SPACE銀河 Library

作:えり子

精密検査 (上)

 私は香谷えり子、27才、主婦です。私は主人と学生時代の合コンで知り合いました。私が東京の女子大に入学して間もなくのことでした。主人は*大学の3年生、私より2才年上でした。
 それから交際が始まりました。彼は大学を卒業後、ある都市銀行に就職しました。そして、その2年後、私が卒業すると同時に結婚したのです。だから、私は就職の経験がありません。初めての就職先が主婦業というわけなんです。

 結婚して5年が過ぎました。まだ子供はいません。主人は転勤が多く、5年間で3度の転勤がありました。いずれも関東地方ではあるんですが、少し距離があって、その都度引っ越しをせざるを得ませんでした。つまり私達はもう3度も引っ越しを経験したのです。
 引っ越した当初は忙しく、またその土地に慣れるのが大変でした。しかし、4、5カ月もたつと、もうその土地に慣れてしまい、単調で退屈な生活が続くのです。
 今の土地に引っ越しをして、もう5カ月になります。私は毎日が退屈でたまりません。主人は仕事が忙しく、毎日遅く帰ってきますし、休日もお客さんとのつきあいとかで、家をあけることが多く、私はあまりかまってもらえないのです。

 私は精神的にウツに近い状態になります。こういう状態もこれで3度目です。しかし、私はウツに対してあまり深刻に悩んでいません。これまで2度は何とか対処できてきたからです。それにはある方法があるのです。それは一種のショック療法ともいうべきものなのです。 私は心がウツ状態になつと、体にまで変調を来すのです。具体的には、ひどい便秘になっちゃうんです。
 それは半端なものではありません。ドラッグストアでいちじく浣腸を買って便秘の解消を試みましたが、そんな生やさしい方法ではとても解消しないのです。
 そこで、必然的に病院の門をくぐることになるのです。病院では大きな浣腸をしてもらいます。これはさすがに良く効きます。何しろ病院の浣腸は120gの大きなものです。いちじく浣腸の30gに対して4倍もの量があるのです。しかも、それを2回してもらうこともあります。何と、グリセリン240gですよ。さすがの私の頑固な便秘も一気に解消してしまうのです。
 
 もちろん女性の私にとって、浣腸をされるのは恥ずかしくないと言えばウソになります。お尻の穴を開かれ、そこに浣腸器を挿入され、浣腸液を注入されるのです。その後、しばらくがまんをさせられます。これはつらく苦しいものです。しばらくしてやっと排泄を許されるのですが、今度は排泄したものをチェックされるのです。

 でも、心がウツの状態の私にとっては、浣腸の一連のプロセスは私の脳を活性化するのに大いに役に立つようなのです。 きっと、脳の恥ずかしく感じる部位が興奮して、ウツの状態を吹き飛ばす作用があるように感じるのです。また、最近、腸が第2の脳と呼ばれて、神経や免疫作用に深くかかわっていることがわかってきました。 腸を刺激し、きれいにすることで、体の神経系や免疫系が活性状態となって、それがウツ状態から脱出するのに効果があるのかも知れません。いずれにしろ、浣腸は私にとっては最高の抗うつ剤といっても過言ではないのです。
 私の経験から考えれば「ウツ病には浣腸が効果あり。」という新しい学説が生まれてもおかしくない気がするのです。
 今もウツと便秘の両方がひどくなってきました。私は病院を訪問することを決意しました。この土地に来て初めての受診です。浣腸をしてもらって、ウツとウンの両方を治療したいのです。

 ウツのことや便秘のことは主人にも話をしましたが、全く取り合ってもらえません。主人は「おれは、うんこをしようと思えばいつでも出るんだ。」とか言って、便秘のつらさを理解しようとしません。
 ウツについても、「何か趣味をもてばいいんだ。」程度の言葉しかないんです。私が頼るべきは主人ではなく、病院の浣腸なのです。

