SPACE銀河 Library

作:朱鷺

淫らな内診台

「さあどうぞ。寄っていって。」
とも子は自宅の鍵を開け、岡田を招き入れた。それがこれからのとも子の運命をどのように変えてしまうのか、その時には知る由も無かった。
 
 夏の暑い午後である。世間全部が夏休みを取っている一週間、とも子は学生時代のサークル仲間との一泊での同窓会で、長野の避暑地へ行った帰りだ。学生時代には、とある地方都市で看護婦の卵としての勉強の傍ら、テニスのサークルに誘われ、楽しい時期を過した。
看護学生として、近くの大学の医学部の学生達との交流も盛んだったので、男女混合のサークルで医療関係者が多い。同好会というよりはテニスを名目にしたお遊びのサークルだった。
当然、その中で何組かのカップルも出来たのだが、その中の一組が岡田ととも子だった。
だが三年で社会に出たとも子と、六年間医学部で学ぶ岡田とは、とも子の卒業と同時に住む処も離れ、特別な理由も無かったのだが、すれ違いの時間が重なるうちに、自然消滅してしまった。
 その後、岡田は医師に成り、今は東京の病院に勤務している。皮肉なものでそれまで東京で看護婦として過してきたとも子は、岡田の就職した頃に、勤務先の病院の医師から結婚を申し込まれ、考えた末に、その結婚に踏み切った。そしてとも子と夫は、夫の故郷の群馬で開業したのだった。
小さな町医者だが、夫の真面目で勤勉な性格と代々育った土地ということもあり、医院も繁盛していた。本来は産婦人科の医師なのだが、内科と婦人科という診療科目を看板に出している。数年前には自宅兼医院として建物も建て替え、看護婦も二人入ってもらった。そして、とも子には今では2歳になる娘を持つ母として、医院の仕事と家庭とを半々にこなしている。

 夫と義父母は留守にしている家に、岡田を招き入れたのには、何の他意も無かった。長野の帰りに、車で来ていた岡田が、東京まで帰る途中なので乗せて行ってくれると言ったからだ。
もちろん、以前関係のあった男なので、悪い気はしない。サークル内では公認カップルだったので、それについて冷やかす友人達も居たが、悪意があるわけではない。すでに子供の居る人妻としてのとも子にしてみれば、そういう優しい申し出があること自体が嬉しい。それにいまさら、岡田との間に関係が復活する可能性など無いものと、とも子は安心しきっていた。
 夫は学会があるので、五日程の予定で関西方面に出かけている。義父母もとも子が出かける話を持ち出すと、快く孫の面倒を引き受け、どこかの温泉に行く予定を立てて、2泊ほどで出かけて行った。
 真夏に全員が留守にした家は、熱気がこもりサウナの様だった。エアコンを全開にして、あちらこちらの窓を開け放してまわるとも子も、すぐに汗まみれになってしまう。そんなとも子の様子を岡田は、居間のソファーに落ち着いて、目で追っていた。

「すっかり、開業医の若奥様になってるんだな。」
「何言ってるのよ。こんな小さな町医者で。あなたこそ、大病院の第一線のドクターじゃない。」
「まあね。病院の規模は大きくても所詮はサラリーマン医師だからね。」
「でも、勤務ローテーションはしっかりしてるんだし、きちんと給料はもらえるんだし、いいじゃないの。」
「まあね。でも開業医はやっぱり一国一城の主だからね。羨ましいよ。」
「あなたは開業しないの?お父様も開業医なんでしょう?」
「ああ。でもあそこは兄貴がもう跡を継いでるんだ。僕は次男坊だからね。」
「お医者様一族というわけなのね。」
「まあ、自由の身もいいものだけどね。」
「あらあら、そんな話より、せっかく上がって頂いたお客様なのに、お茶も出さないで。それとも、こんな暑いんだから、ビールの方がいいかしら?」
「おいおい、車で送ってきた人間に、ビールかい?」
「いいわよ。誰も居ないし、酔いがさめるまでゆっくりしていっても。」
まさか、いくら昔の恋人でも、すでに私は人妻なのだから、という安心感から、とも子は気安くそんなことを口にする。その言葉を聞いた岡田が、どう考えるかまでは、とも子には思い到らなかった。

