SPACE銀河 Library

作:水薙紫紋

即 効 薬

即効薬 第四話 親友 Side-A     ※ Side-Aの第三話はありません(第二話から第四話へ進みます)



・序章
「本当にいい雰囲気のお店ね。知らなかったわ、こんな近くに…」
「へっへ〜 いい店でしょ? 家族で結構来たんだけど、何頼んでも美味しかったよ。」
「やっぱり、真奈ちゃんも誘えば良かったわね?」
「う〜ん… でも、『委員会が終わるまで1時間位待っててね』ってのは、いくら何でも…」
「それもそうよね… そんな空き時間があったら、多分早く帰って恋人と会いたいだろうし…」
「今日は下見って事にして、今度は3人で来こうよ?」
「うん。じゃあ、近いうちに3人で。」
「…でも、真奈って羨ましいよね〜 私達の中で彼氏がいるの、真奈だけだもんね〜」
「幼馴染みから恋人同士か… なんか憧れちゃうよね…?」
「…言っておくけど、いくら幼馴染みだからって、アタシはそっちの趣味は無いからね…」
「…そんなの、私だってある訳無いないじゃない…」
「…あ、そういえばまだ何も注文してなかった… 決まった?」
「え〜と… うん、決まったわ。」
「すいませ〜ん! 注文お願いしま〜す!」

 アタシは上川梓(かみかわ あずさ)。現在高校2年生。今、目の前にいるリナとは、小学校時代からの幼馴染み。高校生になってからは、ここに同じクラスになった真奈が加わって、よく3人で遊んでいる。2年になって、真奈とはクラスが離ちゃったけど、今でも変わらず仲のいい友達だ。
 リナが落ち着いた雰囲気のある喫茶店を探していたので、時々家族で来るこの店を紹介したんだ。本当は真奈も誘いたかったけれど、アタシもリナも委員会があって帰りが遅くなるので、今回はふたりだけで来た。この店のメニューはそんなに多くなけど、料理も飲み物もとても美味しくて、ハズれた事が無い。家族で何回も通い、お互いの料理をつまみながら、メニューを一通り制覇した結果なので、絶対に間違いない。いつもなら飲み物とケーキとパフェを一緒に頼んだりしちゃうんだけど、今日は…


・第一章 発覚
「あれ? 梓、コーヒーだけでいいの? ケーキとかは?」
「うん、ちょっとね…」
「ダイエット?」
「う〜ん… まぁ、ちょっと食欲が無くて…」
 結局、アタシは食べる物は何も頼まなかった。ダイエットって訳じゃないけれど、食欲が無いのは本当。
「そういうリナこそ、紅茶だけ? 甘党党の党首なのに?」
「…何それ?」
 そういえば、リナも紅茶だけしか頼んでない。ケーキとかアイスとか、アタシと同じで甘い物が大好きなのに、どうしたんだろう?
「その、ちょっと風邪気味で、お腹の具合が…」
「あれ? 風邪って治ったんじゃなかったっけ?」
「風邪薬でほとんど治ったけど、お腹の具合だけちょっと…」
 そういいながら、リナはカップを傾ける。
「…出ないの?」
「!! ケホッ ケホッ…」
 ふと思い当たって小声で聞いてみると、紅茶を飲んでたリナが、いきなり噎せ返っちゃった。さすがにお茶飲んでる時にこんな事聞いたのはまずかったか…
「だ、大丈夫!?」
 あわててリナの背中をさすってあげる。呼吸が整ったリナが、涙目で抗議してくる…
「ちょ、ちょっと… …い、いきなり何を言うのよ…」
「ごめんごめん… でも、風邪薬ってそうなっちゃいやすいし…」
 昔、病院から貰った風邪薬で、頑固な便秘になっちゃった事がある。その薬の説明には、しっかりと『副作用:便秘』と書かれていた。
「…うん、そうなの… …風邪薬飲んでから、出なくなっちゃって…」
「いつから?」
「…月曜日からだから、今日で4日目…」
「結構長いね… ソレの薬とかは?」
「まだ、飲んでない… 飲んでみたいけど、いつ効くか分からないから、ちょっと怖いの。通学中とか授業中に効いて来ちゃったら…」
「う〜ん、そうかぁ… 真奈みたいに神経太くならないと、飲めそうにないよね?」
「うん、ちょっと私には…」
 去年の事だけど、真奈が授業中にいきなり『おトイレ行ってきまーす!』と言って、本当にそのままトイレに行っちゃった事がある。 …ああいう事は、男の子でもなかなか出来ないんじゃないのかな?
「そっか、飲み薬は駄目か… …じゃあ、入れる方は?」
「!!」
 一瞬で、リナの顔が真っ赤になる。そりゃそうだよね… 俯いて、小声で聞いてくる…
「…そ、それって、まさか…」
「そう、アレ。使った事ある?」
「…ううん、無い… …買いに行くのも恥ずかしいし、使うのも怖いし…」
「そっか… 確かにそうだけど、すぐ効くからいいと思うんだけどなぁ…」
「…梓は、使った事あるの?…」
「小学校に入る前に、何回かね…」
「…そうなんだ… …どんな感じなの?…」
 昔の事とはいえ、話すのは恥ずかしい… アタシも更に声を潜めて答える。顔が赤くなるのを感じながら…
「…容器を入れられる時は、怖いし、とっても気持ち悪かった… …薬が入って来ると、すごく冷たいんだけど、すぐに熱くなって… …そして、下痢の時よりも、すごくお腹が痛くなって、我慢出来ない位出したくなっちゃって… …でも、すぐに出すと効かないからって、しばらく我慢させられて… …でも、その後はスッキリするから…」
「…やっぱり、怖い…」
「…でも、使ってみない? 今日はまだ木曜日だから明日授業あるし、土曜日は部活でしょ? そうすると、あと2日もこのままだよ? もし出なかったら病院に行くしかないけど、日曜日は休診だから、7日間になっちゃうよ? そうなってから病院に行ったら、間違いなくアレをされるだろうし… 絶対に病院でされる方が恥ずかしいから…」
「…うん、そうだけど… …やっぱり、買いに行くの、恥ずかしいし… …それに…」
「…自分でするの、怖い?」
「…うん…」
 …やっぱり、怖いし、恥ずかしいよね… …だったら…
「…手伝ってあげようか?」
「…えっ!?」
「一緒に薬局に買いに行ってもいいし、その後もやってあげてもいいよ?」
「…な、なんで、そこまで…」
「リナの事、心配だから… それに、明日辛そうな顔してたら、真奈も心配するよ?」
「…うん…」
 真奈は図太い面もあるのだが、友達関係に関しては敏感で繊細だ。アタシ達が風邪を引いて具合悪そうにしてるだけで、真奈は本気で心配しまう。以前、真奈の前でリナとケンカした事があったんだけど、アタシ達が仲直りするまで、端から見ていられない程落ち込んでた… あの時は、真奈の悲しむ顔をもう見たくなくて、仲直り出来たようなものだ。それ以来、ケンカはしていない。真奈の悲しむ顔なんて、もう見たくないから…
「…そうよね、恥ずかしいけど、お願い… …でも、本当にいいの?… …そんな汚い事頼んじゃって…」
「そんな事、気にしないの。一緒にお風呂まで入ってた仲じゃない?」
「…うん… …ありがとう…」
 それに、本当はアタシも…
「…じゃあ、そろそろ… …行こうか?…」
「…うん…」
 アタシ達は席を立ち、喫茶店を出た。次に目指すのは…薬局だ。


