即 効 薬
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即効薬 第三話 病院で Side-B
・序章
「え〜っと、ここ、どこ?」
私は地図を見ながら、キョロキョロとあたりを眺めている。そう、早い話が、道に迷っちゃった。前に家族で来た事はあったけど、電車でひとりで来るのは初めてだから。
「…う〜ん、どこなんだろう、おにぃちゃんの家…」
キョロキョロしながら十字路の真ん中に出ると、左の方から、高校生くらいの男の人と女の人が、何か楽しそうにお話ししながら歩いて来る。あれは… …うん、間違いない!!
「おにぃちゃ〜ん! おねぇちゃ〜ん!」
私はそのふたりに呼びかけながら、ダッシュで向かっていった。ふたりとも、とてもビックリしている。大成功! ビックリさせたくて、遊びに来る事を秘密にしてたんだもんね。
「よかった〜 来たのはいいんだけど、道に迷っちゃって、どうしようかと思ってたんだよ〜」
『…誰だったっけ?』
ふたり声をそろえて聞き返してくる。
…あれ? 突然の再会におどろいてたんじゃないの? ひょっとして… …ふたりそろって、私の事忘れちゃってる…?
私は二条茉莉香(にじょう まりか)。小学校6年生。部活の合宿と大会でこの町の近くまで来たから、その帰りに、いとこのおにぃちゃんのところに遊びに来たの。おばちゃんには連絡したけど、高志おにぃちゃんと真奈おねぇちゃんをビックリさせたくて、内緒にしてもらってたんだ。でも、途中で道に迷っちゃって、どうしようかなと思ってたら、ちょうどおにぃちゃんとおねぇちゃんが歩いてきたの。これはこれでビックリするかなと思って、ダッシュで向かっていったのに…
・第一章 再会
「ひっど〜い! 私の事忘れちゃったの!? 茉莉香! 二条茉莉香だよ!」
「えっ、茉莉香ちゃん!?」
「おにぃちゃん、お久しぶり。2年ぶりだね?」
「うに? ひょっとしてマリりん? タカちゃんのいとこの?」
「そうだよ、おねぇちゃん。 …ひょっとしてふたりとも、私の事忘れちゃってた?」
「そんな事ないよ。ただ、2年前より背も伸びたし、凄く可愛くなったから、分からなかったんだよ。」
「ヤダなぁ、もぅ… …そんな事言われると、恥ずかしぃよ…」
「うみゅ、それに突然こんな所で会うとは思わなかったからね。マリりん、どうしてここに?」
…さっきは私って分からなかったから、ビックリ作戦は失敗。だから、少しおどかしちゃえ…
「んとね、家出してきた。」
『!?』
「…冗談だよ。ビックリした?」
「茉莉香ちゃん。いくら冗談でも、人に心配かけるような嘘は駄目だよ?」
…うゎ、口調はやさしいけど、目が笑ってない。本当に怒ってるよ… …そうだよね、こんな事言っちゃいけないよね…
「…はい、ごめんなさい…」
「よしよし、分かればいいんだよ。」
おにぃちゃんが、私の頭をなでてくれる。 …実はこれ、結構気持ち良くて、私のお気に入りだったりする…
「それで、どうしたの?」
「うん、部活の合宿と大会がこの近くであったの。それが終わってから、そのままこっちへ来ちゃった。」
「…全然そんな話聞いてないよ? おじさんとおばさんはちゃんと知ってるの?」
「さっきの家出は本当に冗談だってば… パパもママもおじちゃんもおばちゃんも知ってるよ。おにぃちゃん達をビックリさせたかったから、内緒にしてもらってたの。本当は家の中に隠れてて、突然飛び出してビックリさせようと思ってたんだけど、道に迷っちゃって…」
「それで鉢合わせちゃったのか… とにかく、ようこそ。よく来たね。」
「うん!」
「お〜 あったあった〜」
それから5分で、おにぃちゃんの家に着いちゃった。 …この辺、1時間近く歩き回って探してたんだけど…
「うん、あそこだよ。ほら、荷物置いておいで?」
「うん!」
私はおにぃちゃんの家に向かって駆け出した。 …あれ? おにぃちゃんとおねぇちゃんは来ないの? チラッと後ろを見ると、おにぃちゃんとおねぇちゃんは、ヒソヒソと何か話してた。 …あ、なるほど…
「こんにちは〜」
「いらっしゃい、茉莉香ちゃん。ちょっと遅かったね?」
お店のカウンターから、おばちゃんが話しかけてきた。2年前と変わらない、とってもやさしい笑顔。
「うん、ちょっと道に迷っちゃって… そしたら、おにぃちゃんとおねぇちゃんにばったり会っちゃって…」
「あらら… じゃあ、ビックリ作戦は中止?」
「ただいま。」
「ふにぃ、おじゃましま〜す。」
「いらっしゃい、真奈ちゃん。おかえり、高志。」
「じゃあ母さん、僕、これから店に立つから。」
「あれ? これからお休みって書いてあったよ?」
「え? あれ、本当だ…」
お店の前には、『都合により、本日は午後4時で閉店いたします。』って張り紙がしてあった。
「家の中に茉莉香ちゃんひとりだけにしておく訳にいかないでしょ? せっかく遠くから遊びに来てくれたんだから。いいから今日はもう閉店。それじゃあ、お仕事行って来るから茉莉香ちゃんの事、お願いね?」
「分かったよ。おいで、茉莉香ちゃん、マナちゃん。」
『うん!』
私とおねぇちゃんの返事がきれいにハモった。
・第二章 体調
私とおねぇちゃんが居間のテーブルの前に座っていると、おにぃちゃんが麦茶とお菓子を持ってきてくれた。
「さ、どうぞ。」
「いただきま〜す!」
私はそう言って、麦茶を飲んだ。 …? 見た目は薄い麦茶みたいだけど、さっぱりしてておいしい。でも、絶対に麦茶じゃない…?