 私は電話帳を使って病院を調べます。このマンションの近くに胃腸科クリニックがあるのはわかっているのですが、あまりに近過ぎます。先生や浣腸をされたナースに道で出会ったりすると恥ずかしいのです。電車で1駅離れた消化器科専門の病院を選びます。
 その病院は比較的きれいな外観の建物でした。消化器科、肛門科の看板があります。

 受付で問診票に「便秘、既往症なし」とだけ書いて提出します。朝早いせいか、患者はあまりいません。すぐに私の名前が呼ばれ、診察室に入ります。
 先生の問診があります。
「何才の頃から便秘していますか。」
「16才の頃からです。」
「腹痛はありますか。」
「痛みはありませんが、少し、おなかが張っています。」
「お通じがあったのはいつですか?」
「3日前です。」
「便秘は単純なものから、重大な病気が背景にあるものもあります。
 きちんと検査をしましょう。」
「はい。」
「それではベッドに上がって下さい。」
「はい。」

 私はスカートを下げます。先生は下着の上から私のおなかを押さえます。
「おなかが張っていますね。」
「はい。」
「横向きになって下さい、直腸を見ます、そして便の潜血も調べます。」
「はい。」

 ナースが私の下着を下げます。お尻がむき出しになりました。それからゼリーをお尻に塗ります。先生はビニル手袋をはめて、私のお尻に指を入れます。恥ずかしい検査です。
「便がたまっていますね、苦しいでしょう?」
「はい。」
「はい、いいですよ、便を調べましょう。」
 先生は私のお尻からウンチを採取して、検査容器に塗ります。潜血の検査ではうんちはごく少量でよいようです。ナースがお尻を拭いてくれました。私は下着を上げます。

 先生が私に説明をします。
「今、直腸を調べました。便がたまっていますので、いったん便を出してから、カメラで 診ましょう。それから便を採取しました。便潜血を調べます。」
「はい。」

 先生の言葉の”いったん便を出す”というのは、きっとあの処置に違いないでしょう。胸がどきどきします。ナースが言います。
「香谷えり子さん、浣腸をしますからこちらに来て下さい。」
 やはりそれは私が期待し、想像していたものに間違いありませんでした。

 ナースに促されて、私は処置室のベッドに横になります。
「壁の方を向いて下さい。」
「はい。」
「シートを敷きますね。」
「はい。」

 お尻の下にシートが敷かれました。それはおむつや生理用品と同じように、肌に当たる部分は柔らかい布製の吸収素材でできていて、裏側はポリ製のシートが張っていて、内側が濡れてもそれが外に漏れないようになっていました。多分ディスポタイプのシートなのでしょう。ゴムやビニルのシートと違って、お尻に触れるときの肌触りがとてもよいものです。新しい発見です、医療器具も進歩していますね。妙な部分に感心する私でした。

「浣腸は初めてですか?」
「は、はい。」
 私は思わず事実とは違う返事をします。
「お通じをつけるためにお尻から液を入れますね、きもち悪いですがごめんなさいね。」
「はい。」
 遠回しな物言いです。ずばり、「浣腸をかけます。」の方がインパクトがありますが、初めて浣腸を受ける女性には、こう言う言い方をするのでしょう。

 ナースは温めた120ccのディスポタイプの浣腸器を手に持ちます。それはジャバラ型のものでした。ナースはまず指を私のお尻に軽く挿入します。ゼリーが塗られたのでしょう。
「浣腸が入ります。」
「はい。」

 お尻に挿入感を感じます。
「液が入ります。」
「はい。」
 温かい液が注がれるのを感じます。ナースはごくゆっくり注入します。すごく時間をかけています。
「苦しくないですか。」
「はい。」
「もうすぐ終わります。」
「はい。」
「液が全部入りましたよ。」
「はい。」
 ナースはティシュを束にしてお尻を押さえます。そして、お尻にティシュを当てたまま下着を上げます。
「このままできるだけ我慢して下さい。」
「はい。」
「おトイレはカーテンの向こうにあります。出たらお通じは流さないで下さい。 終わったらボタンを押して下さい、チェックさせていただきます。」
「はい。」