・第二章 買物
「駅前の薬局で買っていこうよ。近いし、品揃えいいし、安いし。」
「ち、ちょっと待って。商店街の薬局に行かない?」
 商店街? アタシ達の家は、高校の近くにある。電車に乗らなくても通える距離だ。商店街に行くとなると、電車に乗っていかなければいけない。それに、あそこは個人経営なので、少し高い。
「商店街の? 結構遠いよ? また何で?」
「駅前の薬局だと、学校の近くだし、お客さん多いでしょ? 知っている人に買う所を見られちゃうかもしれないから…」
「あ、そっか… でも、商店街の薬局って、真奈の家の近くだよ?」
「今から商店街に行くと、6時前になっちゃうから、たぶん家にいると思うし…」
「それもそっか。」
 そうして、アタシ達は駅へと向かった…

 電車を降りて、真奈の家の前を通り過ぎて3軒目。その薬局はすぐに見つかった。一応、アタシ達は周りに人がいないのを確認してから、ドアを開けて中に入る。
「あ、いらっしゃいませ。」
 カウンターにいたのは、アタシ達と同い年くらいの、格好良くて優しそうな男の子だった。そんな、男の子なんて… …確か前に見かけた時は、カウンターにいたのはおばちゃんだったのに…
「あ、お店の人、男の子だ…」
「ど、どうしよう…」
「急いで買って帰ろうよ… 多分ここにはもう来ないと思うし…」
「そ、そうね… どこにあるか、聞いてみる?」
「…ううん、聞くのは恥ずかしいから、まず探してみようよ…」
 アレを求めて、時々店員の男の子の方をチラチラ見ながら、コソコソと店内を探し回る。店員の男の子には、アタシ達が挙動不審に見られてもしょうがないかもしれない。けれど、こちらを気にしている様子はなく、参考書を読んでいる。
 …でも、いくら店内を探しても、アレは見つからなかった。
「…どうしよう、無いよね?…」
「…しょうがない、聞こうか… …あ、あれ…」
「…あ、あんな所に…」
 店員の男の子がいるカウンターの後ろに、棚が3つあった。その棚の上には、『風邪薬・鎮痛剤』『便秘・整腸・胃腸薬』『栄養剤・ビタミン剤』と書いてある。店員の男の子と顔を合わせるのが恥ずかしかったので、一番目立つ所なのに見つけられなかった。その棚の中にある物を買うには、店員の男の子に頼んで取り出してもらわなければいけない…
「…行こう、リナ。このままじっとしてても、どうにもならないし…」
「…う、うん…」

「…あの、すみません…」
「はい? 何でしょうか?」
 男の子は、参考書から顔を上げて、聞き返してくる。
「…そ、その… …か、か… …ええと…」
「…あの、浣腸って、ありますか?」
 リナが真っ赤になって聞こうとしたが、吃っちゃって言えない。だから、代わりにアタシが聞いた。
「あ、はい。大人用30gでよろしいですか?」
「…は、はい…」
 大人用って… アタシ達が使うって、バレちゃったのかな…?
「では、こちらで。中に2個入っていますので。」
 カウンターの奥の棚から、アレを1箱取り出して、説明してくれる。 …でも、1箱じゃなくて…
「…それを2箱、お願いします…」
「はい。少々お待ちください。」
「…ちょ、ちょっと… …何で2箱も?…」
 …今は言えないけど、アタシには2箱分必要な訳があるから…
「…あれ? すみません。これは1箱で売り切れでして… 5個入りならありますけど、どうしますか?」
「…じゃあ、それでお願いします…」
「…あ、あの… …そっちの箱は違うんですか?」
 リナが指差す先には、さっきの2個入りと同じ位の大きさの、浣腸の箱があった。ただ、さっきのとはメーカーが違うらしく、箱のデザインが全然違っている。
「あ、これですか? こちらと中身は同じなんですけど、値段が高いので、あまりお薦め出来ませんが… …どうしますか?」
 アタシはつい値札を見る。リナが指差した薬、2個入り2箱の値段は、さっきの5個入り1箱よりかなり高い。中身が同じなら…
「…さっきのでいいです…」
「はい。それでは、294円になります。」
「…こ、これで…」
 アタシはお金を取り出し、渡す。
「はい。では、1,000円お預かりします。706円のお返しに…」
 後ろで、お店のドアが開く音がする。 …えっ? 他のお客さんが来た?
「ふにぃ、こんにちは〜 タカちゃん、いる?」
『!!』
 え… 今の声って… 嘘!? それに、タカちゃんって、まさか…!?
「あ、マナちゃん。今お客さんが来てるから、ちょっと待っててね。」
 やっぱり真奈!? じゃあ、この人が、真奈の彼氏の神城君!?
「にゅ? アズみんにみずりーじゃない? お買い物?」
「真奈!?」
「真奈ちゃん!?」
 その問いに、思わず振り返ってしまった。 …間違いない、真奈だ。
「…えーと…」
 神城君が、困ったような声をあげる。
「タカちゃん、前に話した友達の上川梓ちゃんと瑞穂理奈ちゃんだよ。んで、アズみんとみずりー、この人が神城高志ちゃん。」
 ま、真奈… お願いだから、こんなの買っている時に、アタシ達の事なんか教えないで…
「んに、何買ったの?」
「真奈っ!!」
「駄目ぇっ!!」
「マナちゃん!!」
 真奈がカウンターを覗き込もうとする。アタシは咄嗟に、真奈の両肩を押さえて、押し戻した。突然押されたので、真奈が少しよろける。
「うわぁっ、おっとっと… …あっ…」
『…』
 真奈の声と、黙っちゃったリナと神城君。アタシは、何か不安な物を感じて、恐る恐る振り返る… 全員、固まっていた…
『…』
 真奈はカウンターを覗こうと、体を少し傾けていた。そこをアタシが押し戻したので、少しよろけて、さっきの場所から2歩分くらい横に動いている。その位置からでも、リナが邪魔になって見えない…はずだった。リナは一歩前に出て、カウンターの前に立ちはだかるように立っていた。真奈が正面にいたら目隠しになる場所だけど、横に動いた真奈の視線は全く防げない。神城君は、紙袋に入れて隠そうとして、箱を持ち上げていた。そう、真奈の視線の前で…
 …みんなが咄嗟に取った行動、それが全て裏目に出ていた…
「…ご、ごめん… …アズみん、みずりー…」
 真奈にもそれが何なのか分かっちゃったようだ。俯いて、今にも消えそうな小さな声で謝ってくる。
『…』
 …アタシ達は何も言えなかった… …本当は、『気にしないで』って言いたいのに、言葉が出てこない…
「…あの…」
『…』
 神城君が、申し訳なさそうに、お釣りと紙袋を差し出す。リナが無言で受け取る。アタシは、リナの手を引いて、真奈の横を通り、店を出ようとする…
「上川さん、瑞穂さん。」
『!!』
 店を出ようとしたアタシ達を、神城君が呼び止める。心臓が跳ね上がり、射竦められたように、振り向けないまま動けなくなる…
「心配しないで。僕達、誰にも言わないから…」
 神城君が、心配そうに、そう言ってくれる。
「…あ、ありがとう…」
 …真奈の彼氏だもんね、大丈夫だって信じてるから… …でも、それ以上言葉が出てこない…
「…アズみん、みずりー、本当にごめん…」
「…い、いいよ、真奈ちゃん… …気にしないで…」
 やっと聞き取れるような声で、真奈がまた謝り、それにはリナが返す。アタシも、『大丈夫、気にしないで』って言いたかったけど、どうしても言葉が出てこない…
 …そこまでが精一杯だった。あとは振り向きもせず、ダッシュで店から逃げ出す。店から出て、しばらく行った所で、アタシ達は振り返って店を見る。入り口の上に、『神城薬局』と、しっかり看板が出ていた。
「…確かに、真奈の彼氏の名字だよね…」
「…何で気付かなかったの? 神城さんの事、見た事あるんでしょ? 前に『駅前のカフェで見た』って言ってたじゃない…」
「…見たって言ったって、ちらっと見かけただけだもん。しっかりなんて覚えてないよ… リナこそ気付かなかったの? 前に『幼馴染みの〜』とか言ってたじゃん…」
「…私だって、真奈ちゃんに話を聞いた事があるだけだから… …顔まで知らないわよ…」
『…』
「あー、今のは事故! もう忘れよう!」
 アタシは何かを吹っ切るように、勢い良くそう言った。もうバレちゃったんだから、今更悩んでもどうにもならない。真奈と神城君 …真奈が選んだ彼氏… なら、絶対誰にも言わない。
「そ、そうよね。事故よね事故!」
 リナも、今の事を吹っ切ろうと声を上げる。
「それじゃあ、帰ろうか。」
「うん。 …でも、この後どうする?…」
「…じゃあ、アタシの家で… …今、誰もいないから…」


