SPACE銀河 Library

作:朱鷺

いちじく遊び

 佑香の肩を抱くようにして、いつものホテルに入る。もうお馴染みのラブホテルの一室。今夜も佑香との秘密の時間を共有するための、二人だけの空間。別に今の時代、未婚の男女がそういう場所に入る事に、どうこう言う人間も少ないだろう。でも、僕と佑香にとっては、そこで行われることは、決して第三者には知られてはいけない秘密の行為だ.
 もう、佑香も僕も、何をするのかは、解り過ぎるほど解っている。ここはお互いの秘密の快楽を、お互いの体から引き出す場所なのだ。ただし、普通のカップルは主に性交で感じる快感が、佑香の場合には別の恥ずかしい行為でもたらされる部分が多いという事が、僕たちの秘密だ。

これを読む人はもう充分に理解している人ばかりだろう。「浣腸」という行為、普通は医療行為として、医者や看護師が患者に行う行為、時には家庭内で、母が子供に、夫が妻に、そして自分自身に行うその行為が、ある種の人々には性的な快感をもたらすもので有るという事を。
 佑香との快楽には、浣腸が大きな意味を持っている。そしてそれは、一部のマニアと呼ばれる人達から見ると、ごく他愛もない行為であり、ホンの小さないちじく浣腸でもたらされるものだ。

 部屋に入るとバッグを置き、バスルームに向かう。もう何も言わなくても二人の手順は決まり切っている。お互いに向かい合い、ブラウスとスカートを脱がせる。佑香のブラジャーを外す。フロントホックの留め金をパチンと外し、小柄だが形の良い乳房が露わになると、佑香は眼を伏せ、手でそれを包み隠す。恥じらいの様子はいつも変わらない。佑香を抱き寄せながら、背筋に沿って手を這わせ、お尻を包み込むようにしながら、ショーツを押し下げる。
 腰骨からずり落ちたショーツは、佑香がもじもじと膝をすり合わせる仕草で、床まで落ちる。僕は素早く自分の着ているものを脱ぎ捨てる。トランクスを脱ぐ頃には、陰茎は勃起して重力に逆らって垂直より上をさし示している。二人でシャワーを浴び、お互いの体を洗いあう。股間も丁寧にボディーソープで洗う。お互いの体を抱きあうようにして洗うと、気持ちはこの先にある事を期待して高ぶって来る。僕の陰茎も、痛いほどに硬さを増す。

 バスタオルで体を拭き、それを体に巻いてベッドに横たわる。僕の左手と佑香の右手はつないだままだ。僕は体を起こし、佑香の顔を覗き込むように覆いかぶさり、キスをする。それが、ベッドの上での遊びの始まりの合図だ。
 キスは次第に、首筋から体へと移動して行く。乳房を包み込むように撫でながら、小豆色の乳首を口に含む。佑香は恥ずかしそうに吐息を洩らすが、もう手で覆い隠すような事はしない。右の乳首を舌先で転がしながら、左の乳首を摘まむようにして、しばらく弄ぶと、さらにその下へとゆっくり移動する。二人の体は「T」の字のようになっている。臍にもキスの雨を降らせた後、おもむろにその下の陰毛に分け入る。シャワーの名残の湿り気が残り、ソープの香りが漂う。鼻先と指と舌とが、佑香の一番大切な部分に揃って侵入する。「T」の字が次第に「人」の字に変形する。佑香の膝を立てさせ、繁みを掻き分けると、その先には陰核が見えてくる。そしてさらにその先にサーモンのような小陰唇がひっそりとたたずむ。陰核に舌を這わせながら、小陰唇を押し広げると、その間にはシャワーの名残の湿り気よりも、もっと粘度の高い蜜が溢れそうになっている。その蜜を吸い取るようにして、膣の入口に舌を伸ばす頃には、佑香も呼吸が荒くなり、僕の陰茎に手を伸ばし、それを含もうとする。
 僕は、佑香の手と口で下半身を繋ぎ止められながら、さらにその先へと進む。膣内へ舌を入れながら、佑香の双臀を押し開くようにして、その先に眼をやると、最後の目標の肛門が目前に見える。頬は佑香の太腿で挟まれ、顎が陰毛の感触を受け止め、舌と鼻で愛液を味わいながら、目と指先は肛門の菊花の花弁のひとひらひとひらを捕えている。指先に愛液をすくい取り、それを花弁に塗りつけるようにして、肛門への愛撫を加える。やがて舌先もそこに加わり、佑香の肛門は性器と同じくらい愛液にまみれ、ぬめりを増す。僕は時には、この前戯だけでも射精しそうになる事がある。だが、本当の秘密の行為は、この先にある。

