩こうね? 頑張ってね、もう少しだから…」
「う、うん… …うぅっ… …ありがとう、梓…」
 ゆっくりと歩き続けて、何とかトイレにたどり着いた。そのままふたりでトイレに入って、私は便座に腰を下ろす。梓は、まだ私のお尻を押さえたまま。 …梓がトイレから出ていってくれないと見られちゃう… …でも、お尻から手を離してもらわないと、梓はトイレから出る事が出来ない… …それに、今手を離されたら、すぐにでも出ちゃいそう…
「梓、あの…」
「うん、分かってるから… 手を離すから、10秒だけ我慢してね?」
「うん、それくらいなら何とか…」
 …本当は10秒も我慢出来るかどうか分からない… …でも、我慢出来ないと、梓の目の前で…
「それじゃあ、離すよ?… はいっ。」
 そのかけ声と同時に、梓がお尻から手を離して、ダッシュでトイレから出ていった。そして、急いで扉を閉めてくれる。梓は10秒と言っていたけれど、実際には5秒も経っていない。でも…
「う、うあっ! くぅぅっ…」
 …そこまでが、私の我慢の限界だった。勢い良く、私のお尻から液体と塊と空気が出ていった。やった、ちゃんと出た… …でも、ちゃんと出たはずなのに、まだお腹痛い…
「…んんっ… …くぅぅ…」
 私は、更にお腹に力を入れる。そうすると、少しずつだけれども、お尻から水みたいなのが出ていくのが分かる。それと同時に、お腹の痛みも少しずつ引いていった。 …そっか、お薬がまだ残っていたんだね?… お腹の痛みが無くなったところで、私はお尻を拭いて、水を流した。私を4日間も苦しめた塊は水と一緒に流れていった。トイレから出ると、私のスカートとストッキングとパンティが畳んで置いてあった。出たらすぐに穿けるように、梓が持って来てくれたんだ… …ありがとう、梓…


・第四章 理由
 私は、着替えてからリビングに戻った。梓が少し心配そうな顔をして、聞いてきた。
「どうだった?」
「うん、ちゃんと一杯出たから… …すごく恥ずかしかったけど…」
「そっか、良かったね。」
「うん、ありがとう。 …でも、ごめんね。こんな汚い事させちゃって…」
「…」
 一瞬、梓が黙る。 …やっぱり、嫌だったのかな?…
「…やっぱり、本当は嫌だった?…」
「う、ううん、そんな事無いよ? リナが元気になってくれるのに、嫌なんて事はないからね?」
 梓は、嘘を吐くとすぐに喋り方に出ちゃうタイプなんだけれど、今の言葉にそれは感じなかった。と言う事は、本当に嫌じゃなかったんだね?…
「梓、本当にありがとう…」
 私の言葉に、梓は照れ笑いを浮かべる。ふと横を見ると、浣腸の箱が目に入った。5個入りで今1個使っちゃったから、残りは4個もある。 …何でこんなにいっぱい買っちゃったの?…
「でも、お薬余っちゃったよね? 2個入り1箱で充分だと思ってたんだけど、どうしてこんなに買っちゃったの?」
「…それなんだけどね、リナ…」
 何故か、梓がモジモジして言い淀む。
「どうしたの、梓? そんなモジモジしちゃって?」
「…ひとつ、お願いがあるんだけど…」
「何? 今日のお礼に、私に出来る事だったら…」
 梓の顔は、真っ赤になっていた。一体お願いって何だろう? そんなに恥ずかしい事なの…?
「…あの、その… …アタシにも、それ… …使ってくれないかな?…」
「…えっ?」
 これを使うって… …私が梓に浣腸をするの? 今みたいに?