・第三章 治療
 電車でまた学校の方に戻り、アタシの家に向かう。これからの事が頭から離れなくて、ふたりとも無言だった… 学校近くのマンションの3階の一室。ここがアタシの家。ちなみに、リナの家は同じマンションの5階にある。
「ただいまー」
「…お邪魔します…」
 誰もいないけど、一応そう言って中に入る。パパとママは共働きで、この時間はどちらも家にいない。
「…でも、本当にいいの? してもらって…? それに、私の家じゃなくて…? 臭いもあるし、もし、汚しちゃったりしたら…」
「いいの、気にしないで。リナの事、心配で見てられないし。それに、リナの家は今ママがいるんでしょ?」
 …それに、もうひとつ理由はある。それは…
「…うん… …ありがとう…」
「それじゃあ、リビングに行ってて?」
 リナをリビングに通して、アタシはトイレへと向かった。スリッパを揃えて、蓋を開け便座を降ろして、すぐに使える状態にしておく。それからトイレットペーパーを1個持ち出した。リビングに行くと、リナは恥ずかしそうに座っていた…
「じゃあ、さっさとやっちゃおうよ。薬、出して?」
「う、うん…」
 リナが、顔を真っ赤にして、鞄から紙袋を出す。アタシはそれを受け取り、中から箱を取り出す。
「あ、あと、お薬のお金だけど…」
「ん? いいよ、終わってからにしようよ?」
「あ、うん…」
 アタシは、箱を開けて中身を取り出す。昔使った事のあるピンクの塊が5個、透明な袋の中に入っている。昔使った物よりも、かなり大きく感じる。そっか、前のと違って、大人用だもんね… アタシは、その塊を2個取りだし、1個をリナに渡した。
「? こ、これ…」
「袋に使い方が書いてあるから、一応読んでおいて?」
「…う、うん…」
 リナは真っ赤になってそれを受け取る。アタシも説明書に目を通す。そこには、大体覚えている事が書かれているだけだった… …気が付くと、アタシは説明書ではなく、袋の中のピンクの塊をじっと見つめていた… …いけない、いけない… …ふと横を見ると、リナも手の中の物を熱心に見つめている…
「…リナ、始めていいかな?」
「!! う、うん…」
 アタシが呼びかけると、リナは肩をビクッとさせた後、俯いてしまった。…やっぱりリナも、中身の方が気になるのかな…?
「それじゃあ、スカートとパンティとか全部脱いじゃって? 汚れちゃうといけないから…」
「あ、うん… …でも、恥ずかしい…」
「気にしなくてもいいよ、女の子同士だし… それに、一緒に何回もお風呂に入った仲じゃない?」
「…うん、でも… …やっぱり恥ずかしいの…」
 そう言いながらも、リナはスカートとストッキングを脱いで椅子にかける。その下には、フリルがいっぱい付いたピンクのパンティ。
「…あ、可愛いパンティ…」
 …アタシは、つい呟いてしまった。
「…や、やだぁ… …恥ずかしいから、言わないで…」
「…ご、ごめん…」
 今の一言で、リナと、そしてアタシの顔まで真っ赤になる。 …着替えの途中で、パンティが可愛いとか大人っぽいとかなんて、普段なら普通に言ってるのに… …やっぱり、ふたりとも意識しちゃってるんだ…
「…い、いいわよ…」
 腰から下は全部脱いで、手で前を隠して、リナがアタシに声をかける。
「じゃあ、こっちにお尻を向けて、四つん這いになって。」
「えっ!?」
「…恥ずかしいのは分かるけど、そうしないと出来ないよ?」
「…う、うん…」
 リナは顔を真っ赤にして、お尻をこっちに向けてい四つん這いになる。アタシは、その間に薬を袋から出して、キャップを取る。
「…梓、まだ?…」
「うん、今からやるよ。 …あっ…」
 リナの方を向いて返事をする。その拍子に、見えちゃった… …リナのって、こうなってるんだ…
「…あ、あまり見ないで… …恥ずかしいから…」
 恥ずかしくてこっちを見る事が出来ないんだろう… 向こうを向いたままで、そう言ってくる。
「…ご、ごめん… …それじゃあ、始めるけど、いい?」
「…うん…」
 アタシは、リナのお尻の穴を左手の親指と人差し指で広げ、その真ん中に、右手で持った浣腸の先っぽを当てる。
「ひゃっ! うぁっ!」
 そのひとつひとつの動作に、リナは体をビクッて震わせる。
「それじゃあ、入れるよ?」
「…うん、いいよ…」
 アタシは、そのまま右手に力を入れる。浣腸の先っぽがリナのお尻の中に…
「痛いっ!」
「あ、あれ?」
 …お尻の中に、入っていかなかった。お尻の穴に入る前に、滑らないで引っかかっている。どうしよう? 無理矢理入れるわけにもいかないし… そうだ、何か塗って…
「…ごめんリナ、ちょっと座って待っててくれる?」
「…うん、いいけど… …どうしたの?…」
「入口の所で引っかかって入らないみたいだから、油か何か、塗る物を持ってくるね?」
「う、うん…」
 アタシは浣腸のキャップをもう一度閉めて、台所に向かった。そして、ガスレンジの下の扉を開ける。ここにサラダ油が… あれ? そうだ、昨日エビフライを作った時に、全部使い切っちゃったんだった… 新しいのはあるけど、料理をする前に封を切っちゃったら、怪しまれるよね? 他に油は… …ラー油しかないよ。こんなのは絶対使えないし、どうしよう? そうだ、たしか冷蔵庫に… …あった。これも油だから、大丈夫だよね?
「リナ、油あったよ。これを塗っておけば、もう痛くならないよ?」
「ありがとう、梓… …って、そのマーガリンは?」
「これを浣腸の入れる部分とお尻に塗っておけば、ちゃんと滑って入るから、痛くならないと思うんだけど…」
「…確かにそうだけど… …でも、バターナイフで、直接塗るの?…」
「まさか。そんな事しないよ。」
 アタシは、トイレットペーパーを畳んで、その上にマーガリンを一欠片落とす。そして、そのトイレットペーパーを使って、浣腸の入れる部分にマーガリンを塗った。
「さてと、こっちはこれでいいから、またこっちにお尻向けて?」
「…うん…」
 リナは、またさっきと同じポーズを取る。アタシは、お尻の穴を広げて、マーガリンの残っているトイレットペーパーで、リナのお尻の穴を拭いた。
「うぁっ! ひゃぁっ!?」
 それと同時に、リナが大声を上げる。
「うわっ! ビックリした… リナ、大丈夫?」
「…うん、大丈夫… …何をしたの?…」
「お尻に、さっきの残りのマーガリンを塗ったんだけど… ひょっとして、沁みちゃった?」
「大丈夫… …急に冷たいのが当たったから、ビックリしただけ…」
「そっか。それじゃあ、入れるよ?」
「…うん、いいよ… ひっ! うぅっ!」
 アタシは、さっきみたいに、浣腸の先っぽをリナのお尻の穴に当て、右手に力を入れる。今度はスムーズに、中へと入っていった…
「それじゃあ、薬入れるからね?」
「…う、うん… くぁぁ…」
 浣腸の容器を潰すと同時に、リナが声を上げる。しょうがないよね、あんなに気持ち悪いんだもん…
「…よし、それじゃあ抜くから、お尻、注意しててね?」
「うん、大丈夫… ふぁぁっ!」
 リナのお尻から、ゆっくり浣腸を抜き取る… …あれ? うまく潰せなかったのか、まだ半分ほど残ってる…
「ごめんね、リナ。もう1回入れるからね?」
「えっ!? 2個目!?」
 さすがにビックリしたのか、リナが振り返る。
「ううん、違うよ。どうもうまく潰せなかったみたいで、半分くらいしか入らなかったから、もう1回入れ直すね。今度は大丈夫だからね?」
「うん、分かった… …ちょっとお腹痛いから、早くやっちゃって…」
「うん、入れるよ?」
「うん… ひぁっ! うくっ! あぁぁ… ひゃっ!?」
 リナ、もう効き始めちゃったんだ、まだ半分なのに… アタシは急いで、潰れた浣腸を膨らませ、リナのお尻に入れて潰す。急いで入れちゃったので、最後に空気も入っちゃったみたい…
「リナ、ごめん。ちょっと空気も入っちゃったみたい… じゃあ抜くから、お尻気を付けてね?」
「うん… うぁっ!」
 アタシは、リナのお尻からゆっくり抜き取った。大丈夫、今度は残ってない。そして、リナのお尻の穴をトイレットペーパーで押さえる。漏れないように、しっかりと…
「どう? お腹痛くない?」
「…結構痛くなって来ちゃった… …もう出ちゃいそう…」
「もうちょっと我慢してね? すぐに出しちゃうと、薬だけしか出ないから。」
「うん、説明書にもそう書いてあったよね? …でも、こんなに苦しいなんて… …うぅっ…」
「大丈夫? まだ我慢出来そう?」
「あ、あんまり我慢出来そうにない… …あ、あれ? 少し痛みが引いたみたい…」
「うん、でも気を付けてね? その痛み、強くなったり弱くなったりを繰り返すから。」
「え、そうなの? あ、本当だ… また…」
「どう? もうちょっと我慢できる?」
「…うん、もうちょっと… …うぁっ… …今度は駄目みたい… …うぅっ、トイレに…」
「うん、じゃあトイレに行こうね? 押さえててあげるから、ゆっくり立ち上がって。」
「う、うん…」
 リナがゆっくり立ち上がる。本当に辛そうだ。
「そのまま、トイレまで歩こうね? 頑張ってね、もう少しだから…」
「う、うん… …うぅっ… …ありがとう、梓…」
 ゆっくりだけど、何とかトイレにたどり着いた。そのままふたりでトイレに入り、リナのお尻を押さえたまま、便座に座らせる。
「梓、あの…」
「うん、分かってるから… 手を離すから、10秒だけ我慢してね?」
「うん、それくらいなら何とか…」
「それじゃあ、離すよ?… はいっ。」
 アタシは、リナのお尻から手を離す。お尻を押さえてたトイレットペーパーが便器の中に落ちる。それと同時に、アタシはダッシュでトイレの外に出て、ドアを閉める。
「う、うあっ!」
 それと同時だった。リナの呻き声、そして… 良かった、ぎりぎり間に合った… アタシは、リビングに戻ってから、リナの脱いだ服を畳んで、トイレの前にある台の上に置いた。それから再びリビングに戻り、リナが戻ってくるのを待った。これで治ってくれるといいな… そうしたら、次は…