 しばらくして、お互いを刺激する行為を中断させると、僕はおもむろにバッグを取り上げる。その中には、ドラッグストアの紙袋。そしてその中からは薄紫の紙箱が現れる。佑香にそれを見せつけるようにして、無言のまま頷く。今からこれを使うよ、という合図だ。佑香はこの先の成り行きへの恥じらいに頬を染め、小さく頷く。僕はおもむろに箱を開き、内袋を破り、ピンク色の浣腸を取り出す。球形の部分に細いストロー状の管がつながるその形は、ミニサイズのマラカスのようにも見える。マラカスの持ち手の部分をつまみ、佑香の目の前に突きつける。
「今日もこれを使って、恥ずかしい事をしてあげるからね。」そう囁くと、佑香は頷いて
「はい。お願いします。」と蚊の鳴くような声で答える。

 もちろん世間には、もっと大きなガラス製の道具などを使い、大量の液を注入するようなプレイをする人も居ることは知っている。でも、僕たちはそれを必要としていない。僕たちの目的は、浣腸による羞恥心の刺激なのだ。

 そもそも佑香と僕がこんな遊びをするようになったきっかけは、佑香の仕事の話からだった。佑香は、僕と同じ大学で医学部に居た。僕が普通の会社員になった2年後に医師になり、大きな病院で働いている。そんな佑香が言い出した一言「囚人の幸福」という言葉だった。医療行為では食事や運動などの基本的な事柄から、投薬や手術などの処置まで、病気を治すという目的であれば、どんな事でも行われる。裸になれと言われれば、医師の前で服を脱ぎ、これを食べろと言われて出されたものを食べる。有る意味で囚人のように、自由な選択は無い世界だ。佑香もそういう世界で、囚人に対する看守のように、さまざまな事を、患者に強制して居る。普通の患者は、それに対して不満を持つ。あれこれ食べたいものを挙げてみたり、どこかに行きたい、こんなことがしたい、と不平を洩らす。だが一部の患者は、強制されて、自分の行動を誰かに指示されることで、幸福を感じる状態になることがあるらしい。そういう人は、退院が近づくと不安を覚えるという。自分であれこれと決断することが、重荷のようなのだ。
「じゃあ『囚人の幸福』の反対語は『自由人の不幸』?」そう佑香に尋ねると、首を傾げしばらく考えた後、こう言った。
「それはね、不幸じゃなくて『自由人の孤独』って言うのよ。選択の自由が与えられ、どこに行っても、何をしても良いって言われると、突き放された孤独を感じるようにならないかな?」

 僕と佑香は、ベッドでそんなことを寝物語に話した後、他人にコントロールされるとしたら、何が一番困惑するだろうという話題に移っていった。佑香は仕事柄、浣腸の事が思い浮かんだようだった。排泄行為を他人に強制されることは、性行為を強制されるより、強い羞恥だろうという話になった。そして浣腸に話が及んだ時、僕は、次の時には佑香に浣腸をしてあげる、という宣言をしたのだ。
「それって、すごく恥ずかしいよ。だって、浣腸されれば否応なく便が出ちゃうんだから。」
「だから、佑香にしてあげるんだよ。佑香だって、、患者さんに浣腸することは有るんだろう?」
「うん。そりゃお医者さんだからね。必要ならするよ。」
「じゃあ、される方になったら『囚人の幸福』ってやつも、感じるかも知れないよ。」
そんな会話をした次のデートで、僕は本当にいちじく浣腸を用意して行って、佑香にそれを使ったのだ。

 最初は抵抗したりためらったりした佑香だったが、僕は強い口調で佑香に命令した。
「そんなにわがままを言うんじゃありません。君の体に必要だから浣腸をするんだよ。」その時、僕は医師に成りきっていて、便秘の患者の佑香には、浣腸の処置が必要なんだという前提で、佑香に迫っていた。自分が日頃、患者にそういう処置をしている佑香は、自分のその行為を受ける患者の立場になって、僕の浣腸を受けた。
 僕はさらに佑香を追い詰めた。
「排泄物を確認しなければいけないからね、トイレで出すところまで、見させてもらうよ。」佑香は、困惑と羞恥でパニックになりながらも、僕の命令に従い、トイレで便器に跨り、僕の目の前で浣腸の結果を産み落とした。