「…おにぃちゃん、これ何?」
「水出し紅茶だよ。試しに作ってみたら美味しかったんで、うちでは最近は麦茶じゃなくて、ずっとこれなんだ。 …ひょっとして、美味しくなかった?」
「ううん、とってもおいしいよ。ただ、今まで飲んだ事のない味だったから、何だろうって思って。」
紅茶って、こんな飲み方もあるんだ… 私は紅茶をもう一口飲んでから、さっきの事を聞いてみた。
「ねえ、おにぃちゃんとおねぇちゃん。さっき私が家に入った後、何話してたの?」
「んにゅ? ア、アレね、何でもないよ…」
「そうそう、大した事じゃないから…」
おねぇちゃんとおにぃちゃんが、ちょっとあせったように返事をした。 …やっぱり、間違いない…
「…ひょっとして、私のせいで、デートの約束ダメにしちゃった?」
あ、おにぃちゃんとおねぇちゃんの顔、真っ赤になっちゃった…
「マ、マリりん、どうして…?」
「どうして、って… 見てれば分かっちゃうよ。でもごめんね、突然来て、デートのじゃましちゃって…」
「茉莉香ちゃんは、そんな事気にしなくてもいいんだよ?」
「んに、タカちゃんとは毎日会ってるから、気にしないでね? デートは別の日でも出来るから。」
「うん、ありがと…」
「んにゅ、でも、その代わりに…」
「…な、何?」
…何だろう、おねぇちゃんがニヤリと笑って、話しかけてきた。
「明日は、タカちゃんと海に行く予定だったんだけど、マリりんも参加する事!」
「えっ、海!? 本当にいいの!?」
「そうか、その手があったか! うん、いいよ、一緒に行こうね?」
「うん!! ありがとう!!」
私の住んでる所は山の中だから、海を見た事がない友達も結構いる。いつもおにぃちゃんの所に来る時は、海水浴に連れて行ってもらうのを楽しみにしてたんだ。
「あ、そういえばマリりん、水着は持ってきてる?」
「えへへ… …実は海に連れて行ってもらおうと思って、持ってきてるんだ…」
「うみゅ、準備いいな〜」
「…えへへ…」
「そう言えば、大会はどうだったの? たしか、吹奏楽でクラリネットだったよね?」
私は右手でVサインを作って、おにぃちゃんとおねぇちゃんに見せる。
「えへへ〜 次の大会への出場権、バッチリ取れたよ〜」
「おお、やったな!」
「すごい、マリりん!」
「ありがとう! でも、私ひとりの力じゃないから…」
「何言ってるの。確かに茉莉香ちゃんひとりの力じゃないけど、茉莉香ちゃんの力が無かったら、取れなかったでしょ? みんなで作り上げるものなんだから。」
「うん、そうだね。ありがとう、おにぃちゃんとおねぇちゃん。」
その後も、私達は色々な事を話してた。学校の事、友達の事、部活の事、お父さんお母さんの事、勉強の事…
「うにゅ? マリりん、食べないの?」
ふと、気付いたようにおねぇちゃんが聞いてきた。私は、さっきから紅茶ばかり飲んでて、お菓子は食べていない。
「あ、うん。ちょっとね…」
「んに、ひょっとしてダイエット中?」
「う〜ん、まあ、そんな感じかな?」
つい、ごまかしちゃった。本当は食欲が無いからだけど。
「…そんなに痩せなきゃいけないとも思わないけど…」
おにぃちゃんが、私の体をさっと眺めてからそう言った。
「…おにぃちゃんのエッチ…」
「え? そ、そんなつもりじゃ…」
「あははっ、冗談だよ?」
ちょっと赤くなってあわててるおにぃちゃんに私はそう言った。分かってるよ、そんなつもりじゃない事は。ただ、そう言ってみたかっただけ。私、もう子供じゃないから。
「んに? もうこんな時間だ。マナ、帰らないと…」
「うん、それじゃあ、また明日。」
「おねぇちゃん、また明日ね〜」
「んみゅ、また明日ね〜」
…お姉ちゃんが帰ってからしばらくして、夕ご飯になった。とっても美味しそうな料理が並んでたけど、私はほとんど食べられなかった。心配するみんなに、『合宿と大会でちょっと疲れちゃったから』と言ってごまかした。そうして、私は早めに眠っちゃう事にした…
ふと目が覚めると、周りはまだ真っ暗だった。時計を見ると、ちょうど12時をすぎたところだった。
「…のどかわいたなぁ…」
私は、階段を下りて台所へ向かった。 …あれ? まだ電気がついてる。誰だろう?