 私は今、浣腸をされちゃいました。ナースが去っていきました。注入直後からおなかに違和感を感じていましたが、それがだんだん強くなっています。まだ1分も経過していませんが、私はグリセリンはあまりがまんができない方なので、早めにおトイレに移動します。
 ドアに洋式と和式の表示があります。私は和式を選択します。こちらの方ががまんできる気がするのです。洋式の腰掛け式だと、お尻の穴を締めるのが難しいように感じるのです。
 私は和式便器に腰を下ろし、お尻の穴を締めて、ますます強くなる便意と対抗します。これまでグリセリンと何度も対峙していますが、いつもあっけなく私は軍門に下るのです。私は歯を食いしばってがまんを続けます。
しかし、もう限界が近づいています。
「あっ、もうだめ、出ちゃう。」
 お尻の穴が私の意識とは無関係に開いてしまいました。まず液の放出がはじまります。そして、その後うんちを出したいという強い欲求に襲われます。でもうんちはおなかの中に引っかかています。私はおなかに力を入れます。出したい感覚と私のいきみがドッキングして、うんちが勢いよく飛び出しました。私はおなかに圧力をかけ続けます。うんちが引き続いて排出されました。

 おなかが急に楽になりました。栓が取れてしまったような感じです。
「あ〜ぁ、いいきもち・・・。」
 思わず安堵の声が出てしまいました。こんなきもちになれるのも浣腸のおかげです。さすがに120gのグリセリンの威力はすごいです。
 私はお尻を拭いた後、ボタンを押します。恥ずかしさの第2ステージを覚悟します。 私は今になって和式便器を選んだことを後悔します。和式便器の上に私のおなかから出たものがこんもりと盛り上がっているからです。洋式便器ならそれは水の中に沈んでいて、これほど目立たないことでしょう。

「えり子さん、出ました。」
「はい。」
「あっ、たくさん出ましたね、出血も見られませんね。」
「はい。」
「流していいですよ、待合室でお待ち下さい。」
「はい。」

 浣腸の処置が終わり、浣腸の余韻に包まれて、私は待合室で静かに待ちます。恥ずかしかったというきもちとすっきりとしたきもちと、その両方が相拮抗しています。そうしているうちに私の名前が再び呼ばれます。
 先生の説明があります。
「便は出たようですね。」
「はい。」
「潜血検査で便に潜血が確認されました。精密検査を受けられる方がよいと思います。」
「そうなんですか。」
「多分、心配ないでしょうが、念のため異常ないことを確認すれば安心でしょう。」
「はい、わかりました、どうすればいいんですか。」
「先程直腸の触診をしましたが、便があったので、もう一度診させて下さい。」
「はい。」
「それから、今日はS状結腸までカメラで検査しましょう。」
「はい。」
「それから、後日、注腸検査と全大腸検査をしましょう、こちらは予約制ですから、都合 の良い日をナースと打ち合わせて下さい。」
「わかりました。」
 何だか検査は何度もあって大変なようですが、先生の指示に従います。もし重大な病気だったらどうしようと不安なきもちにもなります。
「それではベッドに上がって下さい。」
「はい。」
 私は再度お尻を診られるのです。ナースが下着を下げて、お尻に再びゼリーを塗ります。お尻を開かれるのはもう3度目です。私は思います。「私のお尻の穴は見せ物ではないのに・・・。」
 先生の指が入ります。指はゆっくりお尻の中を指でさぐります。
「うっ、うっ。」
 思わず声が出ます。
指でお尻の内側が刺激されて、うんちを出したくなる衝動にかられるのです。

 やっと、指が抜かれました。
「器具が入ります。」
 ナースが言います。
そして、今度はお尻に冷たい感覚が走ります。金属製の器具が挿入されたようです。先生は器具を用いて、私のお尻の内部を診察しているようです。今日は予想していたよりも恥ずかしい診察が続きます。
 