「梓、どうしたの?」
「…実は、アタシも便秘なんだ…」
「えっ? そうだったの?」
 そうなの? 全然気が付かなかった…
「うん… …土曜日の部活は休むつもりで、明日の夜に薬飲もうと思ってたんだけど、本当は早く出せる浣腸にしたかったんだ… …でも、ひとりで買うの恥ずかしいから、リナと一緒に…」
「そうだったの… それでも、2個入り1箱で良かったんじゃない? ひとり1個ずつで?」
「うん、でも… …失敗しちゃったら、もう1回買いに行かなくちゃいけないんだよ? もう1回恥ずかしい思いをして…」
「そっか、そうよね…」
 …確かに、神城さんのお店でも、他のお店でも、もう一度あんなに恥ずかしい思いをするなんて…
「…あっ! 嫌だったら無理しなくていいからね? 後で自分でやるから…」
 梓だって、嫌がらないで私にやってくれたんだよ? 私が嫌がる訳無いじゃない。
「いいよ、手伝ってあげる。梓も、私にしてくれたんだもんね…」
 私は、笑顔でそう答えた。心配しないでね? 本当に嫌じゃないから…
「あ、ありがとう、リナ… …本当は、自分でするの、怖かったんだ…」
「うん、私も怖かったから、よく分かるよ。 …でも、梓って、前に使った事あるんだよね?」
「確かにあるけど、小学校に入る前の話だし、自分で使った事無いから…」
「そっか。それだったら、確かに怖いよね… …今は、私がしてあげるから怖がらなくてもいいからね? それじゃあ、早速始めちゃおうよ?」
「…うん…」
 今度は梓が、さっきの私みたいに、服を脱ぎ始める。スカートとソックスを脱いで、椅子に掛ける。
「…あ、梓のも可愛い…」
 梓の青と白の縞々のパンティを目にして、私はつい呟いてしまった。
「…や、やだ、言わないで… …恥ずかしいから…」
「…ご、ごめんね… …つい…」
 …でも、私もさっき梓に同じ事言われちゃってたんだよね… …おあいこ、だよね?… 脱ぎ終わった梓は、トイレットペーパーを畳んで、マーガリンを一欠片乗せた。それから、浣腸を箱から1個取り出して、袋とキャップを取って、先っぽにマーガリンを塗って、私に渡してくれる。
「それじゃあ、これでお願い… 力を入れて持つと、中身が出ちゃうから、注意してね?」
「うん…」
 私は、そっとそれを受け取った。これを、これから梓のお尻の中に…
「うん… それじゃあ梓、こっちにお尻を向けて、四つん這いになってね?」
「…うん…」
 私の言葉に従って、梓はお尻を向けて四つん這いになった。
「…あっ…」
 その途端、梓の全てが見えちゃった… …梓のって、こうなって… …あれ? 梓の中から、糸が一本出ている。 …これって、アレだよね?…
「…ご、ごめん… …この間から、始まっちゃって…」
「いいのよ、気にしないで。女の子なんだから、当たり前の事なんだから。」
 それを目にして、私には梓の便秘の原因が分かったような気がした…
「それじゃあ、始めてもいい?」
「…うん、いいよ… …おねがい…」
 私は、梓のお尻を開いて、さっきのトイレットペーパーでお尻を拭いて、マーガリンを塗った。
「ふぁっ! ひゃあっ!?」
 その途端、梓が悲鳴を上げた。
「梓、大丈夫?」
「う、うん、ビックリしただけ… …何したの?」
「何って、マーガリン塗っただけなんだけど… 続き、してもいい? 入れるよ?」
「うん、入れて… くぅっ…」
 その返事を聞いてから、梓のお尻に浣腸を差し込んだ。あんまり奥まで入れて、中を傷付けちゃうと怖いから、ほんの少しだけ、1センチ位だけ入れる…
「それじゃあ、お薬入れるからね?」
「うん… ひゃぁぁ…」
 そして、ゆっくりと浣腸を潰した。 …やっぱり、さっきの梓と同じで、全部は入らないみたい…
「それじゃあ、入れなおすから、一度抜くね?」
「…う、うん… くあぁっ!」
 梓のお尻から、ゆっくりと浣腸を抜き取る。同時に、梓が辛そうな声を上げた。 …あんなに気持ち悪いんだもん、しょうがないよね?…
「それじゃあ、もう1回入れるよ?」
「は、早く… …もう、かなりお腹痛くなって来てるから…」
 …もう、そんなにお腹痛いの?… 私は急いで潰れた浣腸を膨らませて、梓のお尻に差し込み、さっきより早めに潰した。
「ふぁっ! うぅぅ…」
「はい、全部入ったよ。 抜くから、気をつけてね?」
「う、うん… うぁっ!」
 さっきと同じように、ゆっくりと浣腸を抜き取った。次は、お尻を押さえててあげないと… そのためのトイレットペーパーを用意しようとした時だった。
「も、もう駄目っ!」
「梓!?」