「あれ? 茉莉香ちゃん、眠れない?」
「あ、おにぃちゃん… ちょっと、のどかわいちゃって…」
台所にいたのは、おにぃちゃんだった。夜中なのに、コーヒーを飲んでる。
「はい、これでいいかな? お茶だと眠れなくなっちゃうから。」
「わ、ありがとう。」
おにぃちゃんが、ちょっとレモンをしぼった氷水を作ってくれる。ダイエットしてるわけじゃないけど、あまい物だと太っちゃうし、お茶だと眠れなくなっちゃうから、夏の夜はこれが一番。
「具合どう? ちょっとは良くなった?」
「うん、少しいいよ… やっぱり、合宿とかで疲れたみたい。」
部活の合宿は三泊四日で、そのまま続けて大会があって、帰る前に一泊したから、結局四泊五日の日程になっていた。
「じゃあ、お腹空いた? 夕飯もほとんど食べてなかったし。」
「…ううん、まだ食べたくない…」
「…疲れて風邪気味なのかな? …それとも夏バテかな?」
おにぃちゃんが、私の額に手を当てながら聞いてくる。そんな事しなくても、熱はないのに。本当は、何で食欲がないのか、何で体調が悪いのかは分かっている。でも…
「茉莉香ちゃん、どんな風に具合悪いの? ここには色々と薬があるから、言ってごらん?」
「…うん、ちょっとね…」
どの薬があれば元気になるかは、本当は分かっている。そして、それが簡単に手に入る事も。でも、それをおにぃちゃんには知られたくない…
「おにぃちゃん、ここに来る途中に、病院あったよね? 明日、朝一番に行って来るよ。」
「病院… ああ、上川診療所ね。保険証は持ってる?」
「うん。合宿の時にコピーして持って来いって言われてたから。でも…」
「でも?」
「…あのね、おにぃちゃん… …お金、貸してくれる?…」
「診察料? いいよ、出してあげるから。でも、そんな事気にしなくてもいいのに…」
「うん、ごめんね…」
病院に行くのは、本当は恥ずかしい… でも、病院なら、すぐにあの薬が手に入る。そう、おにぃちゃんに知られなくても…
・第三章 通院
「二条茉莉香さん、診察室の前のベンチでお待ちください。」
「あっ、はい。」
上川診療所に行って受付をして、しばらくすると看護婦さんに呼び出された。土曜日の午前中だから込んでるかなって思ったけど、そんなに患者さんはいなかった。この調子ならすぐに終わりそう。ベンチに座ると、診察室とベンチの間はカーテンで区切られているだけだった。 …ひょっとしたら、耳をすますと、中の声って聞こえちゃうんじゃないかな?…
「二条茉莉香さん、診察室へお入りください。」
「はい。」
看護婦さんに呼ばれて、私はカーテンをくぐり、診察室へ入った。中にはおじさんの先生がいた。よかった、やさしそうな人だ…
「二条茉莉香ちゃん、12歳。小学校6年生かな?」
「はい。」
「住所はだいぶ遠いようだけど、こっちには旅行で?」
「はい、近くの親戚の所に来ています。部活の合宿の帰りに寄りました。」
「それで、今日はどうしたのかな?」
「合宿の途中からですけど、お腹が痛くなって、食欲が無いんです。そんなにひどくなかったんですけど、おとといから、お腹の痛みがちょっとひどくなってきて…」
「腹痛と食欲不振か… 今日はトイレに入ったかな? ちゃんとウンチは出た?」
やっぱり聞かれた… 予想してたけど、はっきり聞かれると恥ずかしい… …そう言えば、ここってカーテンで区切っただけだったよね? …外に聞こえないかな?
「…いいえ、出てません…」
「昨日は?」
「…いいえ、昨日も…」
「いつ頃からウンチ出てないのかな?」
「…合宿が始まってからだから、今日で6日目です…」
「6日も? それじゃあ苦しかったでしょ?」
「…はい…」
「たぶん、便秘だね。」
…そう、これが食欲がなかった原因。合宿や大会の時はそんなに苦しくなかったんだけど、大会が終わって気が抜けたせいか、だんだんと苦しくなってきた。おにぃちゃんに便秘薬をもらえばすぐに治ったんだけど、それをおにぃちゃんに知られるのは恥ずかしいから…
「それじゃあ、ちょっと調べるから、ベッドの上に仰向けになってね。」
「…はい…」
私は、言われるままにベッドの上にあおむけになった。
「ちょっとお腹見せてね?」
「…はい…」
先生は、上着をおへその辺りまでたくし上げ、スカートとパンティをちょっと下げる。そして、左脇腹をちょっと押してくる。
「ここは、痛くない?」
「はい。」
その手がだんだんと下がっていって、ある所に差しかかった時…
「痛っ!」
私のお腹に、何か突き刺すような痛みが走った。
「あ、ここ痛いかな? じゃあ、ここは?」
「痛っ! そこも痛いです…」
先生が、さっきよりちょっと下を押した。そこも、押されるとすごく痛い…
「お腹の中にウンチが一杯溜まって、硬くなっているね。今度は、四つん這いになってくれるかな?」
「…はい…」
私は、先生の言ったとおりに、ベッドの上でよつんばいになった。
「じゃあ、今度はお尻を見せてね?」
「…えっ?」
先生が、パンティを少し下げちゃった。たぶん、お尻の穴が見えちゃうくらいに…
「あっ? イヤッ!」
「ちょっと我慢してね? すぐ終わるからね。」
がまんって? すぐ終わるって、一体何をするの? 先生の指が、お尻の穴を広げて…
「ひゃぁっ!?」
お尻の穴に、何か冷たい物がぬられた。 …何? …何をしてるの? そして…
「ヤ、ヤダッ… 痛っ! 痛いですっ! き、気持ち悪いっ!」
お尻の穴に、何か太い物が入って来た。ザワリとした感触が背筋を走る。それが動く度に私のお尻は、痛みと、たえられない気持ち悪さにおそわれる…
「くぁっ!?」
お尻の中で、それが動き回っている… そして、お腹の中で、何かがカチカチ当たっている感じがする…
「うあっ!」
そして、突然、それはお尻から抜かれた。 …一体、何だったの?…
「はい、もういいよ。だいぶお尻の方まで、ウンチが溜まっているね。」
先生が、指に付けたカバーみたいな物を取りながら、そう言ってくる。そのカバーの先っぽは、少し茶色くなっていた。 …ひょっとして、先生、お尻の穴に指を入れたの…? …じゃあ、その茶色いのって…
「じゃあ治療するから、診察室を出て左に行って、真ん中のベッドで待っててね。」
「…はい…」
カーテンを抜けると、診察室前のベンチには、8歳位の女の子と、そのお母さんらしい人が座っていた。 …今の、全部聞こえちゃったのかな? もしそうなら、恥ずかしい… 私は、そのふたりとは目を会わせないように、ベッドへと向かった。診察室を出て左に行くと、ベッドが3台セットしてあった。ベッドは診察室側にセットされていて、ベッドに寝て左側が奥のベッド、右側が手前のベッドになっている。診察室の陰になっていて、ベンチからはベッドは見えない。けれど、互いのベッドの間にはカーテンなどはなくて、丸見えになっている。一番奥のベッドの上では、男の人が、足に包帯を巻いてもらっていた。真ん中と手前のベッドには誰もいない。私は、先生に言われたとおり、真ん中のベッドの上に腰掛けて待っていた。
しばらくして、先生がやってきた。看護婦さんが、何かが乗ったワゴンを押してくる。
「じゃあ茉莉香ちゃん、これから治療するから、スカートとパンツを脱いじゃってね。」
「えっ!?」
脱ぐ、ってココで!? 男の人もいるのに!? 私が左を見ると、男の人は顔を左に向けた。
「大丈夫。治療するためだから、恥ずかしい事じゃないんだよ? それに、汚れちゃうと困るからね?」
「…は、はい…」
仕方なく、私はスカートとパンティを脱いで、ベッドのとなりのカゴに入れる。また左を見ると、男の人は左を向いたままだ。私の事を見ないようにしてくれている。
「じゃあ、そのままベッドの上に四つん這いになってね?」
「えっ!? は、はい…」
先生の指示に従って、ベッドの上によつんばいになる… …さっきと違うのは、何もはいていない事。後ろからだと、大事な場所まで全部見られちゃう… なのに、先生は私の後ろに回って来た…
「茉莉香ちゃん、もう少し足を開いてくれるかな?」
「…」
…そんなのヤダ、全部見られちゃう… …でも、先生の言った事は聞かなくちゃ… 仕方なく、私は足を開いた。 …これから一体何をするの?