 器具が抜かれました。先生が言います。
「目で見える範囲や指が届く範囲では肛門や直腸に異常はありませんよ。」
「はい。」
 ナースがお尻を拭いて、下着を上げます。そして言います。
「カメラの検査がありますから、内視鏡室の前でお待ち下さい。」
「はい。」

 単に浣腸をしていただこうと軽いきもちで家を出た私ですが、すごいことになってしまいました。「でも自分の体を調べてもらうよい機会だわ、この際徹底的に調べてもらいましょう。悪い病気が早く発見されたらもうけものだわ。」私は覚悟を決めました。
「香谷えり子さん、中へお入り下さい。」
 ナースが内視鏡室の前で言います。
「はい。」
「まず検査着に着替えをして下さい。こちらがロッカー室です。検査着は上、下があり ます。上半身は検査着の下に下着を着用してもかまいませんが、下半身は下着を脱いで、直接こちらの検査着を来て下さい。スリットがある方がお尻になります。」
「はい。」
 検査着の下の部分には大きなスリットがあって、お尻が大きく露出されます。お尻が丸見えと言ってもよい状態です。着替えを済ませて内視鏡室に入ります。
「ベッドに上がって下さい。」
「はい。」
 神妙なきもちで、ベッドに上がります。ベッドサイドにはカメラとモニタがあって、ものものしい感じです。カメラは太さは人間の指くらいあって、太いものです。これがお尻から私の体内に入ると思うと、どきどきします。

 先生がやってきました。
「えり子さん、今から大腸の下部だけをカメラで診ます。痛くも苦しくもないはずです。時間も5分くらいで終わります。」
「はい。」
 ナースはマスクと手袋を着用して、言います。
「横向きになって下さい。」
「はい。」
「お尻にゼリーを塗ります。」
「はい。」
 ナースの指がお尻に入ります。浣腸のときはお尻の入り口付近だけにゼリーが塗られたのですが、今回はナースの指がお尻の奥深くまで入ります。先生が言います。
「カメラが入ります。ハァ〜と息をして下さい。」
「はい。」
 私は言われたように息をします。
「ハァ〜、ハァ〜。」

 カメラがお尻から進入しました。ゼリーが塗ってあるので、するりと抵抗なく挿入されました。確かに、痛くも苦しくもありません。むしろ、挿入感がきもちいいくらいです。これは女性なら誰でも本能的にそう感じるのかも知れません。場所は違いますが・・・。
 カメラはおなかの中をゆっくり進みます。おなかの中の様子がモニタに写し出されます。自分のおなかの映像が写っていることに、不思議な感動を覚えます。腸の内部って、白くてツルツルしていて、きれいです。
「今、S状結腸です。もう少し進めてみます。」
「はい。」
 やがてカメラの行く手に黄色の塊が見えました。
「これは便です。 これ以上先は無理ですね。」
 カメラは私のウンチをとらえました。恥ずかしいです。
「カメラを戻しながら調べます。」
「はい。」
「腸はきれいですね。」
「そうですか。」
「肛門の内側を診ます。」
「はい。」
 先生はカメラを反転して、お尻の穴の付近を写します。ひだのひとつひとつが鮮明に写っています。ひだは中心から放射状に乱れなく拡がっています。
「痔はありません。もちろん、がんや潰瘍もありません。」
「そうですか。」
「抜きます。」
「はい。」
 カメラが抜かれました。
ナースがお尻を拭いてくれます。
 この検査は時間も短く、楽でした。先生が言います。
「肛門、直腸、S状結腸は異常ありません。次はもっと奥まで検査しましょう。」
「はい。」
「妊娠している可能性はありますか?」
「いいえ。」
「それなら検査は問題ないです。」

 私は精密検査の予約をしました。まず注腸検査というものを受けます。ナースの説明では、お尻からバリウムと空気を入れた状態でおなかにX線を当てて検査をするそうです。前日から検査食というカスが出ない特殊な食事をとらなければならないそうです。それに何種類かの下剤も飲まなければならないそうです。