「それなら、ちょっとだけ、昨夜の続きの二次会といこうか?」
「いいわよ。」
そんな会話を続けながら、とも子は簡単なつまみまで用意し、ビールとグラスを二つ持って居間に戻ってきた。
「さすがに開業医だな。この家も新築なんだろう?」
「そうよ。昨年、仕事場兼自宅というので、銀行の融資も出たし、子供も遊びまわるようになったしね。思い切って建て直したの。」
「じゃあ、向こう側は診療室なのか?」
「そうよ。内科と婦人科だから、あなたの好きな内診台もあるわよ。」
「おいおい。それは君が好きなんじゃないのか。」
「いやね。そんな事、思い出させて・・・」

 岡田ととも子との関係は、もう十年も昔の話になる。二人とも二十歳になるかどうかの頃だった。
当然のように、どちらも一人暮らしの二人は、お互いの部屋を行き来しながら、いつしか体の関係も持つ様になった。しかし、二人の間にはもう少し、世間には言えない、背徳的な関係も有ったのだ。
それは、医師の卵と看護婦の卵という医学に関わる者同士の、秘密のお遊びだった。実習といえば聴こえは良いが、診察内容は通常では出来ないこと、婦人科等の内容に重点が置かれた、二人だけの秘密である。つまりは、それを口実にした「お医者さんごっこ」だったのだ。
 もちろん、二人とも最初は、ごく真面目な意図でそれを始めたのだったが、肉体関係のある二人が、その目的に別の意味を持たせるようになるには、長い期間は必要なかった。婦人科の乳房の触診、内診などの診察、看護の実習としての導尿、浣腸などが、羞恥と快楽を目的に、繰り返された。

 最初はとも子の浣腸の実習が、始まりだった。とも子の学校の実習は、お互いが実際に処置を受け、患者の立場を体験するという内容も含まれた。そして、その浣腸実習では、とも子が患者役になることが、あらかじめ決まっていたのだった。そして皮肉なことに、その実習を迎える緊張からか、とも子は本当に便秘になってしまったのだ。いくら実際にその処置を受ける実習とはいえ、何日分も溜めたものを、クラスメートの前で排泄するなど、出来ることではない。とも子は困り果てて、岡田に相談したのだった。
まだその頃は、肉体関係もない間柄だったが、医師の卵として、そしてとも子のボーイフレンドとして、岡田の出した答えは、前日の実習の予習、つまりとも子への浣腸だった。岡田に浣腸をされたとも子は、排泄の快感と共に、羞恥と、それに伴うセクシャルな快感も覚えていた。その後、肉体関係も持った二人は、とも子の導尿の実習、岡田の婦人科の診察と、お互いの体をモデルにした実習を行っていった。

「憶えてる?最初に浣腸したときの事?」
「いやね。もう十年も前の話じゃない・・・憶えてるけど・・恥ずかしいわ。」
「まだヴァージンだったものね。あの実習の前の晩。」
「ええ。今でも思い出すことがあるわよ。どうしてあんなことが・・ってね。」
「それは?あんなことが気持ちよかったっていう意味かな?」
「そうよ。まだSMなんていう行為も知らなかったし、羞恥が快感になるなんてね・・」
「君の便秘症のために、何度もしてあげたよね。」
「ホントに?あなたの趣味だったんじゃないの?」
「いや、僕は医師だから、君の治療をしたんだよ。」
「そんな事言って、あそこを膨らませてたくせに・・」
「それは・・・君のお尻がセクシーだから・・」
「それだけじゃ無いでしょう?あんなに恥ずかしいことまでして。」