「じゃあ、ウンチ出すために、これからお尻にお薬入れるからね。」
「…えっ!?」
私があわてて振り返ると、先生の手には、とっても大きな注射器が… …ま、まさか、かん腸!?
「イ、イヤッ! やめてっ!」
私はあわてて起きあがろうとする。けど、いつの間にか看護婦さんに押さえられていて、動けない…
「こらこら、暴れないで。怖くないからね。ウンチ出すのに、お尻にちょっとお薬入れるだけだからね。じっとしていれば、すぐに済むからね。」
…すぐにすむのは分かっている… …それでも、たとえ先生や看護婦さんでも、他の人に見られるのはイヤ… …となりには、男の人もいるのに… …でも、ヤダッて言っても、どうにもならないんだよね? 治療なんだから… …それだったら、早く終わらせちゃおう…
「はい、それじゃあ入れるからね。」
その言葉と同時に、お尻に何かが当たって…中に入ってくる。さっきみたいに、ザワリとした感触が背筋を走る。
「うぁっ… …うぅぅ… …くぅぅ…」
そして直後に、生暖かい何かがお尻の中に流れ込んでくる。それは、お尻の中でのたうち回って、お腹の奥へと流れていく。その感覚も、気持ち悪い… …お尻が、お尻の中が熱い…
「はい、じゃあ抜くから、お尻をすぼめててね?」
「は、はい… うぁっ…」
お尻から抜かれる瞬間、また、あの気持ち悪さがおそってきた。一瞬、体中の力が抜けそうになっちゃったけど、何とかこらえてお尻の穴を閉める。その直後に、すぐにお腹が痛くなってきた… …ダメ、出ちゃう…
「…うぁっ…」
看護婦さんが、お尻に何かを当てて、押さえてくれた。
「…あの、トイレに…」
「まだ駄目ですよ、もっと我慢してくださいね。すぐに出すと、ウンチは出なくて、今のお薬しか出ませんから。もしウンチが出なかったら、もう1回浣腸しなくちゃいけませんからね。」
「そ、そんな…」
もう、もう出ちゃいそうなのに… お腹、とっても痛いのに…
「ど、どれ位がまんすれば…」
「そうね… 大体5分くらいかしら?」
「ご、5分も…?」
そ、そんなに… がまんできないよぅ…
「大丈夫ですよ。ちゃんと押さえててあげるからね。」
「…は、はい…」
…お腹の痛みは、強くなったり、弱くなったりをくり返している… …あと少し、あと少し… …そう自分に言い聞かせながら、その時が来るのを待っていた…
ピピピ… どこかで、アラームが聞こえる…
「はい、時間ですよ。茉莉香ちゃん、まだ我慢できそうかな?」
私は、首を横に振る。もう、がまんできないよぅ…
「それじゃあ、トイレに行きましょうね。お尻押さえててあげるから、このままゆっくりベッドから降りてね。」
「はっ、はい…」
私は、看護婦さんに従ってベッドから降りた。看護婦さんは、お尻を押さえてくれたまま、私をトイレへと連れて行ってくれる…
「はい、こっちですよ。」
ベッドから降りて、診察室前のベンチの前を通り、待合室を抜けて、トイレへ… トイレに付くと、そのまま個室に入って、和式の便器にしゃがみ込んだ。
「はい、よく我慢できましたね。もう出しちゃっていいですよ?」
看護婦さんが、お尻から手をどけてくれる。でも、ドアは閉めてくれない…
「…あ、あの、閉めてください…」
「駄目ですよ。どれくらいウンチが出たか、ちゃんと調べなくちゃいけないから。」
「そ、そんな… …ダ、ダメッ!! お願い、見ないでっ!!」
…そんな、全部見られちゃう… …お願い、見ないでっ!… …でも、それががまんの限界だった…
「イヤ、イヤァァッ!!」
…で、出ちゃった… …後ろからも、前からも… …見られてるから出したくないのに、体が言う事を聞かない…
「はい、もっとお腹に力を入れて、ちゃんとウンチ出しちゃおうね。」
…言われるままにお腹に力を入れるけど、もう出てこない… …どうして? まだお腹痛いのに… …イヤ、全部、本当に全部見られちゃった…
「茉莉香ちゃん、もう出そうにない?」
私は、首を縦に振る。まだお腹は痛いのに、お尻からは、もう何も出る気配がない。
「…はい、もう出ないみたいです… …まだ、お腹痛いけど…」
「…そう、困ったわね… まあ、しょうがないか。それじゃあ、お尻と前を拭いて、もう一度ベッドに戻りましょうね。」
私は、トイレットペーパーを取って、お尻と前を拭いた。トイレットペーパーを捨てる時に便器を見ると、小豆くらいのが3粒しか出ていなかった。そんな、あんなに恥ずかしかったのに、あんなに苦しかったのに、あんなにがまんしたのに…
「はい、もういいかな? それじゃあ、戻ろうね。」
「はい… …イ、イヤッ…」
「あれ? 茉莉香ちゃん、どうしたの?」
戻る… その言葉を聞いて、私は初めて、ここまでどうやって来たかを思い出した。診察室前のベンチ、待合室… さっきは苦しくて気が付かなかったけど、その両方に、人がいたはずだ。そしてこのトイレ… 3つある個室の外の壁には、見慣れない便器が3つ並んでいる… そう、いつ男の人が来てもおかしくない所だ。ひょっとしたら、私が入って来た時、そして出しちゃっている時、男の人がいたのかもしれない… …こんな所を、私は下半身裸で…
「あ、あの… …パンティとスカート、持ってきてもらえませんか?…」
「大丈夫。病院の中で恥ずかしがる事なんて、何も無いのよ? みんな治療のために来ているんだからね。」
そんな… そんな事ないよ… いくら治療のためでも、恥ずかしいものは恥ずかしいよ… …でも、いくら言っても、この看護婦さんは着替えを持ってきてはくれないだろう……
「さ、行きましょうね?」
「…は、はい…」
私はかんねんして、トイレを出た。看護婦さんが手を引っ張ってくれる。待合室には、5歳くらいの男の子とそのお母さん、中学生くらいの男の人、7歳くらいの女の子とそのお父さん、そしておじさんがひとりいた… 私はその中を、前を手で隠して必死に看護婦さんに付いていった… 待合室前のベンチには、同い年くらいの男の子が待っていた。私の方を見て、驚いてる… …ヤダ、絶対に見られちゃった… そうして私は、またさっきのベッドまで連れて行かれた…
「そのままちょっと待っててね。先生とお話しして来るから。」
右のベッドでは、中学生くらいの女の人が点滴を受けていた。こちらを一瞬見て、あわてて目をそらす。私は、とりあえずスカートを腰の上に置いて、先生と看護婦さんを待っていた…
「茉莉香ちゃん、ウンチ出なかったって?」
先生がやってきて、そう問いかける。 …イヤ、看護婦さんから聞いたんでしょ?… …他の人がいるのに、そんな事聞かないで…
「…はい…」
仕方なく、私はそう返事する。
「しょうがないな… もう1回浣腸しようね 今度こそウンチ全部出して、スッキリしようね?」
「…はい…」
…やっぱり、もう1回されちゃうんだ… …もう、もうイヤだよ… …でも、イヤと言ったところで、先生と看護婦さんは、止めてはくれないだろう…
「じゃあ、今度はそのまま仰向けになって、膝を曲げてね。そのスカートは、汚れるといけないから、籠に入れておいて。」
「…はい…」
私は先生の指示通りに、スカートをカゴに入れて、仰向けになる。 …さっきと違うけど、今度は何をするつもりなの?…
「そのまま、ちょっと腰を浮かせてね?」
「…はい… ひゃっ!?」
腰を浮かせると、看護婦さんが腰の下に何か台のような物を入れてきた。つ、冷たい… 突然の冷たさに、私はビックリして声を上げる。
「冷たくて、ちょっとビックリしちゃったかな? それじゃあ浣腸するから、足を開いてね。」
「…は、はい… !!」
この格好… 腰の下に入った台のせいで、私の腰は浮き上がっている… そして、このまま足を開いたら、さっき以上に全部見られちゃう…
「どうしたの? 早く足を開いて。そうしないと、浣腸できないよ?」
「…は、はい…」
…仕方なく、私は足を開いた。 …イヤ、本当に全部見られちゃってる…
「はい、それじゃあ入れるからね。」
「うぁっ… …うぅぅ… …くぅぅ…」
また、さっきみたいにお尻に入れられた。さっきと同じく、背筋に不快感が走り、お腹の中で生暖かい液体があばれている… そして、お尻が熱い… …え? …あれ?