 梓が突然立ち上がって、ダッシュでトイレに入ってしまった。もう、我慢出来なくなっちゃったのかな? 私の時は、そんなにすぐには酷くならなかったのに… …ひょっとして、何か入れ方間違ってたのかな?…
「…うぁっ?…」
 また、お腹が痛くなってきた。さっきほど痛くないけれど、何で? さっき全部出たはずなのに… …駄目、我慢しなくちゃ… …まだ、梓がトイレから出てきてないのに…
「…くぅっ…」
 …やっぱり駄目、そんなに長く我慢できない… …どうしよう?…
「…うぅっ… …トイレ…」
 …しょうがない、梓には悪いけれど、なるべく早めに出てもらわないと… 私はトイレの前まで行って、ドアをノックして、声を掛ける。
「…梓、大丈夫?…」
「…うん、大丈夫だよ… …ただ、全然出ないけど… …やっぱり、我慢が足りなかったのかな?…」
 やっぱり出なかったんだ、入れてすぐだったから… …うぁっ、またお腹が…
「…梓、悪いんだけど、すぐに出られる?…」
「…えっ? どうしたの?」
「ごめんね… また、お腹痛くなって来ちゃって…」
「えっ!? わかった! すぐに出るから!」
 梓の慌てた声。そして急いでトイレットペーパーを取る音、水を流す音… 梓が出てくるのと入れ違いに私はトイレに駆け込んだ。ストッキングとパンティを同時に下ろし、スカートをたくし上げ、便座に腰を下ろす。
「くぅっ!…」
 それと同時に、ほとんど水みたいな物が少し、お尻から出ていった。でも、まだ腹痛は収まらない…
「…んんっ…くぅぅ…」
 そのまま、お腹に力を入れ続けていると、少しずつだけれど、水みたいな物が出ていった。しばらくすると、嘘のように腹痛は収まった。 …そうだ、梓! 私、途中で梓を追い出しちゃってたんだ! 私は慌ててお尻を拭いて、水を流す。パンティとストッキングを上げて、トイレを飛び出し、慌ててリビングへ戻った。
「リナ、大丈夫?」
 慌てて戻った私に、梓が声を掛けてきた。梓は、もう着替え終わって、私を待っていてくれたみたい。 …でも、梓こそ大丈夫?…
「うん、もう平気… それより、梓こそ大丈夫? 途中なのに、トイレから追い出しちゃって…」
「大丈夫だよ。ちょうど薬が効かなかったから、もう終わってたし…」
「良かった… 途中なのに追い出しちゃって、大丈夫かなって心配だったの…」
「いいよ。本当に大丈夫だから、気にしないで。」
「うん…」
 私と梓は、隣り合って壁にもたれて座る。 …良かった、梓、大丈夫で… …でも…
「…梓、出なかったの?」
「うん、全然… 後でもう1回やってみるよ。それで駄目なら、薬飲むから。」
「梓、すぐにトイレに行っちゃうんだもん。私の時みたいに、もっと我慢しないと…」
「ごめん… でも、もうどうしようもない位出そうになっちゃって…」
「…私の時は、そこまで酷くならなかったのに…」
 …やっぱり、私の入れ方のせいなのかな?…
「…入れ方がいけなかったのかな?…」
「ね、リナ。アタシのお尻に、どの位の深さまで入れた?」
「え? ほんの少しだけだけど… 1センチくらいかな? あんまり深くまで入れて、傷つけちゃいけないと思って…」
「根元まで入れても大丈夫だよ。アタシもリナに入れる時、根元まで入れてたから。あ…」
「どうしたの?」
「多分それかも。出そうって感じる部分って、お尻の出口近くにあるらしいから、奥に入れないと、すぐに我慢出来なくなっちゃうのかもしれない…」
「そうなの? …ごめんね、変なやり方しちゃって…」
 …やっぱり、私のせいだったのね…
「謝らなくてもいいってば… 普通、こんな事分からないって…」
「今度は、ちゃんと奥まで入れるからね…」
「うん… えっ? 今度は、って…」
 梓が、驚いて声を上げる。確かに、1回やってもらって1回やったけれど、出なかったのは私のせいだし、梓にも楽になってもらいたいから…
「もう1回、手伝ってあげる… 今度こそ、ちゃんと出しちゃおうね…?」
「えっ? で、でも、もう1回やってもらったし…」
「私はちゃんと楽にしてもらったから… 梓にも、ちゃんと楽になるまでやってあげたいの…」
「…ありがとう、リナ…」
「それじゃあ… って、もう服着ちゃってたね? 悪いけれど、もう1回脱いでくれる?」
「うん… …やっぱり、恥ずかしい…」
 リナが、再び恥ずかしそうに服を脱ぎ始める。
「でも、さっき脱いじゃってたじゃないの。もう見ちゃっているんだから、今更気にしなくても…」
「それはそうだけど… やっぱり脱ぐのって意識しちゃうから…」
 梓は、スカートとーパンティを脱いで椅子に置いて、私の前に四つん這いになる。私は、浣腸の袋とキャップを取って、マーガリンを一欠片トイレットペーパーに乗せて、浣腸の先っぽに塗り付けた。