浣腸はあの頃の二人の実習のなかで、大きな位置を占めていた。とも子が実際に便秘症だったこともあるが、岡田が浣腸をすることに、興味を持ってしまったことも、大きかった。最初は市販のイチジク浣腸だったものがガラスシリンダーになり、体位もさまざまな体位を取らせ、ぎりぎりまでトイレに行かせなかったり、差込便器を使わせたりしたことも有った。とも子も、浣腸が必要だからと言うよりも、それを快感に感じて受け入れる事の方が多かった。

「今はもう開業医の奥様なんだから、そんな悪いオイタはしていないんだろう?」
「馬鹿ね。あなただけよ、あんなことして・・・私に恥ずかしい思いをさせたのは。」
「今はどうなの?ご主人に浣腸してもらってるの?」
「そんな事してないわ。出産の時だって、処置は看護婦がしてくれたし。取り上げたのは主人だったけどね。」
「そうなんだ。あんなに色っぽいアナルも、ご主人には無視されてるのか。ところで、君の便秘症は改善したのかな?」
「それは・・・時々はね・・・必要になることもあるんだけど・・・。いやね。そんな誘導尋問して。」
「じゃあ、飲み薬ででも処置してるの?それとも自分でしてるの?」
「そうね。今はディスポのグリ浣があるから、セルフでも簡単よ。」
「もったいないな。僕なら、君を内診台に乗らせて、自分の手でたっぷり入れてあげるのに。今やってあげようか?」

汗ばんだ体に、わずかに回るビールの酔い。昨夜のなごりの秘密めいた親しみ。そんな雰囲気が岡田にそんな軽口をきかせ、とも子もまた、いつしかそんな遊びを、懐かしく思い出していた。
この家には、二人のほかには誰も居ないし、誰かに邪魔される心配も無いのだ。はっきりとした否定の言葉も無く、もじもじとためらうように顔を赤らめているとも子を見て、岡田はさらに言葉を続けた。
「子供が居るんだから、ご主人ともそれなりの事はしてるんだろうけど、僕よりもっと気持ちよくしてくれるかい?」

そう言いながら、とも子を引き寄せ、髪を優しく撫でる。とも子にとっての、その言葉は、いままで心の隅に眠らせていた、淫らな欲望の種火に成って行った。いままで、そんな淫らな遊びで、快感を味あわせてくれたのは、岡田だけだった。それは、もう十年も前に封印して、二度と開く事のない秘密のつもりでいたのだ。とも子の気持ちはもう、岡田の提案を受け入れるほうに、傾いていた。岡田は、とも子のうなじにゆっくりとキスをして、囁いた。