「…せ、先生… …まだ、ですか?…」
…入れている時間が、絶対にさっきより長い…
「もうちょっと我慢してね。さっきウンチ出なかったから、さっきの2回分のお薬を入れているからね。今度は絶対にウンチ出るから、もうちょっと我慢してね。」
「…そ、そんな…」
…さっきの薬でもとても苦しかったのに、今度はその二倍?… …一体、どんなに苦しくなっちゃうの?… …そんなの、私、がまん出来るの?…
「うぁっ…」
…もう、もうお腹の痛みが強くなってきた… …そんな、まだ入れている途中なのに…
「大丈夫? じゃあ抜くから、またお尻をすぼめててね。」
「は、はい… うぅっ…」
今度は抜くと同時に、看護婦さんが押さえてくれる。もし、少しでも押さえてくれるのが遅かったら、もれちゃってた…
「はい。また、我慢しましょうね?」
「…は、はい…」
私は力無く返事をした。 …うぅ、やっぱりさっきより苦しいよぅ… …でも、何とかがまんするしかないんだよね…
くり返しおそってくる腹痛を何とかたえていると、看護婦さんがセットしたアラームが鳴った。良かった、これでトイレに… …え? 何で? 看護婦さんが、またアラームをセットし直している…
「…あの、時間、まだですか?…」
「茉莉香ちゃん、さっきウンチ出なかったでしょ? だから、もっと長い時間我慢しないと、またウンチ出ないよ? だから、もっと我慢しようね。」
…そんな、うそでしょ?… …さっきよりいっぱい薬を入れて、さっきより苦しくて、その上さっきより長い時間がまんしなくちゃいけないなんて…
「…あの、もっとがまんって、どれ位ですか?…」
「今度は20分我慢してね。今5分経ったから、あと15分よ。」
…そんな、そんなに長い時間、絶対にがまんできないよ… …絶対に無理だよ… …そう思ったら、お尻の穴が少しゆるんじゃった…
「くぁっ! くうぅっ!」
お尻から…出なかった。看護婦さんがしっかり押さえてくれていたから。でも、一度出ようとした勢いは、熱さと苦しさとなってそのまま私におそいかかる…
「駄目よ。もっと我慢しててね? もし、またウンチが出ないと、今度はお尻に指を入れてウンチを掻き出さなくちゃいけなくなるからね?」
「!! …は、はい…」
…お尻に指を入れて、かきだす… …考えただけで、痛くて、恥ずかしくて、死んじゃいそう… …そんな目にあう位なら、もっとがまんしてた方がいい…
「やだぁぁっ! ちゅーしゃ、やだぁぁっ!」
突然、左のベッドから大声が聞こえた。左のベッドには、さっきベンチに座っていた5歳くらいの男の子が、私と同じように下半身を全て脱がされ、あお向けで両足を持ち上げられて寝かされていた。
「注射じゃないよ。ほら、針が無いでしょ? これでお尻の穴にお薬を入れると、すぐにウンチが出るからね。」
「ほんと? ほんとにちゅーしゃじゃないの? いたくないの?」
「うん、痛くないよ。それじゃあ、入れようね。」
「う、うん… …うわっ! やだやだぁー」
「ちょっと気持ち悪かったかな? 少し我慢しててね。」
「おなか、おなかいたいよぅ… ウンチでちゃうよぅ…」
「駄目だよ、もっと我慢してね? ウンチ出なかったら、もう1回だからね?」
「やだやだぁっ! で、でちゃう! おなかいたいよぅっ! うわーんっ…」
私のアラームがもう1回鳴って、看護婦さんがセットし直す。お腹の痛みはずっとくり返しおそってくる。けど、私は歯を食いしばってがまんしていた…
…しばらくして、となりの男の子のアラームが鳴った。
「えらいね、よく我慢できたね。それじゃあ、トイレ行こうね。」
「ぐずっ… …うん… ひっく…」
そうして、その男の子は、下半身裸のままトイレに連れて行かれた。 …そうか、そうなんだ… …私もあの子と同じ、子供扱いなんだ… …確かに小学校中学校は小児科だけど、それでも… …いくら何でもひどい、ひどすぎるよ… …私はもう、子供じゃないのに…
ピピピ… 4回目のアラームが鳴った。これでやっと、トイレに行ける…
「茉莉香ちゃん、よく頑張ったわね。」
「…ト、トイレに…」
「うん。でも、動けそう?」
「…うぁっ!…」
…ダ、ダメだ… …ちょっとでも動こうとすると、お腹がすごく苦しくなって、もれそうになっちゃう… …どうしよう、動けないよ… …でも、トイレに行かないと、出せないよ…