 検査食と下剤をもらって、病院を後にしました。家に戻って、病院でもらった説明書を読みます。

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 注腸検査を受けられる方へ
 
 患者名     香谷えり子 27才 女性
 
 検査日時    *月*日*曜日 午前9時

 準備事項

 前日 朝食   検査食(朝食用)、食後に下剤2錠服用
    昼食   検査食(昼食用)
    午後3時 検査食(間食用)、食後に下剤服用(1Lの水に溶かす)
    夕食   検査食(夕食用) 食後に下剤2状服用 
    以後は食事はしないこと。
    水分は十分にとって下さい。(ジュースや牛乳は不可、お茶やコーヒーは可)
    
 当日 朝食はとらないこと。
    コップ1杯の水を飲むこと。
    
 来院 9時に受付をして下さい。
    前処置として浣腸をします。
    排便後検査があります。
    肛門からバリウムと空気を入れて検査をします。
    約20分で検査が終了します。
    
 注意 前日と当日の排便回数と最終の排便時間を記録して、受付に提出して下さい。
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 事前の準備が大変なのですね。それと、浣腸があるんですね。”浣腸”という文字を見てジ〜ンときました。
浣腸の予約もされたことになるんです。
 
 検査の前日になりました。前日は朝、昼、夕食とも検査食です。レトルトのおかゆが少量と間食用の小さいクッキーと具のないすまし汁です。これではおなかがすきますが、しかたないです。
 夕刻に水に溶かした下剤1Lも飲みます。さらに錠剤の下剤も2錠飲みます。まさに下剤攻撃です。
 夜間、就寝の前にお通じが2度ありました。そして、朝起きるとすぐにお通じがありました。食べるものをまともに食べていないので、出るものも少ないです。

 今日はいよいよ注腸検査があるので、胸がどきどきしています。検査は午前9時なので、8時に自宅を出ます。汚れることを考えて、下着とスカートの替え、タオル、ティシュ、消臭剤のスプレーなどをを持参します。
 20分前に病院に到着しました。受付で検査に来ましたと告げます。胸の高鳴りが止まりません。

 9時になりました。処置室の前でナースが私の名前を呼びます。私は処置室に入ります。
「香谷えり子さんですね。」
「はい。」
「今日は注腸検査でしたね。」
「はい。」
「きのうと今朝のお通じの状態を聞かせて下さい。」
「はい、きのうは朝1回、夜2回、そして今朝1回です。」
「お通じはよさそうですね。」
「それでは検査の前に便を完全に出さなければなりません。一度浣腸をさせていただきます。」
「はい。」
 やはり説明書に書いていと通りに浣腸があるのです。予約の浣腸は初めてのことです。
「それではベッドに横になって下さい。」
「はい。」
「液は温めてあるので、きもち悪いかも知れませんが、がまんして下さい。」
「はい。」
「それでは下着を下げます。」
「はい。」
「ゼリーを塗ります。」
「はい。」
「液が入ります、あ〜っと言って下さい。」
「はい、あ〜っ。」

 液がゆっくり入ってきます。
「きもち悪くないですか。」
「大丈夫です。」
「もうすぐ終わりますよ。」
「はい。」
「終わりました。」
 ナースはティシュをお尻に当てます。そして下着を上げます。
「できるだけがまんして下さいね。」
「はい。」
「トイレはこちらです。早めにトイレに入っていいですが、便器に座るとがまん できないですから、立ってがまんするといいですよ。」
「はい。」

 私はおトイレに入ります。便器のふたを上げます。下着も下げます。しかし、便器に座らずに、立ったままお尻を押さえてがまんをします。それでも便意がきつくなってきます。まだ2分くらいしか経過していません。「後1分はがんばるのよ。」私は自分に言い聞かせます。
「うぅ、うぅ。」
 私はなおも必死にがまんします。「もし、液だけしか出なかったら、検査が受けられないかも知れないのよ。」「そうか、そうなるとこれまでの努力がむだになるわ、がんばるわ。」私は開こうとするお尻の穴を必死で締めようとします。でもグリセリン120gの威力は強烈です。強い波が何度も押し寄せます。