・第四章 理由
 しばらくして、リナがトイレから出てきた。ちゃんと着替えも終わっている。良かった、ちゃんと効いたみたい。一目でスッキリした顔をしてるのが分かる。でも、一応聞いてみる。
「どうだった?」
「うん、ちゃんと一杯出たから… …すごく恥ずかしかったけど…」
「そっか、良かったね。」
「うん、ありがとう。 …でも、ごめんね。こんな汚い事させちゃって…」
「…」
「…やっぱり、本当は嫌だった?…」
「う、ううん、そんな事無いよ? リナが元気になってくれるのに、嫌なんて事はないからね?」
「梓、本当にありがとう…」
 何か、照れくさいな… 本当に嫌じゃなかったから、安心してね、リナ… …言い淀んじゃったのは、これからアタシがお願いしたい事と合わせると、偽善に聞こえちゃうかなって思っちゃったから…
「でも、お薬余っちゃったよね? 2個入り1箱で充分だと思ってたんだけど、どうしてこんなに買っちゃったの?」
「…それなんだけどね、リナ…」
「どうしたの、梓? そんなモジモジしちゃって?」
「…ひとつ、お願いがあるんだけど…」
「何? 今日のお礼に、私に出来る事だったら…」
 …は、恥ずかしい… …でも、ちゃんと言わなくちゃ…
「…あの、その… …アタシにも、それ… …使ってくれないかな?…」
「…えっ? 梓、どうしたの?」
「…実は、アタシも便秘なんだ…」
「えっ? そうだったの?」
「うん… …土曜日の部活は休むつもりで、明日の夜に薬飲もうと思ってたんだけど、本当は早く出せる浣腸にしたかったんだ… …でも、ひとりで買うの恥ずかしいから、リナと一緒に…」
「そうだったの… それでも、2個入り1箱で良かったんじゃない? ひとり1個ずつで?」
「うん、でも… …失敗しちゃったら、もう1回買いに行かなくちゃいけないんだよ? もう1回恥ずかしい思いをして…」
「そっか、そうよね…」
「…あっ! 嫌だったら無理しなくていいからね? 後で自分でやるから…」
 そうだよね、普通は嫌だよね、こんな事頼まれるなんて…
「いいよ、手伝ってあげる。梓も、私にしてくれたんだもんね…」
 リナは、笑顔でそう答えてくれた。
「あ、ありがとう、リナ… …本当は、自分でするの、怖かったんだ…」
「うん、私も怖かったから、よく分かるよ。 …でも、梓って、前に使った事あるんだよね?」
「確かにあるけど、小学校に入る前の話だし、自分で使った事無いから…」
 …そう、あの頃は、いつもママがしてくれてたから…
「そっか。それだったら、確かに怖いよね… …今は、私がしてあげるから怖がらなくてもいいからね? それじゃあ、早速始めちゃおうよ?」
「…うん…」
 アタシは、スカートとソックスを脱いで、椅子に掛ける。リナの目の前で… …リナの前で脱ぐなんて、別にたいした事じゃ無い筈なのに… …一緒に、何回もお風呂に入った仲の筈なのに… …でも、これからの事を意識しちゃってるせいなのか、とっても恥ずかしい…
「…あ、梓のも可愛い…」
 リナが、アタシのパンティ…青と白の縞々…を目にしてそう言う。
「…や、やだ、言わないで… …恥ずかしいから…」
「…ご、ごめんね… …つい…」
 …でも、アタシも同じ事言っちゃってるんだよね… …おあいこ、かな?… 脱ぎ終わったアタシは、トイレットペーパーを畳んで、マーガリンを一欠片乗せる。それから、浣腸を箱から1個取り出して、袋とキャップを取り、入れる部分にマーガリンを塗って、リナに渡す。
「それじゃあ、これでお願い… 力を入れて持つと、中身が出ちゃうから、注意してね?」
「うん… それじゃあ梓、こっちにお尻を向けて、四つん這いになってね?」
「…うん…」
 アタシは、言われるままに姿勢を変える。 …とっても恥ずかしいけど、リナもさっき、そうしたんだよね… …という事は、やっぱりリナに全部見られちゃうんだ…
「…あっ…」
 突然、リナの声が聞こえた… …やっぱり、見られちゃったんだ… …そ、そういえば…
「…ご、ごめん… …この間から、始まっちゃって…」
「いいのよ、気にしないで。女の子なんだから、当たり前の事なんだから。」
 …リナとは違って、今のアタシ、中から糸が一本出ているんだった…
「それじゃあ、始めてもいい?」
「…うん、いいよ… …おねがい…」
 …これから入れられるんだ… リナの指が、アタシのお尻の穴を広げて…
「ふぁっ! ひゃあっ!?」
 冷たっ!? 突然お尻の穴を襲った冷たさに、アタシは悲鳴を上げた。
「梓、大丈夫?」
「う、うん、ビックリしただけ… …何したの?」
「何って、マーガリン塗っただけなんだけど… 続き、してもいい? 入れるよ?」
 そ、そうだった、マーガリン塗るのをすっかり忘れてた。
「うん、入れて… くぅっ…」
 お尻に、むず痒い違和感を感じる。とっても気持ち悪い… …でも、何かが違う気がする?…
「それじゃあ、お薬入れるからね?」
「うん… ひゃぁぁ…」
 そして、お尻に薬が注ぎ込まれる。お尻から入った冷たさが、背筋をザワッとさせる。お腹に重い違和感を感じて… …もう、お腹が痛くなってきた…
「それじゃあ、入れなおすから、一度抜くよ?」
「…う、うん… くあぁっ!」
 お尻から抜かれる時に、また不快感がおそう。 …やっぱり、何かがおかしい… …でも、それが何なのかが分からない…
「それじゃあ、もう1回入れるよ?」
「は、早く… …もう、かなりお腹痛くなって来てるから… ふぁっ! うぅぅ…」
 再び、あの冷たさが襲って来た… お腹の痛みが、さらに増す。 …何で、こんなにすぐお腹が痛くなるの? 昔使った時には、もう少し経ってからお腹が痛くなってきたのに…
「はい、全部入ったよ。 抜くから、気をつけてね?」
「う、うん… うぁっ!」
 も、漏れちゃう… もう、お腹の痛みは、我慢の限界まで来ていた。気のせいなんかじゃない。昔使った時よりも、効き目が早すぎる…
「も、もう駄目っ!」
「梓!?」
 次の瞬間、アタシはトイレに向かって駆け出していた。アタシの突然の行動に、リナが驚いて声を上げる。トイレに入って、便座に腰掛ける。その途端…
「うぁぁっ…」
 お尻から、薬が出ていった。良かった、何とか間に合った… …もう、全部出しちゃおう…
「ん、んんっ…」
 お腹に力を入れるけど、続きがぜんぜん出てこない。下を覗いて見ると、本当に薬だけしか出て行ってないみたいで、塊はひとつも無い。どうしよう、もう1回やらないといけないのかなぁ…
「…梓、大丈夫?…」
 トイレの外から、ノックの音と、リナの声が聞こえてきた。
「…うん、大丈夫だよ… …ただ、全然出ないけど… …やっぱり、我慢が足りなかったのかな?…」
「…梓、悪いんだけど、すぐに出られる?…」
「…えっ? どうしたの?」
 どうしたんだろう? リナの声は、なんとなく辛そうだった。
「ごめんね… また、お腹痛くなって来ちゃって…」
「えっ!? わかった! すぐに出るから!」
 アタシは慌ててお尻を拭いて水を流し、トイレから出る。入れ違いに、リナがトイレに駆け込んでいった。 …ひょっとして、運が良かったのかな? 今、アタシの薬がしっかり効いてたら、まだトイレから出られなかったから。そうしたら、リナがどうなっちゃっていたか… それとも、しっかり我慢している時に、リナが先にトイレに入っちゃっていたら…

