SPACE銀河 Library

作:えり子

ゆ  り

(その1)
 私は高校2年のゆりです。
ちょっと、とろくって、夢見がちな女の子です。
新学期が始まりました。

 クラスに新しいお友達が転校して来ました。
担任の先生から紹介があります。
「外国からの帰国子女で、未来(みき)さんです、皆さん、仲良く
 してあげて下さいね。」

 その子は足が長く、日本人離れした抜群のスタイルの子です。
顔もかわいいです。
ゆりは思います。
「あの子、どこかで会ったような気がするわ、気のせいかも知れないけど。」

 今日は始業式があり、学校は午前中でおしまいです。
ゆりは身の回りのものを買うために、寄り道をします。

 薬局へ向かいます。
ゆりは高校生になって、夜遅くまで勉強をしたりすることもあり、そのとき
母が夜食を準備してくれますが、そのため、かえってお通じが不規則になり、
便秘をするようになりました。
便秘をすると、おなかが出っ張るし、肌が荒れるし、顔に吹き出物が出るので、
ゆりは大変ゆううつなのです。
だから、便秘はできるだけ早く退治しなければならないのです。
ゆりの経験では最も即効性があるのはいちじく浣腸です。
下剤は効果の予測ができず、失敗することもあり、ゆりは最近はもっぱら
いちじくに頼っているのです。

 行きつけの薬局の、いつもの棚からカゴにいちじく30g、2個入りの青い箱を
6箱放り込みます。
ゆりはいつもまとめ買いをするのです。
こうすれば、薬局へ行く回数も少なくて、恥ずかしさも少なくてすむと思っています。
1カ月間は来なくてすむのです。

 ゆりはレジに並んで、後ろを振り返ります。
そして、ちょっとどきっとします。
あの転入生の未来がいつの間にかゆりの後ろに並んでいるではありませんか。
そして、彼女はゆりに会釈をします。
ゆりも笑顔を返しますが、ばつが悪いなと感じます。
しかし、もうどうすることもできません。
別に悪いことをしている訳ではないと、開き直ります。

 ゆりはレジでいちじく浣腸6箱を袋に入れてもらいます。
もう、未来にはばればれのはずです。
支払いを済ませて、ゆりは未来を待ちます。
どんな子か、話をしてみたいと思ったのです。
自分の味方につけておくとよいとも思いました。
それに、便秘は女の子の共通の悩みですから、女の子に知られることはそれほど
恥ずかしくはありません。
これが、男の子だとそうは行きませんが・・・。

 ゆりは未来のかごの中を見て、大変驚きました。
未来も便秘のようですが、同じ便秘でも、ゆりよりはるか上を行っているようなのです。
何故なら、未来のかごの中には500ccのグリセリンのボトルが6本あったのです。
ゆりは負けた!と思いました。

(その2)
 ゆりは未来と並んで、歩きます。
「ねえ、未来さん、急ぎの用事がなければお茶でも飲みましょうか。」
「それはいいわね、よろしく。」

 二人は最寄りの喫茶店へ入ります。
互いにコーヒーを飲みながら話しを始めます。
ゆりが口を開きます。
「近くに住んでるの。」
「そうよ、私、ゆりさんにお会いできて、すごくうれしいわ。」
「そうなの、私、以前にあなたにお会いしたような気がするんだけど。」
「それはちがうと思う、初めてお会いするはずよ。」
「そうかな、ところで、私、最近、お通じの具合がよくないんだけど、
 あなたもお困りのようね。」
「そうなんですよ、でも、これには深いわけがあるの・・・。」
「そのわけとやらを、是非お聞きしたいな。」
「私も、是非お話ししたい、でもとても信じてもらえないと思うわ。」
「信じるから是非聞きたいわ。」
「それではお話するわ。」

 未来が話しを始めます。
「ゆりさんは、タイムマシンの存在を信じますか?」
「いきなり、すごいお話しねぇ。あれはSF小説の世界のお話しでしょ、
 あなた、SF小説がお好きなの。」
「そう来ると思ったわ、とても信じてもらえないと思う。」
「ごめん、信じるよ、それで、タイムマシンがどうなの、あなたがタイムマシンで
やって来たとでも言うの?」
「そうよと言うとどうする?」
「う〜ん、どうかな。」
「あなたに限ってお見せするわ、私の家に来る?」
「おもしろいわ、見せてもらいましょ、そうすればグリセリンの謎も
 解けそうだわ。」
 
 二人は未来の家に向かいます。
古い赤レンガの洋館がありました。
「こんな家あったかしら?」
 ゆりはちょっと不思議な気がしました。
もうこの土地には何年も住んでいるくせに、ゆりはその家の存在には気がつきません
でした。