「診察室に行こう・・・そこで、思い出させてあげるよ。」




 診察室の扉を開けたとも子は、岡田が室内の配置や備品を確認する間に、扉を閉め、鍵をおろした。
エアコンのスイッチを入れても、蒸し暑い室内は、すぐには温度も下がらず、二人ともじっとりと汗ばんでいた。その汗は、単に温度のためだけでは無い様子だった。
汗ばんでとも子の体にまとわり付く白いワンピースに、岡田の手がかかる。抱き寄せられたとも子は、もう無抵抗だ。耳元で岡田が囁く。
「このまま内診台に乗るかい? 全部脱いでからにするかい?」
もう何をされても逆らえないと、覚悟を決めたとも子には、どちらでも良かった。
「あなたの好きなようにして。」
「じゃあ。ワンピースはこのままで、パンティーだけ脱ぎな。」
言われるがままに、パンティーを下し、足から抜き取る。汗ばんだその白い下着からは、汗の匂い以外の淫らな香りがわずかに感じられる。
岡田が導くままに、素直に内診台に腰をおろし、ゆっくりと上半身を横たえる。岡田は尻の位置を調整した後、片足づつゆっくりと足載せ台に膝を上げさせる。
とも子の視線からは、膝までかかったワンピースの裾で隠れ、そんなに淫らな光景には感じられない。しかし、岡田の位置からは、とも子の女性自身とそこにつながる肛門部や淡い陰毛がはっきりと見て取れる。
岡田が膣鏡とペンライトを取り出す。
「じゃあ、診察を始めましょう。今日は婦人科の内診と肛門科の診察です。痛くないように行いますが、痛かったり苦しかったりしたら、言ってくださいね。」
ごく普通の口調でそう宣言する。十年前の羞恥の感覚が蘇る。あの頃と違うのは、診察台や器具が本物だという事と、岡田が実習という立場ではなく、本物の医師になっているという事だ。
鳥の嘴のようなその器具が、とも子の花芯にゆっくりと挿入される。この部屋の温度と同化したそれは、熱いでもなく、冷たいでもなく、岡田の鼓動を感じさせるように、ただ進入してくる。そして、ゆっくりと嘴が開かれ、とも子の体の奥底の秘密が、十年ぶりの岡田の目に晒される。
あの頃と同じように、岡田が感想をそのまま口にする。本当ならそれは、医師としては、倫理に反する事だ。女性のあの部分を見慣れた医師が、きれいとか、汚いとか、大きいとか小さいとか、ゆるい、きついなどと言う表現を口に出せば、患者は憤慨するだろう。しかし、二人の間では、あえてそれを口にする事は、羞恥と快感をいっそう高めるものだった。
「きれいな子宮だね。膣口も柔らかすぎず、硬すぎずで、とても経産婦とは思えないよ。それに、潤滑剤を使わなくても、こんなにスムーズに挿入できるなんて、分泌物の量も十分だし、質も良いようだ。透き通った淫らなよだれが、いっぱいだよ。」
「いやっ!相変わらずなのね。そんな恥ずかしいことを言って。」
「大丈夫。まだまだこれからだよ。期待通りにしてあげるからね。」
そう言いながら、陰毛をそっと撫でる。栗の核をむき出し、指先で反応を調べる。とも子の息遣いが高まり、核も充血して、いくらか大きさを増す。
「君のご主人は、どんな事をしてくれるのかな?こんな事はどう?」
そう言いながら、岡田は舌先を核に這わせ、そっと前歯で咬んでみたりする。とも子はたまらず声を漏らす。
「ああっ。そんな。だめ、そんなところ。主人は指で触って、あれを挿入するだけよ。そんなところ、舌でいじめないで・・・恥ずかしい。匂いが・・・」
「大丈夫。淫らな良い匂いがしてるよ。それにこの後もっと、強烈な匂いが出るような事をするんだからね。」
「それって・・・後ろの事?」
「そうだよ。それが一番のお望みだろう。解ってるじゃないか。」
「うん。でも。やっぱり恥ずかしい・・・」
「だめだよ。ここまで来て。もうフルコースのメニューは決定済みだ。デザートまで全部味わってもらうよ。」
そう宣告して、岡田はゆっくりと、とも子の女芯を貫いていた嘴を引き抜く。その抜けて行く感触にさえ、とも子の体は反応して、吐息を漏らす。
この後に続く、羞恥のメニューは、十分想像がつく。とも子はそれを思い浮かべて、期待とも嫌悪ともつかぬ淫らな興奮を噛み締めているのだ。