 その最初の浣腸を受け入れた後は、僕と佑香のデートでは、ホテル=性行為ではなく、ホテル=浣腸&性行為というパターンが決まってしまった。最初は洋式のトイレだったが何度目かの時に、初めて入ったこのホテルでは、浣腸した後にトイレに入ると、汽車便所と言われる一段上がった和式のトイレだった。この時には、さすがの佑香も泣きながら見ないで欲しいと懇願したが、僕はそれを拒み、限界まで便意を我慢した佑香の肛門が崩壊し、浣腸液と便塊を吐き出すのを、目の前で観察した。
 そしてそれからは、このホテルのこの部屋での浣腸と排泄とその観察が、二人にとってのもっとも恥ずかしい秘密の行為になっている。

 今晩も、ほんの40ccのグリセリン液が、佑香を羞恥と苦痛に喘がせる。その準備は整った。僕はむき出しのいちじく浣腸を持ち、さっきまでのポジションに戻る。佑香は僕の陰茎に再び手を伸ばす。口に含む。そして、69の姿勢で重なり合うと、佑香はくるりと体を入れ替えた。僕はベッドにあおむけになり、佑香の股間から顔を出している。佑香は僕の上で四つん這いの体勢で、僕の陰茎を咥え、手では睾丸を弄んでいる。
「じゃあ、今日はこの姿勢でしてあげるね。」そういうと、うんうんと頷くように顔を動かす。きっと、僕のものを咥えることで、これからの羞恥と苦痛から気を逸らせようとしているのだろう。

 僕は、自由になった両手で、佑香の双臀をゆっくりと押し広げる。目指す肛門は、目の前で妖艶とも言える光を反射している。手にしたいちじく浣腸のキャップを取り、その菊の花弁の中心を目がけ、ゆっくりと先端を滑り込ませる。さっき指と舌で充分にほぐしてある肛門は、なんの抵抗も見せず、スムーズにそれを受け入れる。佑香自身にも、その感触はほんの僅かなものだろう。だが、その僅かな感覚さえもが、本来は侵入する部分では無い肛門から、何かが入って来ているという羞恥の対象にはなる。球体の部分が肛門に密着するまで、浣腸を押し込むと、僕は液を注入せず、焦らすように何度か出し入れをする。佑香の喘ぎが漏れる。
 何度かの出し入れを繰り返した後、浣腸を肛門の奥まで挿入すると、今度は水鉄砲を試し打ちするかのように、僅かだけ球体を押しつぶし、液のごく一部を、初めて佑香の体内に注入する。さんざん焦らされた佑香の体は、その微量の液に、全身をビクッとさせ反応を示す。数分の時間を費やし、出し入れや少しづつの注入を繰り返し、やがていちじく浣腸の中の液のすべてが、佑香の腸に流し込まれる。この時点では、まだ便意はやってきていない筈だ。その数分の間も、僕の舌は佑香の陰核を刺激し、膣の中にも侵入し、性的な高みへ佑香を引き上げ続けている。すっかり空になったいちじくの容器を再度膨らませ、残った僅かな液と空気を佑香の体内に送り込んで、僕は浣腸を引き抜き投げ捨てる。

 佑香は次第に高まる便意と性的興奮を、同時に受け止めている。僕は、注入後も同じように佑香の陰核をしゃぶり、小陰唇を指で広げ、膣の中に指を入れ、性感帯を刺激する。佑香は限界が近い事を悟ったのか、もっと我慢するために何かをするつもりなのか、僕の陰茎を放し、体を起こす。佑香が少し焦り気味に、僕の陰茎にコンドームを被せる。そして、そのままくるりと体を廻し、それを自分の膣に収める。
 僕はベッドの上で、気をつけの体勢のまま上を向いて横たわり、佑香のなすがままになっている。佑香の背中を眺めながら、手を伸ばし肛門を探る。すでに崩壊が近いのか、無理をして力を入れ引き締めている様子と、その中で時折緩みそうになりヒクヒクと動くのが感じられる。佑香はしばらくの間、僕の上で過激なピストン運動をしていたのが、突然体を引きはがし、
「もうダメ!」と一言叫ぶ。僕は佑香を背後から抱き締め、今にも崩壊しそうな肛門をしっかり押さえ、トイレに向かう。ここからが第二幕の始まりだ。

 佑香に言わせると、浣腸の便意は二次曲線のグラフのように高まるのだそうだ。最初は何とも無く、次第にじわじわと高まって来るが、最後の方では一瞬でもタイミングを外すと、トイレに辿り着けず悲惨な結果になりそうだという話だ。僕自身は浣腸をされたことは無いので、何とも言えない。いろいろな話を聞くと、波のように寄せては引くという感想が多い。佑香にそういうと、
「そうね。それも有るから、二次曲線とサインカーブの複合形かな。」などと難しい言い方をする。