 アタシはリビングに戻って、パンティとスカートを履いて、リナを待っていた。しばらくすると、リナが慌ててトイレから出てきた。
「リナ、大丈夫?」
「うん、もう平気… それより、梓こそ大丈夫? 途中なのに、トイレから追い出しちゃって…」
「大丈夫だよ。ちょうど薬が効かなかったから、もう終わってたし…」
「良かった… 途中なのに追い出しちゃって、大丈夫かなって心配だったの…」
「いいよ。本当に大丈夫だから、気にしないで。」
「うん…」
 アタシとリナは、隣り合って壁にもたれて座った。
「…梓、出なかったの?」
「うん、全然… 後でもう1回やってみるよ。それで駄目なら、薬飲むから。」
「梓、すぐにトイレに行っちゃうんだもん。私の時みたいに、もっと我慢しないと…」
「ごめん… でも、もうどうしようもない位出そうになっちゃって…」
「…私の時は、そこまで酷くならなかったのに… …入れ方がいけなかったのかな?…」
 入れ方…? こんなので、人によってやり方が違うとは思えないし… そこまで考えて、アタシはある事を思いついた。
「ね、リナ。アタシのお尻に、どの位の深さまで入れた?」
「え? ほんの少しだけだけど… 1センチくらいかな? あんまり深くまで入れて、傷つけちゃいけないと思って…」
 そっか、それだ。入れられた時、何かが違うと思ったのは、それだったんだ。
「根元まで入れても大丈夫だよ。アタシもリナに入れる時、根元まで入れてたから。あ…」
「どうしたの?」
「多分それかも。出そうって感じる部分って、お尻の出口近くにあるらしいから、奥に入れないと、すぐに我慢出来なくなっちゃうのかもしれない…」
「そうなの? …ごめんね、変なやり方しちゃって…」
「謝らなくてもいいってば… 普通、こんな事分からないって…」
「今度は、ちゃんと奥まで入れるからね…」
「うん… えっ? 今度は、って…」
 もう、1回やってもらったから、終わりじゃないの?
「もう1回、手伝ってあげる… 今度こそ、ちゃんと出しちゃおうね…?」
「えっ? で、でも、もう1回やってもらったし…」
「私はちゃんと楽にしてもらったから… 梓にも、ちゃんと楽になるまでやってあげたいの…」
「…ありがとう、リナ…」
「それじゃあ… って、もう服着ちゃってたね? 悪いけれど、もう1回脱いでくれる?」
「うん… …やっぱり、恥ずかしい…」
 アタシは、もう1回服を脱ぎ出す。
「でも、さっき脱いじゃってたじゃないの。もう見ちゃっているんだから、今更気にしなくても…」
「それはそうだけど… やっぱり脱ぐのって意識しちゃうから…」
 スカートとパンティを脱いで椅子に置いて、アタシはリナの前で四つん這いになる。
「それじゃあ、もう1回油を塗るからね?」
「…う、うん… うぁっ! うくぅっ!」
 さっきと同じ、お尻の穴を冷たさが襲う。でも、今度は予測出来ていたので、さっきみたいに驚かなくて済んだ。
「それじゃあ、入れるからね?」
「うん、来て… ひゃぁっ!」
「…今度は、ちゃんと根本まで入れたから…」
「…うん、分かるよ…」
 さっきと違い、お尻に入った違和感は、ちゃんと奥まで届いてる。そして、お尻の穴に何か触れている感触がする。そう、浣腸の太い部分が、ちゃんとお尻の穴に当たっている…
「…いい? 入れるよ?…」
「…うん、いいよ… くぅぁぁ…」
 お尻の中に、冷たい物が流れ込んでいく… でも、さっきほど苦しくない…
「…ごめんね、梓。1回入れ直すから、お尻気を付けてね?…」
「…うん… ふぁっ! うぁっ! うぁぁ…」
 浣腸を抜かれ、もう1回入れられて、残った薬を流し込まれる… その度に襲いかかる不快感に、アタシは声を上げていた…
「全部入ったよ? もう1回抜くから、気を付けてね?」
「…うん、大丈夫… ひぁっ!」
 そうして、お尻から浣腸が抜かれる… …今度は、さっきほど苦しくならなかった。リナが、お尻の穴をトイレットペーパーでしっかりと押さえてくれる。
「…どう? 大丈夫?」
「うん、大丈夫… …少しお腹痛いけど、さっき程じゃないから…」
「ごめんね、梓 …やっぱり、私のせいだったんだね?」
「だから、謝らなくっていいってば… むしろ、アタシが謝らなくっちゃいけないのに… こんな汚い事、2回もさせちゃって、ごめんね…?」
「梓こそ、謝らないでいいのに… 梓はちゃんと出させてくれたんだから… 私も、梓に楽になって欲しいからね?」
「うん… …ありがとう、リナ…」
「…そういえば、いつ頃から出てないの?」
「…えっと、今日で4日目かな?」
「私と同じね? それじゃあ、アレが始まったのはいつから?」
「…あれ? そういえば、4日前からだよ?」
 …そうだ、よく考えてみたら、アレが始まる前から出にくくなって、始まってから出てないんだ…
「やっぱり… アレの時って、便秘になり易いみたいだから…」
「…そうなんだ、知らなかった… …うぅっ…」
「大丈夫? まだ我慢できる?」
「う、うん、もう少し… …まだ、大丈夫だよ…」
「女の子が便秘になりやすいのって、やっぱりアレのせいなのかな…?」
「うん、それが多いのかな… あと、恥ずかしくてトイレを我慢しちゃうとかかな…? …うぁっ…」
「大丈夫? もうトイレに行く?」
「…ううん、もうちょっと頑張れそう…」
「良かった… …もしかして、真奈ちゃんは便秘とは無縁かもね?」
「そ、そうかもね…」
 真奈なら、授業中でも平気でトイレに行けちゃうもんね? ひょっとして、便秘の苦しみを知らないかも? もしそうだったら、ちょっと羨ましい…
「…くぅっ… …もう駄目…」
「うん、じゃあトイレまで頑張ろうね? 押さえててあげるから、ゆっくりと…」
「う、うん… …うぅっ…」
 お、お腹痛い… …でも、もう少し頑張らないと… 何とかトイレに着いて、アタシは便座に腰を下ろす。リナは、まだお尻を押さえてくれている…
「それじゃあ、もうちょっと我慢してね? 手を離すよ… はいっ。」
 リナが手を離して、慌ててトイレから出ていく。ドアが閉まるのと同時に…
「く、くぅっ! うぁぁっ…」
 今度はさっきとは違って、薬と一緒に、大量の塊がお尻から勢い良く出ていった。 …良かった、ちゃんと出た… …でも、まだお腹痛いよ…
「…くぅっ… …うぁぁ…」
 お腹を上から押さえつけ、更にお腹に力を入れる。しばらくそうしてると、ちょっとずつだけど、残った薬が出ていったみたいで、お腹の痛みが無くなっていった。アタシはお尻を拭いて、水を流す。アタシを4日間苦しめていた塊は、すんなりと流れていった。トイレから出ると、アタシのスカートとパンティとソックスが畳んで置いてあった。 …ありがとう、リナ…