「それじゃあ、もう1回油を塗るからね?」
「…う、うん… うぁっ! うくぅっ!」
 そして、トイレットペーパーに残ったマーガリンを、梓のお尻の穴に塗り付ける。そう、さっきと同じように…
「それじゃあ、入れるからね?」
「うん、来て… ひゃぁっ!」
 梓のお尻の穴に先っぽを当てて、ゆっくりと押し込んでいく。 …そう、今度は根本まで…
「…今度は、ちゃんと根本まで入れたから…」
「…うん、分かるよ…」
「…いい? 入れるよ?…」
「…うん、いいよ… くぅぁぁ…」
 私は、ゆっくりと浣腸を潰して、梓のお尻の中に流し込んでいく。やっぱり、全部を一気に入れるのは無理みたい…
「…ごめんね、梓。1回入れ直すから、お尻気を付けてね?…」
「…うん… ふぁっ! うぁっ! うぁぁ…」
 ゆっくりと梓から浣腸を抜いた。もう1回浣腸を膨らましてから、梓の中に入れて、ゆっくりと潰す… …やっぱり、気持ち悪いよね…
「全部入ったよ? もう1回抜くから、気を付けてね?」
「…うん、大丈夫… ひぁっ!」
 私は、ゆっくりと梓から浣腸を抜き取った。そして、トイレットペーパーを小さく畳んで、梓のお尻に当てる。梓がしてくれたみたいに、漏れないようにお尻の穴に押し付けるように…
「…どう? 大丈夫?」
「うん、大丈夫… …少しお腹痛いけど、さっき程じゃないから…」
「ごめんね、梓 …やっぱり、私のせいだったんだね?」
「だから、謝らなくっていいってば… むしろ、アタシが謝らなくっちゃいけないのに… こんな汚い事、2回もさせちゃって、ごめんね…?」
「梓こそ、謝らないでいいのに… 梓はちゃんと出させてくれたんだから… 私も、梓に楽になって欲しいからね?」
「うん… …ありがとう、リナ…」
 良かった、怒ってなくて… 私は、さっき気になった事を梓に聞いてみた。
「…そういえば、いつ頃から出てないの?」
「…えっと、今日で4日目かな?」
「私と同じね? それじゃあ、アレが始まったのはいつから?」
「…あれ? そういえば、4日前からだよ?」
「やっぱり… アレの時って、便秘になり易いみたいだから…」
 予想通り、アレが便秘の原因だったみたい…
「…そうなんだ、知らなかった… …うぅっ…」
「大丈夫? まだ我慢できる?」
「う、うん、もう少し… …まだ、大丈夫だよ…」
「女の子が便秘になりやすいのって、やっぱりアレのせいなのかな…?」
「うん、それが多いのかな… あと、恥ずかしくてトイレを我慢しちゃうとかかな…? …うぁっ…」
 さっきより苦しそうな梓の声… …もうそろそろ、限界なのかな?
「大丈夫? もうトイレに行く?」
「…ううん、もうちょっと頑張れそう…」
「良かった… …もしかして、真奈ちゃんは便秘とは無縁かもね?」
 真奈ちゃんなら、授業中でも平気でトイレに行けちゃうから… 便秘の苦しみを知らないのって、ちょっと羨ましいかも…
「そ、そうかもね… …くぅっ… …もう駄目…」
「うん、じゃあトイレまで頑張ろうね? 押さえててあげるから、ゆっくりと…」
「う、うん… …うぅっ…」
 梓がゆっくりと立ち上がる。私はその動きに会わせて、お尻を押さえ続ける。そしてそのままトイレまで一緒に行って、梓を便座に腰掛けさせる。さっきの私の時と同じように、まだお尻の穴は押さえたまま。後は、急いで私が出ていけば…
「それじゃあ、もうちょっと我慢してね? 手を離すよ… はいっ。」
 私は手を離して、急いでトイレから出て、ドアを閉める。
「く、くぅっ! うぁぁっ…」
 その途端、梓の呻き声が聞こえて、それから… 良かった、ギリギリだけれども、間に合って… 私はリビングから梓の服を持ってきて、畳んで台の上に置いておいた。そして、リビングで壁にもたれかかって座って、梓が出てくるのを待っていた… しばらくして、梓がトイレから出てきた。ちゃんと着替え終わって、どことなくスッキリした顔をしていた。
「…梓、どうだった?」
 顔を見て分かっちゃったんだけれども、一応聞いてみる。
「大丈夫、今度はちゃんと出たから… …ありがとね、リナ… …それと、こんな汚い事手伝わせちゃって、ごめん…」
「…それはもう言わないの。お互い様なんだから…」
 私達は、顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「…お薬、余っちゃったね…」
 私は、お薬の箱を見つめて言った。私が1個、梓が2個使っちゃったから、あと2個残っている。
「うん… 1個はリナが持ってなよ。もう1個はアタシが貰うから。」
 梓が1個を私に手渡しながら、そう言ってきた。
「えっ、いいの?」