「…ダ、ダメです… …動けない、です…」
何とか看護婦さんにそう告げた。すると看護婦さんは、とんでもない事を言った。
「やっぱり動けないか… …それじゃあ、このままウンチ出しちゃってもいいからね。」
「…えっ!?」
今、何て言ったの!? このまま、って、ここで!?
「ここでウンチ出しちゃってもいいからね。お尻の下に、ウンチを受けるために便器が置いてあるから。」
…これって、ただの台じゃ無かったんだ… …でも、そうすると、初めからトイレに行かせてくれるつもり、無かったんだ…
「はい、ウンチいっぱい出しちゃおうね?」
そう言って看護婦さんは、私のお尻から手をはなす。
「ダッ、ダメ! イヤ、イヤ、イヤァァァッ!」
まだ、右のベッドでは、中学生の女の人が点滴を受けているのに… 左のベッドでは、7歳くらいの女の子が横になっていて、そのお父さんがベッドの脇に座っている… 診察室前のベンチにも、誰かが座っている気配がする… …その中で、私は… …お尻から手を離された途端に、がまん出来ずに、全部出しちゃった… …みんなに、みんなに見られちゃった… …みんなに聞かれちゃった… …もう、こんなのイヤだよ… …あっ、ヤダ、臭いまで…
「…うぅ… …ひっく… …ぐずっ… …うぅ… …うぁぁ…」
全てを出し終わった後、私は泣いていた… 看護婦さんが、お尻を拭いてくれている…
「さっきも言ったけど、病院の中で恥ずかしがる事なんて、何も無いのよ? みんな治療のために来ているんだからね。だから、もう泣かなくてもいいのよ?」
…そんな事無い、絶対にそんな事無いよ… …もし、看護婦さんが、ここでこんな目にあったら、平気な顔していられるの?… …絶対に恥ずかしくないの?… …泣かないでいられるの?… …こんなの、絶対におかしいよ… …こんなのひどい、ひどすぎるよ…
「はい、綺麗になったよ。よく頑張ったね。」
その時、奥から先生がやってきた。
「どう、茉莉香ちゃん、ウンチ出たかな?」
「はい先生、今度は大丈夫でしたよ。」
看護婦さんが、さっきの便器を先生に見せながら言った。 …イヤ、ほかの患者さんの前で、そんな事言わないで… …そんなの、人に見せないで… …先生も、そんなにじっくり見ないで…
「うん、もう大丈夫みたいだね。茉莉香ちゃん、いっぱいウンチ出たね。よく頑張ったね。」
「それじゃあ、片付けてきます。」
看護婦さんはそう言って、その便器を持ったまま… …トイレへ? …うそ、ヤダ… …私のアレをそのまま持ったまま、待合室を通っていくなんて… …みんなに臭い、届いちゃうよ…
「はい、茉莉香ちゃん、これで今日はお終い。今度からは、あんなにウンチが溜まる前に、お医者さんに行くんだよ? あとは、待合室で待っててね?」
「…はい…」
私は何とか返事をするとパンティとスカートをはいて、待合室に向かった…
待合室に付くと、ちょうどさっきの看護婦産後トイレから出てくるところだった。 …やっぱり、隠しもせずに、私の使った便器を持って歩いてる… …そんな、恥ずかしいよぅ… …もう、もうこんなのイヤだよぅ…
「二条茉莉香さん。」
受付から呼ばれる。私は力無く受付へと向かう。
「それでは、今回の治療費は初診料込みで1,949円になります。」
私は無言で、お金を渡した。
「はい、51円のお釣りになります。茉莉香ちゃん、今度はこんなにウンチ溜まる前に、ちゃんと病院に行こうね?」
「…はい…」
…お願い、ほかの患者さんの前で、そんな事言わないで…
「それでは、お大事にどうぞ。」
「…ありがとうございました…」
私は、何とかそれだけを言ったと、診療所を後にした…
・第四章 帰宅
「…あ、おねぇちゃん…?」
上川診療所を出ると、おねぇちゃんがダッシュでやって来るところだった。私の所まで来て立ち止まり、ハァハァと呼吸を整えている…
「…おねぇちゃん、どうしたの…?」
「うにゅ? マリりんがここに来たってタカちゃんに聞いたから、迎えに来たの。」
「…ありがとう、おねぇちゃん…」
そうして、私とおねぇちゃんは、並んで歩いた。 …でも、本当にそれだけ? そのためだけに、息を切らせて走ってきたの? 私がその事を聞こうとすると、突然…
「…ぁぅっ…」
お腹が痛い… さっき全部出したはずなのに、何で…?