岡田は、蜜壷から流れ落ちる蜜を、指先に取り、そのまま下の方に誘導していく。蟻の門渡りと呼ばれる部分を通り、もうひとつの淫らな穴まで、水路が開通する。岡田の指は、その流れを穴に流し込もうとするように、菊花をなぶる。
本来なら、使い捨てのゴム手袋を着用して、診察行為を行うのが当然なのだが、素手のままで、指が進入を繰り返す。
「肛門鏡も有るんだな。入れて内部診察をしてあげるよ。」
耳元でそう囁かれたとも子は、羞恥でいっそう頬を紅潮させる。
「だめ。中を見ちゃ。」
「どうしてだめなんだい?」
「だって・・・」
元看護婦の経験もあり、昨日と今朝の自分の行動を思い返した時に、そこを開かれると、中に見えてしまうものがあることが、解っていた。
その拒否はそっけなく無視された。淫らな蜜で、すでに十分な柔らかさに成っている菊花に、金属の器具が、ゆっくりと埋め込まれる。
「かなり根元まで入ったようだけど、ちょっと最後の部分に抵抗があったぞ。」
そのことは、とも子も体に響いた重い振動でわかっている。
「何がつかえているのかな?開いてみよう。」
二人とも十分に承知している事を、あえて口に出して、とも子の羞恥を煽りながら、岡田はゆっくりと器具を開く。
「だめだめ。そんなの見ちゃ。」
とも子がどんなに抵抗しようと、足と腹部をベルトで固定された内診台から、逃れる事は出来ない。そして本心では、とも子も、そのストーリーを中断される事など、望んではいないのだ。
「おや。なにか詰まっていますね。何かな?臭気もありますね。確かめるために、指でつついて見ましょうか?」
そう言いながら、強制的に開放された、本来なら人目に晒す事など無い部分を覗き込む。有ろう事か、その部分にそっと息を吹き込んだりもする。当然、気流はその空洞内部で渦を巻き、奥の壁となっているモノの香りを外部まで運び出してくる。とも子にも、腸の内壁に風が当たる感触がわずかに感じられ、それがさらに羞恥を誘う。
「お願い。もうやめて。そんな恥ずかしいこと。」
「それじゃ、この詰まりを除去するための、処置を受けますか?」
最初から判っている処置を、あえてここでもう一度、とも子に確認をする。
「はい。お願いします。」
「処置とは、何をして欲しいのかな?」
「・・・か・・かんちょ・・・」
「何かな?はっきりと聞き取れなかったけど。」
「浣腸してください。」
「どんな浣腸が希望だね?もっとはっきりとお願いしないと、処置してあげないよ。」
「とも子にガラスシリンダーでのグリセリン浣腸の処置をお願いします。」
こうやってとも子に希望を訊ね、はっきりと口に出して処置をお願いさせるのが、十年前の岡田のやり方だった。それは、看護婦としての、適切な処置方法の選択という名目で、とも子に自ら浣腸をねだらせる羞恥プレイでもあった。

肛門鏡がゆっくりと引き抜かれた。柔らかく解された菊花が、落ち着きを取り戻して、ゆっくりと収縮した。しかし、その周辺は淫らな滑りで潤い、輝きを見せていた。
岡田は、とも子の尻の下になっているワンピースの裾の部分を、汚れないようにと上にあげさせ、とも子の視界に入る位置で、準備に取り掛かった。グリセリンをビーカーにあけ、水道水で希釈する。その二つの成分が混じり合い濃度のムラで揺らぎが見える液体を、とも子に見せつけ、ガラス製の浣腸器で、混ぜ合わせる。
「グリセリン50パーセントの溶液だ。標準的な浣腸液だね。今日のこの気温を考慮すると液温は体温に近いから、このままでも良いだろう。これを適量注入すれば、排便が見られるようになる。さて、適量とはどのくらいかな?」
わざととも子に訊ねる。
「あの・・100ccで良いと思います・・・」
「それで十分なのかな?不十分な処置では完全な排便が行われず、再度の処置を行わなければならない可能性も有るよ。最初から多めに注入した方が良いのではないかな?」
「はい。でも・・・」
「では。最初は100ccで試みてみよう。その後の経過によっては、再度の処置も行うからね。」
「はい・・・お願いします。」
つまり、何度も入れるよ、という宣言だ。看護婦の立場としては、医師の決定には異議を唱えられない。医師が不十分だ。再処置と言えば、それは拒否できないのだ。たとえ、それが自分自身の体に行われる、苦痛を伴う淫らな処置だとしても。