「うん、いいよ。またそのうち使う事もあると思うから。でも…」
「でも… 何?」
「うん、家に帰ったら、すぐ机かどっかに仕舞わないとね。そのまま鞄の中に入れたままにして、抜き打ちで持ち物検査なんてあったら…」
「そうね。すぐ仕舞うから。」
 確かに、そうなったら… 私はクスクス笑いながら、それをカバンの中に仕舞った。
「…ねえ、今度必要になったら、また神城君の所に買いに行こうよ?」
 しばらくしてから、梓がそう切り出して来た。
「神城さんのお店に? …でも、顔も名前も覚えられちゃったし…」
 いくら何でも、知り合いの所にアレを買いに行くのって、恥ずかしい…
「だから、もうバレちゃったんだから、他の店で覚えられないかなんて心配する必要無いんじゃない? それに、神城君なら信用できるし…」
「…確かに、考えてみればそうよね… …あちこちお店を換えると、それだけ覚えられる危険性が大きくなっちゃうかもしれないから…」


・第五章 仲直り
 しばらくして落ち着いた頃、梓が声をかけてきた。
「…真奈、絶対落ち込んでるよね…?」
「…うん…」
 それは、私も心配していた。さっき薬局で鉢合わせて、私達が何を買っていたのかを暴いちゃった真奈ちゃんの事… …きっと、いや間違いなく、真奈ちゃんは自分が友達を傷つけて、絶交されると思いこんじゃって、落ち込んでる…
「明日のお昼に、ちゃんと真奈に言おうね。全然気にしてないから落ち込まないでって…」
「うん。本当に全然気にしてないし、真奈ちゃんが苦しまなくちゃいけない理由なんて、本当に何もないんだから…」

「真奈、いる〜?」
 翌日のお昼休み。梓が教室の入り口から呼びかけると、真奈ちゃんの肩がビクッて震えて、怯えたようにこっちを見た… …やっぱり、傷ついちゃってる…
「…あ、アズみん、みずりー…」
「真奈ちゃん、屋上で一緒にお昼食べようよ?」
「…うん…」
 私達の誘いに、真奈ちゃんは俯いたまま、無言で私達について来る。まるで、これから絶交の宣告を受けるみたいに… …そんなつもり、全然無いのに…
 屋上について、適当な場所を見つけ、3人で腰を下ろした。お弁当も開かず、3人そろって無言のまま俯いていた。ちゃんと言わなくちゃと思うんだけど、どうしても言い出せない…
「…昨日はごめんね… …本当は、怒ってるんでしょ?…」
 真奈ちゃんが、今にも泣きそうな声で喋り始めた…
「真奈、その事なんだけどね… アタシ達、全然怒ってないから…」
「うん。ビックリして恥ずかしかったけれど、本当に怒ってないからね?」
「…でも、マナはあんなにひどい事… …ぐずっ… …ひっく…」
 真奈ちゃんがしゃくり上げ始める… …やっぱり、分かってもらうには、全部話すしかないよね?…
「…真奈ちゃん、これから昨日の事全部話すから、落ち着いてよく聞いて欲しいの…」
「…うん… …でも…」
「…真奈、お願い。ちゃんと聞いて。」
「…うん… …わかったよ…」
 良かった、とりあえず、話だけは聞いて貰えそう…
「昨日ね、委員会が終わった後に、私と梓と一緒に喫茶店に行ったの。でも、私は食欲が無かったの。その時梓に『出ないの?』って聞かれて、そうって答えたの…」
 私は、真奈ちゃんに分からないように、梓を肘でつついた。続きは、梓から…
「でね、飲み薬を使ってるかリナに聞いたんだけど、いつ効くか分からないから怖くて使えないって言われたんだ。それじゃあ、アレを使ったらって言ったんだけど、怖いし恥ずかしい言われちゃって…」
 今度は、梓が私を肘でつついてきた。次は、私が…
「そうしたら、梓が一緒に買いに行って、使うのを手伝ってくれるって言ってくれたの…」
「…えっ!?」
 それがどういう事か、真奈ちゃんには分かったみたい… さすがに、驚いて声を上げる。
「本当だよ? 飲み薬を怖がって休みの日まで飲まなかったら、1週間近く出ない事になっちゃうところだったから。そんなになると心配だし、それに、辛そうな顔を真奈に見せて心配かけさせたく無かったから…」
「…マナの事も、心配してくれてたの?…」
「うん、そうだよ… その後で、駅前の薬局で買おうと思ったんだけど、知ってる人に見られるかもしれないと思って、離れたところにあるあの薬局に行ったんだ。まさか、神城君の家だとは思わなかったけれど…」
「…知られたくなかったのに… …ごめんね…」
「真奈、そうじゃないよ。アタシ達は、あの薬局が真奈の家の近くだって知ってて買いに行ったんだから。真奈に会うかもしれないって分かってて…」
 ここからは、私が… …昨日から、ずっと考えていた事を、真奈ちゃんに伝えないと…