(その3)
 ゆりは未来の家に入って行きます。
ツタのからんだ古色蒼然とした家です。
お手伝いさんが2人を迎えます。
2人は2階の未来の部屋に上がります。
部屋はベッドとクローゼット、ドレッサーがあります。
そして、暖炉とトイレもあります。

 ゆりは早速未来に問いかけます。
「ねぇ、タイムマシンは一体どこにあるの。」
「おトイレよ。」
「えぇ、ほんと?」
「それじゃあ、お見せするわよ。」
「うん。」

 2人はトイレのドアを開きます。
そこには普通の洋式便器がありました。
ただし、ちょっと不思議なのは便器が2個並んであるのです。
「ゆりさん、ここへ座ってみてよ。」
 未来とゆりは2人そろって便器に座ります。
もとろん、下着は着衣のままです。
2人とも、手には先ほど薬局で購入した品物の袋をそれぞれ手にもった
ままです。

 未来は天井から下りているひもを引きます。
「ゆりさん、心の準備はよくって?」
「いいとも!」
ゆりは笑いながら答えます。
 未来は思いっきりひもを引きます。
ザッーと大きな音がします。
水が流れる音ですが、それよりもはるかに大きな音です。
そして、目の前が次第に暗くなって行きます。
「キャー、助けて。」
ゆりは未来にしがみつきます。
「大丈夫よ、しばらく我慢するのよ、浣腸のときと同じ要領よ。」
未来がゆりに言います。
ゆりは全身に圧力を感じます。
目の前が真っ暗になりました。

(その4)
 突然、ゆりの目の前が明るくなりました。
目の前が黄金色に輝いています。
「着いたわよ。」
未来が言います。
「えっ、着いたって、どこへ着いたのよ。」
「あなたのご希望通り、タイムマシンで未来(みらい)に来たの。
 今は22世紀よ、あなたのいたところから100年先に来たの。」
「えぇ、信じられないわ、本当なの?」
「そうよ、前に進んでみて下さい。」
ゆりは前に進みます。
黄金色のものは扉のようです。
ゆりはその扉を押します。
扉は静かに開きます。
黄金色の扉の向こうに階段があります。
2人は階段をゆっくり下ります。
階段を下りて、ゆりは後ろを振り返ります。
驚きました。
あの黄金の扉は実は仏壇でした。
仏壇の観音開きの扉だったのです。
40代くらいのご夫婦が2人の前に現れました。
そして、ゆりに向かって口を開きます。
「ご先祖様、ようこそここへいらっしゃいました。」
「えぇ、私がご先祖様なの、一体ここは何?」
未来が口を開きます。
「お父さん、お母さん、ただ今帰りました。
 今、ご先祖様のゆりさんをお連れしました。
 それから、これは、おみやげのグリセリンです。」

 ゆりは問います。
「何が何やらわかりません、きちんと説明して下さい。」

お父さんが口を開きます。
「お疲れでしょうが、お話しをします。
 あなたは私の娘、未来のおばあさんのそのまたおばあさんであるゆりさんです。
 つまり、未来より4代前のお方になります。
 何しろ今はちょうど22世紀、つまり、あなたは100年の時空を飛び越えて
 来られたのです。」
「ほんとうですか、やはりタイムマシンは存在したんですね、驚きました。」
「そうです、今は22世紀ですが、決してよい時代ではありません。
 むしろ、大変な時代なのです。
 何しろ、グリセリンさえも不足しているのです。」

(その5)
 未来のお父さんが長々と説明をします。
「あなたを含めて、20世紀、21世紀の住人が地球資源を使い果たしました。
 石油もウランも枯渇しました。
 こにあるのは、太陽、水力、風力、潮力エネルギーしかありません。
 エネルギーの使用を節約しなければなりません。
 車は使えません。
 石油からできる製品はまったくありません。
 ガソリン、灯油、プラスチックなどです。
 家庭には冷蔵庫、加熱機、洗濯機、TVなど電力を食うものはありません。
 照明はELランプという電気を食わないものです。
 食料も大変です。
 地球温暖化により、海面水位が上がり、日本国土は狭くなっていて、とくに
 耕地面積は狭いのです。
 それに、冷凍や輸送に制約があります。
 食料は魚や肉、野菜などを生産地で加工、濃縮し、チューブに詰めます。
 つまり、宇宙食のようなものです。
 これだと、冷凍も輸送もコストがかかりません。
 胃腸の負担がかからないので、胃腸は小さくなり、体型は胴が短く、手足が
 長くなりました。
 ただし、大きな問題があります。
 食物繊維が不足するため、便秘になるのです。
 胃病はなくなりましたが、大腸の病気が増えました。
 このため、われわれは浣腸が欠かせないのです。
 1日最低3回する必要があります。
 ただし、グリセリンは大変貴重品ですから、普通は温水で浣腸します。
 あなたが今手にもっているいちじく浣腸はとうの昔に製造中止になりました。
 容器のプラスチックとグリセリンが入手困難なのです。
 だからあなたのもっているものは宝物です。
 1箱100万円の価値があります。
 グリセリンも同様です。
 皆、タイムマシンで過去から持ち寄るのです。
 これは親戚のおみやげには最高の品物です。」
 