 佑香を連れてトイレのドアを開け、和式の便器にまたがらせると、僕はしゃがみこんで決定的瞬間を待つ。佑香はあれほど便意に苛まれながらも、羞恥心を捨てられず、僕に見られながらの排泄を限界まで我慢してしまう。それは最初の時から、何度浣腸をしても同じだ。慣れるという事は無い。佑香の患者にも、二通りのタイプが有るようだ。消化器系の病気で入院して、何度も浣腸を受けていると、次第に慣れて平気になる患者と、何度されてもその度に、羞恥心から心理的抵抗を示すタイプだそうだ。医療行為だから、頭では解っていても、心が受け入れないのね、と佑香は言う。では自分はどうなのだと問いかけると、私の場合は、本当に必要では無いのに、あなたに強制されて浣腸を受けているから、羞恥心が余計に強く出るのよ、と自分の心理を分析して見せる。
 だが、どんなに羞恥心が強くとも、死ぬほど他人に排泄を見られるのが嫌で有ろうとも、注入されたグリセリンは腸を刺激し続け、排泄へと向かわせる。佑香も、僕に肛門を覗き込まれながら、やがて限界を超え、その結果を体内から吐き出す。

 肛門が内部からの圧力によって、耐えかねたように捲れあがり、中心の襞が引き延ばされる。ぽっかりと開き始めた中心の穴から、注入されたグリセリン液が迸る。そして、その直後には、さらに引き延ばされ、外側に捲れあがった肛門から、便塊がゆっくりとせり出してくる。
 本当の便秘などではなく、本来なら浣腸など必要としない佑香の便は、コロコロと崩れそうな固形ではなく、バナナのように、あるいは歯磨きのように、適度な硬さのものだ。グリセリンでやや柔らかくなり、表面が濡れ、強制的な排泄により、寸断されて、僕の目の前に現れる。それは、腸の内部の蠕動により、肛門から吐き出され、重力により便器に落ちて行く。普通の硬さの普通の量の便が、浣腸という医療処置を受けて、佑香の体内から、僕の目の前に生み出される。それは有る意味、出産に似ているかも知れない。出てくるものは、ごく一般的なものだが、出産のシーンや、大きく開いた股間を見られるのは恥ずかしい、という感覚だろう。

 顔を手で押さえながら、一連の結果を産み落とすと、佑香は放心状態になる。僕は目の前で産み落とされるものでさえ、佑香の心の動きの結果として出て来たものだと思うと、愛おしく思えてしまう。
 佑香の肛門は、佑香本人とは別の生物のように、ヒクヒク震えながら、次第に収縮していく。僕は、放心状態の佑香の肛門をきれいに拭き、トイレからバスルームに連れて行き、シャワーを浴びさせ、体を拭いてやり、ベッドに戻る。僕にされるままになっている佑香は、本当の介護が必要な病人のようにも感じられる。
 この後には名残火のような穏やかな性交が続く。お互いを愛おしく受け入れ、すべてを見せてしまった後の、穏やかな感情が残る。「囚人の幸福」は強制され服従させられた者だけが受け取る事が出来る、マゾヒスティックな幸福なのだろう。

 浣腸してその結果として排泄をする。当たり前といえば当たり前すぎる事だ。それをサラリと受け止め、何も感じない患者も居る。しかし、うら若い女性患者などは、胸に聴診器をあてるだけでも、もじもじとためらうという。まして浣腸などと言えば、処女を奪われるのと同じような恐怖心や羞恥心を持つそうだ。しかも浣腸は便秘の治療として行うだけでは無い。消化器系の病気は、半分は胃カメラなど口からの処置となるが、後半半分は腸カメラなど肛門からの観察や処置が必要になる。当然カメラを入れるには、腸を空にするための処置も必要となり、浣腸が処方されることも多いという。しかも肛門からカメラを入れること自体が、浣腸よりも過酷な検査になる事も多いと聞く。
 排泄孔という体の中で最も秘めたい部分に処置を受ける。排泄物という世間に晒してはいけない物を、他人に見られる。そういう行為のなかで、僕と佑香はお互いを愛おしく思い、日々を重ねて行く。いつか穏やかな心で、こんな日々を振り返る事もあると、その日を思って、浣腸という行為に愛情を重ねて行くのだ。



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