「それでね、私、色々と考えたの… 喫茶店で梓と話していた時から、もしも真奈ちゃんが一緒にいたらどうなってたんだろう、って。」
「…マナが、その時からいたら?…」
 そう、もしも真奈ちゃんが初めから一緒にいたら、どうなっていたか… その事について何回も考えてみたの。もちろん、その結果は…
「何回考えてみても、同じ結果になったの。真奈ちゃんが一緒にいても、私は便秘の事をうち明けて、飲み薬は飲めない、アレは怖くて恥ずかしくて使えない、って言ってたと思うの…」
「アタシも同じ。真奈が一緒にいても、一緒に買いに行って、手伝ってあげるって言ってたと思う。そして、その通りにしたと思う。 …これって、どういう事か分かる?」
「…ううん、わかんない…」
「つまりね、初めから真奈ちゃんになら、バレちゃっても平気だったって事なの。あの時は、たまたま初めから真奈ちゃんがいなくて、買った時に突然だったからビックリしただけなの。」
「そうだよ、真奈。だから、アタシもリナも全然気にしてないし、怒ってないんだよ? 昨日の事は、気にして悩む事なんて何も無いんだよ?」
「…本当に、もう怒ってないの?…」
「『もう』じゃなくて、初めから怒ってないから… …でも、これ以上真奈が悩んでると、本当に怒っちゃうぞ?」
「お願いだから、いつもの真奈ちゃんに戻ってね? 私も梓も、真奈ちゃんが落ち込んでる事が一番辛いんだから…」
「…うん… …ごめんね…」
「…ほら、また謝るし…」
「…ううん、今のは違うの。昨日の事じゃなくて… …マナの事で心配かけさせちゃって、ごめんね… …それと、心配してくれて、ありがとう…」
 真奈ちゃんが顔を上げた。まだ涙は止まってないけど、泣き笑いになってる…
「うん… …いつもの仲良しの3人に戻ろうね? 大丈夫だよね、真奈ちゃん?」
「…うん、大丈夫だよ… …ありがとう、アズみん、みずりー…」
 私と梓は、真奈ちゃんの涙が止まるまで、真奈の背中を撫で続けた… …もう、大丈夫だよね?… …いつもの真奈ちゃんに戻れるよね?…

「…うみゅ、そういえば…」
 しばらくして、真奈ちゃんが口を開いた。あっ、その喋り方…
「あ、いつもの真奈の喋り方になってる。」
「やっぱり、真奈ちゃんはこうでなくっちゃね?」
「…えへへ… …もう大丈夫だよ… …本当にありがとう…」
「気にしない気にしない。んで、どうしたのかな?」
「…昨日の事だけど、結構大きな箱買ってたよね?… …あんなにたくさん使ったの?…」
「あ、それは…」
 とたんに、梓が真っ赤になっちゃった。それでも、梓は話し始めた…
「…実は…ね、アタシも便秘だったんだ…」
「にゅ? アズみんも?」
「うん… アタシもひとりでアレを買うのは恥ずかしかったから、リナのと一緒に買っちゃったんだ。 …本当は普通のを2箱欲しかったんだけど、売り切れてたら、しょうがなく5個入りの箱を買ったんだ。」
「んにゅ、それであの箱だったんだね?」
「うん… それと、自分で使うのも怖かったから、リナに使ってあげた後、アタシにも使って、って相談するつもりだったんだ… 駄目だったら、リナが帰った後に自分で使おうとは思っていたけど…」
「…結局、私が手伝ってあげたんだけどね…」
「うみゅ、お互いに使い合っちゃったんだ…」
 …一瞬、頭の中に昨日の事が浮かんで、私も梓も真っ赤になっちゃった… …うう、恥ずかしいよう…
「…改めてそう言われると、結構恥ずかしいかも… …でも、その通りだよ…」
「…そういえば、真奈ちゃんは、便秘はしないの?」
 …こんな事人に話すなんて、とっても恥ずかしいよね?… …でも、どうしても気になっちゃって…
「…マナはね、とってもひどい便秘だったの。お薬を飲まないと全然出なくて、いつも金曜日の夜にお薬を飲んで、休みの間に全部出しちゃってたんだ…」
「…真奈ちゃんが週末が近づくと具合悪そうにしてたのって、それが原因だったのね?…」
「うん、そうだよ…」
 …全然、そんな事知らなかった… …真奈ちゃんも、苦しんでたなんて… …それも、私達よりもずっと酷い苦しみを、ずっと長い間…
「…でも、そのお薬も、使ってるとだんだんと効かなくなってきちゃって、だんだんと量が増えていっちゃったの… いっぱい飲むと1日下痢が続いちゃって苦しくて辛かったけど、量を減らすとお腹が痛くなるだけでなおさら苦しいし、飲まないと2週間くらい経っても全然出ないし…」
「…本当に酷い便秘なんだね… 薬ってアレでしょ? よく宣伝してるピンクの…」
「うん、そうだよ… …最後の方は、アレを1回に15錠飲んでた…」
『!?』