 ゆりはその話しに驚きました。
 そして言います。
「何もありませんが、このイチジク浣腸6箱はおみやげに差し上げます。」
 お父さんは言います。
「それはありがたい、とてもうれしいです。」

(その6)
 未来とゆりは町を散歩することになりました。
ここでは車はなく、自転車か馬車で出かけるのです。
どの家庭も馬を飼っています。
家の軒のところに大きなガラス容器が釣り下げられています。
 ゆりは未来に聞きます。
「あれは一体何?」
「あれはイルリガートルよ。」
「えっ、あんなに大きいの、10Lはあるわよ。」
「そうよ、ただし、あれは人間用ではないわ、馬用よ。」
「へぇ、そうなんだ、馬にも浣腸をするの?」
「そうなの、法律で、公道に馬がふんをすると罰金が来るの、
 だから、出かける前に浣腸をしておくの、それは馬の健康にもいいの。」

 未来とゆりは馬車に乗って町に出かけます。
町と言ってもさびしい風景です。
第一に食べ物屋さんがありません。
それにデパートやスーパーマーケットもありません。
ゆりは問います。
「スーパーやコンビニはないの。」
未来が答えます。
「食料品を売らないし、衣類は木綿かウールの自然素材のものだけなので、
 デパートやコンビニはないの。」

 喫茶店がありました。
入ってみます。
MENUはコーヒー、紅茶、ミルク、それにCCと書いてあります。
ゆりはまた未来に質問します。
「CCって何なの?」
未来が笑いながら答えます。
「コロンクレンジングのことよ、つまり浣腸よ。」
「えぇ、喫茶店で浣腸をするの?」
「そうよ、父が説明したように、ここでは浣腸は日常生活に溶け込んでるの。
 いつでも、どこでも気軽にできるようになってるの。
 職場でも、休憩時間には皆浣腸をして、リフレッシュするの。
 コーヒーより人気があるわよ。」
 
 ゆりは言います。
「私、試してみたい!」
「いいわよ、私もお付き合いするわよ。」

(その7)
 ゆりは喫茶店のカウンタでCCを注文します。
店員が言います。
「500にしますか、1000にしますか。」
ゆりは多分これは500CCか1000CCのことだとわかりました。
「500をお願いね。」
店員はガラスびんに温水を詰めて、手渡します。
未来が言います。
「これは太陽熱を蓄熱して、暖めたものよ。
 それに、ペットボトルは今はないので、ガラスか陶器の容器を使うの。」
「そうなの。」
これをもって、奥の部屋に行きます。
そこはいくつかの小部屋があって、皆ガラス張りになっています。
ゆりが驚いて言います。
「ガラス張りだと、外から見えちゃうわよ。」
未来が答えます。
「浣腸は誰でもする行為なので、恥ずかしくなんかないわよ。
 歯磨きと同じ感覚よ。
 老若男女、皆隣同士で平気で浣腸をするわよ。」
ゆりは反発します。
「それは困る、病院ではカーテンをするわよ。」
未来が言います。
「100年前はそうだったかも知れないけど、今はそんなことすると、
 かえっておかしいわよ。
 郷に入れば郷に従えよ。」
「しかたないわね。」
 ゆりはあきらめて、ガラス張りの小部屋で浣腸を始めます。
頭のところにガラス製のイルリガートルがあります。これに、ガラス容器の
温水を移します。
イルリガートルにゴムチューブが接続されています。
嘴管は消毒済みの印がしています。
嘴管に潤滑剤を塗ります。
これも天然素材でできたもののようです。
下着を下げて嘴管をお尻に挿入します。
隣では未来も同じようにしています。
未来は足が長いので、お尻がずいぶん高い位置にあります。
ゆりはやはり見られるのに違和感があります。
ガラス張りの部屋で、互いにイルリガートルをお尻に挿入しているのです。
コックをはずします。
温水がお尻から体内に入ってきます。
いいきもちです。
未来もうっとりした表情をしています。
やはり、いつの時代も浣腸はきもちいいものです。
これは21世紀も22世紀も変わらない事実です。
注入が終わり、便器にすわります。
未来も同じようにしています。
排出をします。
おなかにちからを入れて、一気に出します。
さすがに、となりの音までは聞こえません。
すべてを出しつくして、すっきりしました。
未来もすっきりした顔に変わりました。
お互い顔を見合わせて、Vサインをします。
お尻をふいて、CCが終わりました。 
 