「マリりん、どうしたの?」
おねぇちゃんが心配そうに、私の顔をのぞきこんで聞いてきた。
「…うん、ちょっと… …ぅぅっ…」
こんどは、私の耳元で、小声で聞いてきた。
「…もしかして、お腹痛い…?」
私は、コクコクと首を縦に振った。正直なところ、歩くのも辛い… おにぃちゃんの家まで、もう少しなのに…
「…マリりん、こっち…」
おねぇちゃんは、私の手を引っ張って、すぐ近くの家の前に行った。ポケットから鍵を取り出して、玄関を開ける。
「大丈夫、マナのお家だから。それに、今、誰もいないし。」
おねぇちゃんは、私の手を引いて、玄関に入って、リビングを抜けて、トイレに連れて行ってくれた。
「さ、ここだから…」
「う、うん… ありがとう…」
お礼を言うと、私はすぐにトイレに飛び込んで、ドアを閉めた。パンティをあわてて下ろしてスカートをたくし上げると、便座に腰を下ろして、お腹に力を入れる… ほとんど水みたいなのしか出なかったけど、それが出たら、すうっとお腹の痛みは収まった。
おねぇちゃん、どうしてお腹痛いって分かったのかな…? ううん、それだけじゃなくて、何でトイレに行きたいのも分かったの…? それより、どうしてあんなに急いでむかえに来たの…?
トイレから出てリビングに行くと、おねぇちゃんが私の所まで走ってきた。そして、心配そうに聞いてくる…
「…マリりん、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫… おねぇちゃん、ありがとう…」
「うみゅ、よかった。今お茶入れるから、そこに座って待っててね?」
「うん…」
私は、おねぇちゃんにすすめられるまま、椅子に座った。
「にゅ、おまたせ〜」
おねぇちゃんは、麦茶の入ったコップを私の前に置いて、私のとなりの椅子に座った。
「…おねぇちゃん、聞いてもいい…?」
「んみゅ、何?」
「…さっき、何であそこに来たの? あんなに息切らせてまで…」
「うにゅ? だから、マリりんが診療所に行ったって、タカちゃんから聞いたから、迎えに…」
「…本当にそれだけなの…?」
「…えっと…」
おねぇちゃんが口ごもる。やっぱり、他に何かあるんだ… …ひょっとして…
「…もしかして、私がどうして病院に行ったか、知ってるの?…」
「…うん、多分… …マリりん、もしかして、便秘、だった?…」
「…うん、そうだよ… …おにぃちゃんは、その事知ってるの?…」
「…うん… …マナより先に気付いちゃったよ…」
…そんな… …おにぃちゃんに知られたくないから、病院に行ったのに…
「…じゃあ、私が、あそこで何をされたかも?…」
「…マナも、小学校6年生の時、1回だけ、あそこで便秘を診てもらった事あるから…」
…そうなんだ… …それで、みんな… …終わった後でお腹が痛くなるのも、分かってたんだ…
「…土曜日の午前中だから混んでるはずだし、ひょっとしたら診察前に連れ帰れるかもって思って急いで行ったんだけど、間に合わなかった… …ごめんね、マリりん…」
「…ううん、おねぇちゃんのせいじゃないよ… …ありがとう…」
…それで、あんなに急いでたんだね… …空いてたから間に合わなかったけど、おねぇちゃんのせいじゃないよ… …でも、おねぇちゃんだけ?…
「…おにぃちゃんは?… …いっしょにむかえに来てくれなかったの?…」
「…タカちゃんも迎えに行こうとしたけど、マナが止めたの… …タカちゃんに知られたくなかったから、相談しないで病院に行ったんだよね?… …タカちゃん、男の子だもんね…」
「…うん…」
「…大丈夫だよ… …タカちゃんは、ちゃんとマリりんの事、心配してるよ… …大事に思ってるから…」
…そうか、おにぃちゃんも私の事心配して… …あれ、また涙が… …ダメだよ、おねぇちゃんが見てるのに…
「…マリりん、いいんだよ… …泣いちゃっても、いいんだよ…」
「…おねぇちゃん?…」
…おねぇちゃんが私を抱きしめてくれる… …おねぇちゃんの胸に、私の顔がうまった… …あたたかくて、やわらかくて、気持ちいい… …まるで、ママにだっこしてもらってるみたい…
「…もう、忘れちゃおうね… …涙でみんな流しちゃって… …ね?」
「…う、うん… …うぅっ… …ぐずっ… …ひっく… …うぅぅ…」
おねぇちゃんが私の頭をなでてくれている。少しずつだけど、なでられた分だけ、心の痛みが引いていく気がする… 流れる涙と一緒に、辛さが消えていくような気がする…
「…おねぇちゃん、もう大丈夫だよ…」
「…そっか、よかった…」
おねぇちゃんが、私を抱きしめてくれている手を、少しゆるめた…
「…ありがとう、おねぇちゃん… …大分楽になったよ…」
おねぇちゃんが、また私の頭をなでてくれる。 …やっぱり、とっても気持ちいい…