 15錠!? 一度だけ1錠飲んだ事があるんだけど、それだけでもあんなに苦しかったのに、一気にそんなに… …治療でも、昨日の私達以上に苦しんでたんだ… …でも、そんな事続けてたら…
「真奈、その薬止めた方がいいよ? そんなに飲んでたら、そのうち体壊して死んじゃうかもしれないよ?」
「そうよ真奈ちゃん。一度病院でちゃんと…」
「ヤダッ!! 絶対に行かないっ!!」
「真奈ちゃん?」
「真奈?」
 真奈ちゃんが、突然叫んだ… よく見ると、体が微かに震えている…
「…あ、ごめん… …病院は、昔診てもらった時、とってもひどい目にあっちゃったから… …だから、もう病院には絶対に行かない…」
 真奈ちゃんは力無く項垂れる… よっぽど酷い目に遭っちゃったのね…? 真奈ちゃんがこんなに嫌がるなんて…
「…ごめんね、真奈ちゃん… …もう、病院の事は言わないから…」
「…でも、その薬だけは止めた方がいいよ?」
「…うん、大丈夫だよ。もう止めてるから… …タカちゃんもマナの事心配してくれて、よく効いてお腹に優しいお薬を見つけてくれたんだ…」
「それって、ひょっとして4月頃?」
 いつも週末は具合悪そうだった真奈ちゃんが、1週間ずっと元気になったのは、その頃からだった。
「うん、そうだよ… …そういえば、元気になった理由を『彼氏が出来たからだ』って勘違いされちゃったよね?」
「だって、あの時の真奈ちゃん、とっても怪しかったんだもん… …でも、原因がそれだったら、確かに秘密にしちゃうよね…」
「そんな事もあったよね… 真奈と神城君がデートしてたなんて勘違いしたりして… …でも、その直後に本当にくっついちゃうんだもん…」
「うみゅ〜 …改めて言われると、恥ずかしいよ…」
 真奈ちゃんは顔を真っ赤にして、俯いちゃった。 …良かった、完全に、いつもの真奈に戻ってくれたみたい…
「…さてと、そろっとお昼食べようよ。」
「…そうね。つい話し込んじゃったけど、お昼休みには限りがあるからね。」
「うみゅ、実は昨日から心配で、あまり食べられなかったんだよ… 安心したら、お腹空いて来ちゃった…」
 私達は、お弁当を開けようとして、お弁当箱に手をかけた。その時…
「えっ? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃないみたい… ちょうど時間だわ…」
「うにぃ〜 そんなぁ〜」
 そう、午後の授業の予鈴が聞こえてきた。話し込んでて、昼休み終わっちゃったんだ…
「真奈、リナ。早く教室に戻らないと…」
「んみゅ〜 でも、お腹空いた…」
「今日の放課後、みんなで何か食べてから帰ろうね? だから、今は急がないと…」
「…うみぃ、わかったよ…」
 私達は、急いで教室へと戻る。真奈ちゃんが元気になってくれたのは良かったけど、こんなのって無いよ〜!


・終章
 放課後、私達は校門の前で集まっていた。
「えーと、昨日の店でいいんだよね?」
「うん。近いうちに真奈ちゃんと一緒に3人で行こうって言ってたから。」
「どんなお店なんだろう? 楽しみだな〜」
「それじゃあ、行こっか!」
 私達が歩き出そうとした時に、梓が何かに気が付いて、止まった。
「…あ、あれ、神城君じゃない?」
「えっ? あ、本当…」
 確かに、昨日薬局で見た男の子が、そこにいた。
「タカちゃ〜ん!」
「あ、マナちゃん! …あ…」
「…」
「えっと…」
 神城さんだと分かって、真奈ちゃんが呼びかける。神城さんも、真奈ちゃんに気付いてこっちにやって来た。でも、私と梓の事も気付いて、なんだか気まずそうな顔になる。私も梓も、ちょっと恥ずかしいので、俯いてしまった…
「タカちゃん、これから帰り? いっしょに途中まで帰ろうよ?」
「…いいけど、途中までって?」
「んに、マナ達、ちょっと寄るところあるから…」
 …神城さんが、ちらっとこちらに視線を向けてくる。私と梓は、笑顔で頷く。ちょっと引きつった笑顔になっちゃったけど、神城さんが一緒にいたって、何もまずい事なんて無いもんね。むしろ、真奈ちゃんが喜んでくれるならば、一緒にいてくれた方が嬉しいし… 私達4人は並んで歩き始めた。 …? すぐに、真奈ちゃんと神城さんの歩くペースが少し遅くなった。そのまま、一歩後ろを付いてくる形になる。
「…仲直り、出来た?…」
「…うん、大丈夫だったよ…」
「…そっか… …良かったね…」
「…うん…」
 真奈ちゃんと神城さんが喋っている。内緒話のつもりなんだろうけど、全部聞こえてきちゃった。そっか、神城さんも心配してくれてたのね… 私はついクスクス笑ってしまった。あ、梓もクスクス笑ってる。ちらっと後ろを見ると、ふたりとも真っ赤になっちゃってる。今の笑い声、聞こえちゃったみたい?