 部屋に戻ると、リナは壁にもたれかかって座っていた。アタシは、その隣に同じように座る。
「…梓、どうだった?」
「大丈夫、今度はちゃんと出たから… …ありがとね、リナ… …それと、こんな汚い事手伝わせちゃって、ごめん…」
「…それはもう言わないの。お互い様なんだから…」
 アタシ達は、顔を見合わせて、クスクスと笑う。
「…お薬、余っちゃったね…」
 リナが、薬の箱を見つめて言う。リナが1個、アタシが2個使ったから、あと2個残っている。
「うん… 1個はリナが持ってなよ。もう1個はアタシが貰うから。」
 アタシは、1個をリナに手渡しながら、そう言った。
「えっ、いいの?」
「うん、いいよ。またそのうち使う事もあると思うから。でも…」
「でも… 何?」
「うん、家に帰ったら、すぐ机かどっかに仕舞わないとね。そのまま鞄の中に入れたままにして、抜き打ちで持ち物検査なんてあったら…」
「そうね。すぐ仕舞うから。」
 リナは、クスクス笑いながら、それをカバンの中に仕舞う。
「…ねえ、今度必要になったら、また神城君の所に買いに行こうよ?」
 しばらくしてから、アタシは、そう切り出した。
「神城さんのお店に? …でも、顔も名前も覚えられちゃったし…」
 確かに、知り合いの所にアレを買いに行くのは恥ずかしいけれど…
「だから、もうバレちゃったんだから、他の店で覚えられないかなんて心配する必要無いんじゃない? それに、神城君なら信用できるし…」
「…確かに、考えてみればそうよね… …あちこちお店を換えると、それだけ覚えられる危険性が大きくなっちゃうかもしれないから…」


・第五章 仲直り
 しばらくして落ち着いたら、アタシはある事が心配になってきた。そう、さっき薬局で鉢合わせちゃって、アタシ達が何を買ったのかを暴いちゃった真奈の事だ。
「…真奈、絶対落ち込んでるよね…?」
「…うん…」
 真奈の事だ。きっと、いや間違いなく、自分が友達を傷つけて、アタシ達から嫌われると思って、落ち込んでる…
「明日のお昼に、ちゃんと真奈に言おうね。全然気にしてないから落ち込まないでって…」
「うん。本当に全然気にしてないし、真奈ちゃんが苦しまなくちゃいけない理由なんて、本当に何もないんだから…」