ガラス製浣腸器にグリセリン溶液が満たされる。ちょうど100ccのものだ。そして、その嘴管がゆっくりと、とも子の菊花に挿入される。さっきの開放のなごりも有り、抵抗もなくスムーズな挿入だ。とも子のあえぎ声が大きくなる。囁くような岡田の声も、緊張と興奮から、いくらかかすれ気味になる。
「それじゃ、入れるよ。」
とも子にそう最終通告を行い、ゆっくりとピストンが押される。100ccの液は抵抗も無く、とも子の体内に流れ込んで行った。いくらか体温より低いその液体の温度は、火照ったとも子の体を一時的に冷やし、同時にその先にある破局への冷たい予感を覚えさせた。
すべての液が注入された後も、名残惜しそうに、岡田はその浣腸器をとも子に突き立てていた。やがて、そっと菊の芯から、ガラスの嘴が離れた。
「では、君の判断どおり、この処置で結果を待つ事にしよう。」
そう言うと岡田は、いつ、とも子の破局が訪れても良いように、内診台の汚物受けを用意した。
必要な時には、自分でディスポの浣腸を使う事は有ったが、こんな風に内診台に上がって、こんな風に嬲られながら、浣腸を受けるのは、久しく無かったことだった。とも子の体は、いつもの夫からの行為では見られないほど、異常な興奮状態にあった。
本当に十年前と同じだわ。この流れ込んできて、私の体の中で、悪魔のようなカウントを数え始める、淫らな液体。それを注ぎ込みながら、恥ずかしい言葉で、私をいじめるこの人。
排泄を求める欲求が、じわじわと湧き上がってくる。それを堪える苦痛も、あの頃と同じ懐かしいものだった。いまさら、抗えない。すでに破局へのカウントダウンは始まっている。もう十年も前に封印したはずの快楽だったのに、また、岡田の目の前で、羞恥の極限の時を迎えようとしている。そんなことを、朦朧とした意識の中で考えながら、とも子は一回目の破局を迎えた。
「ああっ。もう駄目。出ちゃう・・・」
岡田はあえて、それを制止しようともせず、素直にとも子の限界を迎えさせた。まだ我慢しろという言葉も無く、指での阻止もしなかった。
開放された悪魔の液体は、とも子の体から流れ出て、同時に、先ほどの障害物、糞塊がいくつか汚物受けに落ちた。しかし、とも子の努力にも関わらず、それ以上のモノは、菊の蕾の奥から出ては来なかった。上半身を横たえ、我慢を強制されたわけでもない状態での排泄は、腹圧も十分にかからないまま、苦痛の元を流出させただけに終わった。

「どうかな?十分な効果はあったかな?」
岡田が意地悪く、とも子に尋ねる。もちろん、その答えは明白だった。
「いえ。あの・・・不十分だったと、思います・・・」
「では、再度の処置は必要だという判断で良いかな?」
「はい・・・十分な量のグリセリン液で、再度浣腸を行い、腸内の便を完全に排泄させるのが、望ましいと思います。」
自分に対する、残酷な処置を、わざと医学的な用語で言わせる。十年前の岡田のルールが、この場になっても、とも子の態度に表れていた。
「それでは、今度は200ccだよ。十分な効果があるように、患者としても努力してくれ。」
そういうと岡田は、再度ガラス製浣腸器に、グリセリン溶液を吸い上げる。
再度の嘴管の挿入と液の注入は、スムーズに行われた。何の抵抗も見せず、あっさりと菊花は貫かれ、その液体はとも子の体内に流れ込んだ。さらに、同量の追加。一度嘴管を引き抜かれ、溶液を満たし、再度菊花に突き立てられる。そのグリセリン溶液を、じらすようにゆっくりと、緩急をつけながら、とも子の体内に注入する。岡田も久しぶりのとも子との、秘密の遊びに、極度の興奮を感じていた。