「…うにぃ〜」
 ふたりとも、少し恥ずかしそうに歩調を戻す。そうして私達は、また4人並んで歩き始めた。
「…えっと、神城君、昨日の事なんだけど…」
 突然、梓が切り出した。昨日の事って、信じてるから大丈夫って言っていたのに…?
「…うん、その… …本当に、昨日はごめん… …誰にも言わないから、安心して?…」
「大丈夫ですよ。私達、神城さんの事信じてますから…」
「神城君は、真奈が選んだ彼氏だもんね。絶対に大丈夫だよ。」
「…うん、ありがとう…」
「…だから、神城君も、もう気にしないでね? 神城君が気にする事なんて、本当に何も無いんだよ?」
 …そっか、そうよね…
「それに、神城さんがそんな顔してると、私達も辛いから…」
 神城さんや真奈ちゃんが悪い訳じゃないし、私達も神城さんを信じているから、もう気にしない。だから、ふたりとも何も苦しむ事なんて無いんだから… それに、神城さんが苦しんだままだと、今度は真奈ちゃんも苦しんじゃうから…
「…分かったよ、ありがとう。そう言って貰えると、気が楽になるよ。」
 神城さんが、こっちを向いて微笑んだ。これで全て元通りになれるかな?
「…ところで、みんな具合大丈夫? 何だかとっても疲れた顔してるけど?」
 私達を見て、神城君が聞いてくる。言われたとおり、私達は疲れた顔をしてる。でも、それは疲れたからじゃなくて…
「…うにゅ〜 おなかすいた…」
「…は?」
 真奈ちゃんの答えに、神城さんの目が点になっちゃった。さすがに今の答えは、完全に予想外だったみたい。
「えっと、あの… お昼休みに、私達が怒ってない事を真奈ちゃんに分かってもらおうと思って、お話ししてたんですけど…」
「それで、誤解が解けて、仲直りできて、そのまましばらく喋ってたら…」
「…んにぃ、お昼休み、終わっちゃったの…」
「えっ? それじゃあ3人とも、お昼食べてないの?」
『…えへへ…』
 私達3人で照れ笑いを浮かべる。
「うに? なんだかタカちゃんも疲れた顔してるよ?」
 …そう言われてみれば、神城さんの顔も何となく疲れているように見える。
「…実は、昨日からマナちゃん達の事が心配で、殆ど食べられなかったから…」
「うみゅ? マナ達とおんなじだね?」
 …神城さんも私達の事、心配してくれてたんだ… …ごめんなさい、心配かけちゃって…
「それでしたら、これから私達と一緒に行きませんか?」
「アタシ達もお腹空いたから、これから何か食べに行く所なんだけど、一緒に来ない?」
「タカちゃん、一緒に行こうよ〜?」
「…うん、それじゃあ、お言葉に甘えて。」
 神城さんは、チラリと腕時計を見てから、そう言った。
「それで、行く場所は決まってるの?」
「んに、アズみんのおすすめのお店だって。」
「駅前にある喫茶店なの。昨日、梓と一緒に行ったんですけど、とっても雰囲気のいいお店でしたから。」
「駅前の…? ところでそのお店、なにがお勧めなの?」
「全部。」
 神城君の問に、梓が迷わず即答した。
「…いや、いきなり全部って言われても…」
「何頼んでも安くて美味しいよ。アタシが全部試したんだから間違い無し!」
『…』
 その梓の答えに、一瞬沈黙が流れた。梓は、何が何だか分からないって顔をしている。
「…んに? …メニュー全部?」
「…上川さんひとりで制覇?」
「…梓って、よく食べると思っていたけど、思った以上に大食いなのね…」
「…? !! そっ、そーじゃなくって! 何回も家族で行って、互いに摘んで試したの!」
 真っ赤な顔になっての梓の反論に、私達3人は爆笑した。特に真奈ちゃんなんて、お腹抱えて笑ってる… …真奈ちゃん、ちょっと笑いすぎ…
「え〜い、今日はいっぱい食べる! 昨日はふたりとも食べられなかったから、その分も取り戻す!」
「…ちょ、ちょっと梓…」
「…あ…」
 梓、そんな事言ったら… …昨日アレを買ったのは神城さんも知っているんだから、昨日ふたり共使ったのが神城さんにもバレちゃうじゃない! 慌てて神城さんを見ると、笑いすぎて息も絶え絶えになっている真奈ちゃんの背中を笑いながら撫でてあげているところだった。 …良かった、気付いてないみたい…
 …今の爆笑で、完全に元通りの仲良し3人組に戻れたような気がした。いや、元通りじゃなくて、神城君も加わって、新しく4人組になったみたい? これからは何があっても、この4人で仲良く乗り越えて行けそう。 …ふと、そんな事を思った。


−終−

NEXT

第5話 Side-A


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