(その8)
 どうやら22世紀の人達は浣腸が最大の楽しみのようです。
健康のためによいし、気分もすっきりするし、とてもよいことのように
思います。
ただ、グリセリンが貴重品なのが、22世紀の人には気の毒ですね。

 未来が言います。
「博物館に行ってみようか。」
「うん、面白そうね。」
 2人は博物館に向かいます。
「浣腸博物館」と書いた建物に入ります。
 そこには20世紀以前の浣腸に関する資料が集められていました。
未来によると、浣腸そのものは20世紀がピークで、21世紀は道具そのものは
衰退したそうです。
 有名ないちじく浣腸も21世紀の中頃には製造中止になったそうです。
そして、ガラス製のシリンダ、イルリガートルが生き残ったのだそうです。

 18世紀頃の浣腸の絵画が展示されています。
貴族の奥方が召使いに浣腸をさせている絵などが展示されています。
それから各種浣腸器が展示されています。
 ゆりは初めて見るものばかりです。
ゆりが経験した浣腸は病院で受けたガラスシリンダ、イルリガートル、それに
常用しているいちじく浣腸のみです。
 装飾を施した金属製の大きな浣腸器、ボヘミアングラス製の浣腸器、美しい
磁器製の浣腸器などがゆりの目を引きました。
いちじく浣腸やヲオタなどのディスポ浣腸も多くコレクションされていました。

 ゆりの頭にふと浦島太郎の話が頭をかすめました。
22世紀に来て、時間がどんどん過ぎます。
私、21世紀に無事に戻れるのかしら。
戻ったとき、白髪になっていたらどうしましょ。

 ゆりは未来に言います。
「私、そろそろ21世紀にもどりたいの。」
「いいわよ、家にもどりましょ。」
 未来の父さんとお母さんに、お別れを言いました。
そして、今度は私一人で仏壇の階段を上ります。
「ご先祖さん、お元気で。」
皆が声をかけてくれます。
「さようなら。」
私は最後のお別れをします。

 タイムマシンに乗ります。
目の前が暗くなりました。
ゴッーと言う音がしました。
長い時間がかかります。
私は不安になります。
すごい振動が私を襲います。
振動はなおも続きます。
私の耳元で大きな音がしました。

「ゆり、時間ですよ。
 今日から新学期でしょ。
 もう起きなさい。」
 
 母の声です。
母が私の頭を前後に振動させていました。
 
  どうやら22世紀の人達は浣腸が最大の楽しみのようです。
健康のためによいし、気分もすっきりするし、とてもよいことのように
思います。
ただ、グリセリンが貴重品なのが、22世紀の人には気の毒ですね。

 未来が言います。
「博物館に行ってみようか。」
「うん、面白そうね。」
 2人は博物館に向かいます。
「浣腸博物館」と書いた建物に入ります。
 そこには20世紀以前の浣腸に関する資料が集められていました。
未来によると、浣腸そのものは20世紀がピークで、21世紀は道具そのものは
衰退したそうです。
 有名ないちじく浣腸も21世紀の中頃には製造中止になったそうです。
そして、ガラス製のシリンダ、イルリガートルが生き残ったのだそうです。

 18世紀頃の浣腸の絵画が展示されています。
貴族の奥方が召使いに浣腸をさせている絵などが展示されています。
それから各種浣腸器が展示されています。
 ゆりは初めて見るものばかりです。
ゆりが経験した浣腸は病院で受けたガラスシリンダ、イルリガートル、それに
常用しているいちじく浣腸のみです。
 装飾を施した金属製の大きな浣腸器、ボヘミアングラス製の浣腸器、美しい
磁器製の浣腸器などがゆりの目を引きました。
いちじく浣腸やヲオタなどのディスポ浣腸も多くコレクションされていました。

 ゆりの頭にふと浦島太郎の話が頭をかすめました。
22世紀に来て、時間がどんどん過ぎます。
私、21世紀に無事に戻れるのかしら。
戻ったとき、白髪になっていたらどうしましょ。

 ゆりは未来に言います。
「私、そろそろ21世紀にもどりたいの。」
「いいわよ、家にもどりましょ。」
 未来の父さんとお母さんに、お別れを言いました。
そして、今度は私一人で仏壇の階段を上ります。
「ご先祖さん、お元気で。」
皆が声をかけてくれます。
「さようなら。」
私は最後のお別れをします。

 タイムマシンに乗ります。
目の前が暗くなりました。
ゴッーと言う音がしました。
長い時間がかかります。
私は不安になります。
すごい振動が私を襲います。
振動はなおも続きます。
私の耳元で大きな音がしました。

「ゆり、時間ですよ。
 今日から新学期でしょ。
 もう起きなさい。」
 
 母の声です。
母が私の頭を前後の振動させていました。

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