再度の浣腸で、倍の量の液を注入された体は、すぐに、その反応を表した。注入された液は、本来の排泄促進作用以外にも、媚薬としての作用も有る様にも感じられる。直腸への刺激、便意の高まりとともに、性感も限界に近い高まりを感じる。その様子は、岡田の目にも、はっきりと見られていた。脈拍の上昇、呼吸の高まり、顔面の紅潮、そして、栗の核とその周辺の充血、分泌液の増加。それを観察している岡田も、冷静では居られなかった。ヒクヒクと崩壊の兆しを見せながら、まだ自制している菊花を、指で制止し、とも子の核に舌を伸ばす。軽く歯でそれを咥えると、とも子は思わず悲鳴のような声を上げた。
「だめっ!お願い・・・もう我慢できない。」
「二度目だからね。もっとがんばるんだよ。」
「ねえ。お願い。あそこに、入れて。あなたを・・・」
かつての行為が、二人の記憶に蘇って来る。浣腸の便意を堪えたまま、とも子の女性自身に岡田のモノを受け入れ、苦痛と快感を同時に味わうことで、通常の行為以上の快感を感じた事。そして、その高まりのなかで、括約筋の強烈な締め付けで、岡田もまた、激しい快感を感じた事。それにより、激しいグリセリンの刺激に堪えることが出来、開放された時には、至高の快感が得られた事などが、蘇った。
岡田の肉棒も、すでにはちきれんばかりに充血している。それを、とも子に突き立てることに、ためらいは無かった。あわただしくそれを取り出し、指でとも子の菊花を押さえたまま、その肉棒を、とも子の花芯に突き立てる。限界に近いとも子の体は、岡田自身を受け入れた時から、すでに熾りのように細かな痙攣を繰り返し、何度も何度も、快楽の高みへと登りつめた。岡田もまた、その絶頂と同期するように、快楽の頂に達し、白濁した精を、とも子の中に放出したのだった。
そして、二人の同期した絶頂の直後に、菊花の崩壊も起こった。
岡田が、放出直後の、まだいきり立った自身を引き抜き、押さえた指を離すと、快感の頂を味わいつくしたとも子は、便意からの解放という、もうひとつの快楽を味わったのだ。
流れ出るような、一連の放出は、グリセリン液の迸りから始まり、黒褐色、茶褐色、黄土色、黄色とグラデーションのように色を変え、硬さも固形物から次第に液状に変化して、すべての内容物が流出するまで続いたのだった。

すべての快楽を味わいつくしたとも子は、全身の力が尽き、ぐったりと横たわっている。岡田は、激しい快楽の余韻でぼんやりとしながらも、とも子の陰部と肛門周辺を拭き、後始末をしてやり、内診台の拘束から、とも子を解放した。あまりの激しい展開に、うっすらと涙さえ浮かべ、とも子はされるがままになっている。
こんな筈では無かった。岡田自身を受け入れさえしなければ、知り合いの医師に、便秘の治療をしてもらったのだと、自分自身に言い訳が出来たはずだ。しかし、その最中に別の行為を求めたのは、
とも子の方なのだ。余韻の冷めつつあるとも子の体と気持ちを落ち着かせる様に、ようやく効き始めたエアコンの冷気が流れてきた。
「その・・何と言うか・・素敵だったよ。」
岡田もまた、ひと時の勢いでの行為を、どう受け止めてよいのか、ためらっていた。
「ありがとう。その・・・素敵な・・・治療だったわ。そう思っていれば良いのね。」
「そうだね。・・・僕は医師だ。君の診察と治療をしてあげたんだよ。」
二人は共犯者のように、見つめあい、微笑を交わす。
「また、治療が必要になったら、お願いしても良いかしら?でも・・駄目ね。こんな治療。何度も受けるものじゃないわね。」
「そうだね。きつい治療だからね。でも・・・君が望むなら、喜んで何度でもしてあげるよ。」
そうして二人は、軽いキスを交わす。再度あることへの約束なのか、口外しない誓いなのか、快楽をともにした者同士の契約でもあった。

その三ヶ月後。とも子は自分の中に、新しい命が定着した事を確信した。そして、それはあの熱い夏の岡田の残した行為のなごりだという事も、同時に確信した。
この命をどうするべきか?
夫も産婦人科ではあるが、妻の胎内の新しい命を、理由も聞かず処分してくれるはずも無い。そして、もう一人の心当たりのある産婦人科の医師は、この命の種を蒔いた男なのだ。
とも子の苦悩と、その後辿る運命は、また後日の話となる。

  了

  
作者注 : この小説はカルテ通信に掲載された作品の別バージョンです

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