 「何とか3分はがまんできたわ。」そう思った瞬間です。お尻の穴がもう今にも開きそうになりました。たまらず私は便器に座ります。それからはもうギブアップです。うんちが少し出ました。こんなものでしょう。ナースの指示がなかったので、流します。
 ナースに報告します。
「どうでしたか。」
「はい、少しですが出ました。」
「いいでしょう、それではX線室に行きましょう。」
 どうやら最初の関門を越えることができたようです。

 X線室に入ります。まず着替えをします。カーテンで仕切られた更衣室で着替えます。下半身は何もつけません。前回の検査と同じく、上着と大きくスリットの入った下着を着用します。お尻はほとんど丸見えの状態です。
 私はベッドに横になります。上部にはX線カメラがあって、ものものしい感じです。 ナースが言います。
「腸の動きを止めるお薬を注射します。痛いですががまんして下さい。」
「はい。」
 ナースは注射を終えると部屋から出て行きました。すぐにX線技師がやってきました。まだ20代後半で、私と同世代の男性です。何だかにこやかな表情をしています。
 ビニル手袋をしています。そして手には長いノズルのついた大きなポリ製のボトルをもっています。中に白い液が入っています。どうやらこれがバリウム浣腸のようです。
 これからバリウム浣腸があるのは知っています。でもそれを行うのはナースではなく、この男性技師のようです。私は一瞬パニック状態になります。「どうしましょ?」

 彼が口を開きます。
「香谷えり子さんですね、今からお尻からバリウムを入れます。」
「はい。」
 やはりそうです。男性から浣腸されるのは生まれて初めての経験です。「どうしよう?」と再び思いましたが、この病院のシステムなので、どうしようもありません。「ナースにお願いします。」と言うことも考えましたが、それも騒ぎになりそうなので、思いとどまりました。
 もう覚悟を決めます。これは純然たる医療行為なのです。男性とはいえ、医療従事者なのです。私は自分に言い聞かせます。「前回も先生ではあったけど、男性に何度もお尻の穴を開かれたじゃない、ここはひたすらがまんするだけよ。」
 彼が言います。
「お尻にゼリーを塗ります。」
「はい。」
 お尻に彼の指が挿入されたのを感じます。とても恥ずかしいです。
「少し深く入れます。」
「はい。」
 バリウム容器のノズルが長いので、お尻の奥までゼリーを塗る必要があるのでしょう。彼の指の滞留時間が必要以上に長い気がします。

 そしてやっと指が抜かれました。
「今度はバリウムを入れます。」
 彼のはずんだような声が響きます。
「はい。」
「おなかの力を抜いて、楽にして下さい。」
「はい。」
「温めてありますからきもち悪いでしょう。」
「はい。」
「どれくらい入れるんですか。」
「300ccです。」
「えっ、そんなに・・・。」
「腸には2L以上は入りますから、300ccは少ないですよ。これを移動させながら撮影します。」
「そうですか。」
 横向きの姿勢で私のお尻に突きつけられて、大きな容器から温かいバリウムが少しずつ注入されます。おなかに刺激や違和感はまったく感じません。バリウム浣腸はきもち悪くありません。
「バリウムが全部入りました。」
「はい。」
 ノズルはまだお尻に入ったままです。
「このまま体を動かしてうつぶせになって下さい、バリウムを移動させます。」
 お尻にバリウム容器を入れられたまま、私は腰をひねります。うつぶせの姿勢になりました。お尻には空のバリウム容器が突き立てられたあられもない姿に私はさせられています。これから一体私はどうなるとでしょう。

 私は乙女(ヴァージン)ではないけれど、でもまだ20代の女の子なのです。医学上の処置とはいえ、この姿はあまりにもみじめです。これから一体私はどうなるというのでしょう。


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