「それじゃあ、タカちゃんの所に帰ろっか。」
「うん… …あのね、おねぇちゃん…」
「んに、何?」
「あのね… やっぱりおにぃちゃんに、全部しゃべって、あやまろうと思うの…」
「マリりんは何も悪い事してないんだよ? だから、あやまる事なんて何も無いんだよ?」
「…でもね、最初からちゃんと正直に言ってれば、少なくともおにぃちゃんに心配かけなくてすんだはずだから…」
「うん、それはそうかもしれないね… …でも、タカちゃん男の子だから、恥ずかしくて言いにくかったんだよね? それは、女の子なら当たり前の事だから…」
「…うん…」
「そしたら、今度何かあったら、タカちゃんには全部言わなくてもいいけど、マナにはちゃんと全部言ってくれるかな?」
「えっ? おねぇちゃんに?」
「うん。マナもそういうお薬持ってるし、それ以外の事でも何か用意できるから。もちろん、絶対にタカちゃんには言わないし、バレないようにするからね?」
「…うん、ありがとう… …今度何かあったら、そうするから…」
私は、もう一度おねぇちゃんに抱きつく。おねぇちゃんも、私を抱きしめて、頭をなでてくれる。
「さて、と。タカちゃんの所に帰ろうね?」
「うん!」
・終章
「ただいま〜」
「んにゅ〜 おじゃましま〜す。」
「おかえり、茉莉香ちゃん、マナちゃん。部屋にいるから、上がっておいで?」
おにぃちゃんの声が、二階から聞こえてきた。私たちは階段を上がって、おにぃちゃんの部屋に入る。
「どう? 具合よくなった?」
おにぃちゃんが心配そうに聞いてくる。 …あ、また涙がにじんじゃう… …私は、何も言わないでおにぃちゃんに抱きついて、胸に顔をうずめた…
「茉莉香ちゃん?」
「…ごめん、おにぃちゃん… …少し、このままでいさせて?…」
…あ、ちょっと涙声になっちゃってる… …そんなつもりじゃないのに…
「…うん、いいよ…」
おにぃちゃんが私を抱き返して、頭をなでてくれる。 …おねぇちゃんと同じだ… …少し、ほっとするよ…
「…おねぇちゃんから聞いちゃった… …おにぃちゃん、全部知ってるんだよね?…」
「…うん…」
「…ごめんね… だまってて、心配かけて…」
「…茉莉香ちゃんが悪いんじゃないんだよ… …僕がもっと早く気が付いていれば…」
「…ううん、もしおにぃちゃんが早く気が付いて、私に聞いてても、ごまかしてたと思う… …男の人に知られるの、やっぱり恥ずかしいから…」
「…そっか… …それじゃあ茉莉香ちゃん、ひとつだけ、約束してくれるかな?」
「…うん、何?…」
「僕に言うのが恥ずかしかったら、母さんやマナちゃんにでもいいから、ちゃんと言うんだよ? もちろん、僕に言わないでって口止めしてもいいからね?」
「えへへ… …実は、さっきおねぇちゃんにも、そう言われたんだ… 今度からはそうするから、心配しないでね?」
おねぇちゃんが、横から、私とおにぃちゃんを抱きしめてくれる。
「んに、それじゃあ、3人の約束だよ?」
「うん、僕達3人の約束。」
「うん! 約束だよ!」
私は笑顔でおにぃちゃんとおねぇちゃんの顔を見て、力強くうなずいた。もう大丈夫、元気になったから! …ありがとう、おにぃちゃん、おねぇちゃん…
「…よし! それじゃあ、行くとするか!」
「えっ? 行くって、どこへ?」
私は、キョトンとして聞き返す。あれ? おにぃちゃんとおねぇちゃんもキョトンとしてる?
「マリりん、昨日の今日で忘れちゃったの? ヒントその1、連れて行ってもらおうと思ってた。ヒントその2、着替えは準備済み。ヒントその3、夏と言えば? ヒントその4…」
「あっ、そうだ! 海! 海水浴!」
そうだった! あんな事があったから頭から抜けてたけど、ずっと楽しみにしてた海だ!
「思い出した? 僕たちも準備するから、準備しておいで?」
「うん!」
「うみゅ、マナも荷物持ってくるからね?」
「うん! 早く行こ! …あ、でも…」
「どうしたの、茉莉香ちゃん?」
「…てへへ… …少し、お腹空いたかも…」
…考えてみたら、おとといあたりから、あんまり食べてなかったんだよね…
「うーん… お昼には少し早いけど、途中で何か食べていこうか? それとも、向こうに着いてから、海の家とかで買ってもいいし。」
「やったぁっ! …う〜ん、でも、どっちがいいのかなぁ〜」
「んに、それは歩きながら考えようよ? とりあえず、準備だけでもしちゃおうよ?」
「あ、そうだよね〜 …てへへ〜…」
もう、今日は思いっきり遊ぶ! 大好きなおにぃちゃんとおねぇちゃんと思いっきり遊びまくって、さっきの事なんて忘れちゃうんだ!
−終−
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