「真奈、いる〜?」
 翌日のお昼休み。教室の入り口から呼びかけると、真奈の肩がビクッて震えて、怯えたようにこっちを見る… …やっぱり、傷ついちゃってる…
「…あ、アズみん、みずりー…」
「真奈ちゃん、屋上で一緒にお昼食べようよ?」
「…うん…」
 真奈は俯いたまま無言で、アタシ達について来る。まるで、これから怒られる事を怯えている子供みたいに… …そんなつもり、全然無いのに…
 屋上について、適当な場所を見つけ、3人で腰を下ろす。お弁当も開かず、3人そろって無言のまま俯いていた。ちゃんと言わなくちゃと思うんだけど、どうしても言い出せない…
「…昨日はごめんね… …本当は、怒ってるんでしょ?…」
 真奈が、今にも泣きそうな声で喋り始めた…
「真奈、その事なんだけどね… アタシ達、全然怒ってないから…」
「うん。ビックリして恥ずかしかったけれど、本当に怒ってないからね?」
「…でも、マナはあんなにひどい事… …ぐずっ… …ひっく…」
 真奈がしゃくり上げ始める… …どうしよう… …どうしたら分かって貰えるんだろう…
「…真奈ちゃん、これから昨日の事全部話すから、落ち着いてよく聞いて欲しいの…」
「…うん… …でも…」
「…真奈、お願い。ちゃんと聞いて。」
「…うん… …わかったよ…」
 良かった、とりあえず、話だけは聞いて貰えそうだ… でも、どう話せば分かって貰えるんだろう…
「昨日ね、委員会が終わった後に、私と梓と一緒に喫茶店に行ったの。でも、私は食欲が無かったの。その時梓に『出ないの?』って聞かれて、そうって答えたの…」
 リナがこっそりとアタシを肘でつつく。うん、この後はアタシが…
「でね、飲み薬を使ってるかリナに聞いたんだけど、いつ効くか分からないから怖くて使えないって言われたんだ。それじゃあ、アレを使ったらって言ったんだけど、怖いし恥ずかしい言われちゃって…」
 今度は、アタシがリナを肘でつつく。
「そうしたら、梓が一緒に買いに行って、使うのを手伝ってくれるって言ってくれたの…」
「…えっ!?」
 それがどういう事か、真奈には分かったみたい… さすがに、驚いて声を上げた。
「本当だよ? 飲み薬を怖がって休みの日まで飲まなかったら、1週間近く出ない事になっちゃうところだったから。そんなになると心配だし、それに、辛そうな顔を真奈に見せて心配かけさせたく無かったから…」
「…マナの事も、心配してくれてたの?…」
「うん、そうだよ… その後で、駅前の薬局で買おうと思ったんだけど、知ってる人に見られるかもしれないと思って、離れたところにあるあの薬局に行ったんだ。まさか、神城君の家だとは思わなかったけれど…」
「…知られたくなかったのに… …ごめんね…」
「真奈、そうじゃないよ。アタシ達は、あの薬局が真奈の家の近くだって知ってて買いに行ったんだから。真奈に会うかもしれないって分かってて…」
 …ひょっとしたら、アタシ達は真奈には知られちゃってもいいと思っていたのかもしれない。だから、あの薬局に…
「それでね、私、色々と考えたの… 喫茶店で梓と話していた時から、もしも真奈ちゃんが一緒にいたらどうなってたんだろう、って。」
「…マナが、その時からいたら?…」
 …あ、そっか… …その時から真奈が一緒にいたとしても…
「何回考えてみても、同じ結果になったの。真奈ちゃんが一緒にいても、私は便秘の事をうち明けて、飲み薬は飲めない、アレは怖くて恥ずかしくて使えない、って言ってたと思うの…」
「アタシも同じ。真奈が一緒にいても、一緒に買いに行って、手伝ってあげるって言ってたと思う。そして、その通りにしたと思う。 …これって、どういう事か分かる?」
「…ううん、わかんない…」
「つまりね、初めから真奈ちゃんになら、バレちゃっても平気だったって事なの。あの時は、たまたま初めから真奈ちゃんがいなくて、買った時に突然だったからビックリしただけなの。」
「そうだよ、真奈。だから、アタシもリナも全然気にしてないし、怒ってないんだよ? 昨日の事は、気にして悩む事なんて何も無いんだよ?」
「…本当に、もう怒ってないの?…」
「『もう』じゃなくて、初めから怒ってないから… …でも、これ以上真奈が悩んでると、本当に怒っちゃうぞ?」
「お願いだから、いつもの真奈ちゃんに戻ってね? 私も梓も、真奈ちゃんが落ち込んでる事が一番辛いんだから…」
「…うん… …ごめんね…」
「…ほら、また謝るし…」
「…ううん、今のは違うの。昨日の事じゃなくて… …マナの事で心配かけさせちゃって、ごめんね… …それと、心配してくれて、ありがとう…」
 真奈が顔を上げる。まだ涙は止まってないけど、泣き笑いになってる…
「うん… …いつもの仲良しの3人に戻ろうね? 大丈夫だよね、真奈ちゃん?」
「…うん、大丈夫だよ… …ありがとう、アズみん、みずりー…」
 アタシとリナは、真奈の涙が止まるまで、真奈の背中を撫で続けた… …真奈、大丈夫だよね?… …もう、いつもの真奈に戻れるよね?…

「…うみゅ、そういえば…」
 しばらくして、真奈が口を開いた。あれ? その喋り方…
「あ、いつもの真奈の喋り方になってる。」
「やっぱり、真奈ちゃんはこうでなくっちゃね?」
「…えへへ… …もう大丈夫だよ… …本当にありがとう…」
「気にしない気にしない。んで、どうしたのかな?」
「…昨日の事だけど、結構大きな箱買ってたよね?… …あんなにたくさん使ったの?…」
 うわ、恥ずかしい… でも、リナの事は教えたのに、アタシの事だけ隠しておく訳にはいかない… それに、もう真奈には全部言うって決めたから…
「あ、それは… …実は…ね、アタシも便秘だったんだ…」
「にゅ? アズみんも?」
「うん… アタシもひとりでアレを買うのは恥ずかしかったから、リナのと一緒に買っちゃったんだ。 …本当は普通のを2箱欲しかったんだけど、売り切れてたから、しょうがなく5個入りの箱を買ったんだ。」
「んにゅ、それであの箱だったんだね?」
「うん… それと、自分で使うのも怖かったから、リナに使ってあげた後、アタシにも使って、って相談するつもりだったんだ… 駄目だったら、リナが帰った後に自分で使おうとは思っていたけど…」
「…結局、私が手伝ってあげたんだけどね…」
「うみゅ、お互いに使い合っちゃったんだ…」
 …真奈の言葉に、頭の中に昨日の事が浮かんでしまい、、アタシもリナも真っ赤になっちゃった…
「…改めてそう言われると、結構恥ずかしいかも… …でも、その通りだよ…」
「…そういえば、真奈ちゃんは、便秘はしないの?」
 …そういえば、昨日もリナ、その事言ってたよね?
「…マナはね、とってもひどい便秘だったの。お薬を飲まないと全然出なくて、いつも金曜日の夜にお薬を飲んで、休みの間に全部出しちゃってたんだ…」
「…真奈ちゃんが週末が近づくと具合悪そうにしてたのって、それが原因だったのね?…」
「うん、そうだよ…」
 …全然、そんな事知らなかった… 真奈も、苦しんでたなんて… …それも、アタシ達よりもずっと長い間、ずっと酷い苦しみから…
「…でも、そのお薬も、使ってるとだんだんと効かなくなってきちゃって、だんだんと量が増えていっちゃったの… いっぱい飲むと1日下痢が続いちゃって苦しくて辛かったけど、量を減らすとお腹が痛くなるだけでなおさら苦しいし、飲まないと2週間くらい経っても全然出ないし…」
「…本当に酷い便秘なんだね… 薬ってアレでしょ? よく宣伝してるピンクの…」
「うん、そうだよ… …最後の方は、アレを1回に15錠飲んでた…」
『!?』
 15錠!? アタシなら1錠でもすごく効いて、あんなに苦しくなるのに… …治療でも、昨日のアタシ達以上に苦しんでたんだ… …でも、そんな事続けてたら…
「真奈、その薬止めた方がいいよ? そんなに飲んでたら、そのうち体壊して死んじゃうかもしれないよ?」
「そうよ真奈ちゃん。一度病院でちゃんと…」
「ヤダッ!! 絶対に行かないっ!!」
「真奈?」
「真奈ちゃん?」
 真奈が、突然叫んだ… よく見ると、体が微かに震えている…
「…あ、ごめん… …病院は、昔診てもらった時、とってもひどい目にあっちゃったから… …だから、もう病院には絶対に行かない…」
 真奈は力無く項垂れる… 真奈がこんなに嫌がるなんて… とても酷い目に遭っちゃったんだね…?
「…ごめんね、真奈ちゃん… …もう、病院の事は言わないから…」
「…でも、その薬だけは止めた方がいいよ?」
「…うん、大丈夫だよ。もう止めてるから… …タカちゃんもマナの事心配してくれて、よく効いてお腹に優しいお薬を見つけてくれたんだ…」
「それって、ひょっとして4月頃?」
 週末が近づくにつれ、具合悪そうにしてた真奈が、1週間通して元気になったのは、その頃からだ。
「うん、そうだよ… …そういえば、元気になった理由を『彼氏が出来たからだ』って勘違いされちゃったよね?」
「だって、あの時の真奈ちゃん、とっても怪しかったんだもん… …でも、原因がそれだったら、確かに秘密にしちゃうよね…」
「そんな事もあったよね… 真奈と神城君がデートしてたなんて勘違いしたりして… …でも、その直後に本当にくっついちゃうんだもん…」
「うみゅ〜 …改めて言われると、恥ずかしいよ…」
 真奈は顔を真っ赤にして、俯いちゃった。 …良かった。完全に、いつもの真奈に戻ってくれたみたい…
「…さてと、そろっとお昼食べようよ。」
「…そうね。つい話し込んじゃったけど、お昼休みには限りがあるからね。」
「うみゅ、実は昨日から心配で、あまり食べられなかったんだよ… 安心したら、お腹空いて来ちゃった…」
 アタシ達は、お弁当を開けようとして、お弁当箱に手をかけた。その時…
「えっ? 嘘でしょ!?」
「嘘じゃないみたい… ちょうど時間だわ…」
「うにぃ〜 そんなぁ〜」
 そう、午後の授業の予鈴が聞こえてきた。話し込んでて、昼休み終わっちゃったんだ…
「真奈、リナ。早く教室に戻らないと…」
「んみゅ〜 でも、お腹空いた…」
「今日の放課後、みんなで何か食べてから帰ろうね? だから、今は急がないと…」
「…うみぃ、わかったよ…」
 アタシ達は、ダッシュで教室へと戻る。真奈が元に戻ってくれたのは良かったけど、コレはコレで最悪だよ〜!


・終章
 放課後、アタシ達は校門の前で集まっていた。
「えーと、昨日の店でいいんだよね?」
「うん。近いうちに真奈ちゃんと一緒に3人で行こうって言ってたから。」
「どんなお店なんだろう? 楽しみだな〜」
「それじゃあ、行こっか!」
 アタシは歩き出そうとして、ふと気が付いた。あそこにいるのって…
「…あ、あれ、神城君じゃない?」
「えっ? あ、本当…」
「タカちゃ〜ん!」
「あ、マナちゃん! …あ…」
「えっと…」
「…」
 神城君だと分かって、真奈が呼びかける。神城君も、真奈に気付いてこっちにやって来る。でも、アタシとリナにも気付いて、なんだか気まずそうな顔になる。アタシもリナも、ちょっと恥ずかしいので、俯いてしまった…
「タカちゃん、これから帰り? いっしょに途中まで帰ろうよ?」
「…いいけど、途中までって?」
「んに、マナ達、ちょっと寄るところあるから…」
 …神城君が、ちらっとこちらに視線を向けてくる。アタシとリナは、笑顔で頷く。ちょっと引きつった笑顔になっちゃったけど、神城君がいたって、何もまずい事なんて無いもんね。それに、ひとつだけ言っておきたい事もあるし… アタシ達4人は並んで歩き始めた。 …? すぐに、真奈と神城君の歩くペースが少し遅くなった。そのまま、一歩後ろを付いてくる。
「…仲直り、出来た?…」
「…うん、大丈夫だったよ…」
「…そっか… …良かったね…」
「…うん…」
 真奈と神城君が喋っている。小声で話しているけど、全部聞こえてきちゃった。そっか、神城君も心配してくれてたんだ… アタシはついクスクス笑ってしまう。あ、リナも同じく笑ってる。ちらっと後ろを見ると、ふたりとも真っ赤になっちゃってる。今の笑い声、聞こえちゃったかな?
「…うにぃ〜」
 ふたりとも、少し恥ずかしそうに歩調を戻す。そうしてアタシ達は、また4人並んで歩き始めた。
「…えっと、神城君、昨日の事なんだけど…」
 …アタシが切り出す。これだけは絶対に言っておかないといけないから…
「…うん、その… …本当に、昨日はごめん… …誰にも言わないから、安心して?…」
「大丈夫ですよ。私達、神城さんの事信じてますから…」
「神城君は、真奈が選んだ彼氏だもんね。絶対に大丈夫だよ。」
「…うん、ありがとう…」
「…だから、神城君も、もう気にしないでね? 神城君が気にする事なんて、本当に何も無いんだよ?」
「それに、神城さんがそんな顔してると、私達も辛いから…」
 真奈も、神城君も、苦しむ必要なんて本当に何も無いんだよ? アタシ達は、もう気にしてないから… …それに、神城君がこんな調子のままだったら、また真奈が落ち込んじゃう…
「…分かったよ、ありがとう。そう言って貰えると、気が楽になるよ。」
 神城君が、こっちを向いて微笑む。これで全て元通り、かな?
「…ところで、みんな具合大丈夫? 何だかとっても疲れた顔してるけど?」
 アタシ達を見て、神城君が聞いてくる。確かに、アタシ達は疲れた顔してる。でも、疲れたんじゃなくて…
「…うにゅ〜 おなかすいた…」
「…は?」
 神城君の目が点になった。今の真奈の答えは、完全に予想外だったみたい。
「えっと、あの… お昼休みに、私達が怒ってない事を真奈ちゃんに分かってもらおうと思って、お話ししてたんですけど…」
「それで、誤解が解けて、仲直りできて、そのまましばらく喋ってたら…」
「…んにぃ、お昼休み、終わっちゃったの…」
「えっ? それじゃあ3人とも、お昼食べてないの?」
『…えへへ…』
 アタシ達3人で照れ笑いを浮かべる。
「うに? なんだかタカちゃんも疲れた顔してるよ?」
 …言われてみれば、神城君の顔も何となく疲れているように見える。
「…実は、昨日からマナちゃん達の事が心配で、殆ど食べられなかったから…」
「うみゅ? マナ達とおんなじだね?」
 …神城君もアタシ達の事、心配してくれてたんだ… …心配かけて、ごめん…
「それでしたら、これから私達と一緒に行きませんか?」
「アタシ達もお腹空いたから、これから何か食べに行く所なんだけど、一緒に来ない?」
「タカちゃん、一緒に行こうよ〜?」
「…うん、それじゃあ、お言葉に甘えて。」
 神城君は、チラリと腕時計を見てから、そう言った。
「それで、行く場所は決まってるの?」
「んに、アズみんのおすすめのお店だって。」
「駅前にある喫茶店なの。昨日、梓と一緒に行ったんですけど、とっても雰囲気のいいお店でしたから。」
「駅前の…? ところでそのお店、なにがお勧めなの?」
「全部。」
 神城君の問に、アタシは迷わず即答した。
「…いや、いきなり全部って言われても…」
「何頼んでも安くて美味しいよ。アタシが全部試したんだから間違い無し!」
『…』
 …? 一瞬、沈黙が流れる…
「…んに? …メニュー全部?」
「…上川さんひとりで制覇?」
「…梓って、よく食べると思っていたけど、思った以上に大食いなのね…」
「…? !! そっ、そーじゃなくって! 何回も家族で行って、互いに摘んで試したの!」
 顔を赤くしたアタシの反論に、3人は爆笑した。特に真奈なんて、お腹抱えて笑ってる… …もう、みんなったら…
「え〜い、今日はいっぱい食べる! 昨日はふたりとも食べられなかったから、その分も取り戻す!」
「…ちょ、ちょっと梓…」
「…あ…」
 …しまった。昨日アレを買ったのは知られてるから、こんな事言ったら、昨日ふたり共使ったのが神城君にもバレバレじゃない! 慌てて神城君を見ると、笑いすぎて息も絶え絶えになっている真奈の背中を笑いながら撫でてあげているところだった。 …良かった、気付いてないみたい…
 …今の爆笑で、完全に元の仲良し3人組に戻れたような気がした。いや、元のじゃなくって、神城君も加わって、新しく4人組になったのかな? これからは何があっても、この4人で仲良く乗り越えて行けそう。 …ふと、そんな気がした。


−終−

NEXT

第4話 Side-B


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