SPACE銀河 Library

作:えり子

受 診 記

 (その1)
 
 学生時代の話です。
講義が終わってアパートに帰ると、驚いたことに母が来ていました。
急な用事があって上京したそうです。
その用事が済んだので、私のアパートへ立ち寄ったのです。
携帯に電話したそうですが、講義を受講中では携帯電話は使用禁止なので、
連絡が取れなっかたのです。

 母が言います。
「えり子、あなた、おなかの調子が悪いの?」
「えっ、どうして?」
「あなたの机の上にいちじく浣腸の箱が置いてあったから。」
  私はしまったと思いました。
昨日いちじく浣腸の箱をとりだして、いちじく浣腸をしげしげと
鑑賞したのです。
使用したわけではありません。
その後、引き出しに収納するのを忘れていたのです。

「うん、最近ストレスのせいか、ときどき便秘をするの。
 たいしたことはないと思うわ。」
「一度、病院で見てもらった方がいいわよ。」

 冬休みの数日前に母から電話がありました。
「あなた、冬休みに帰省するでしょう、*月*日に大調の検査を予約
 したわよ、いい。」
「心配ないわよ、勝手なことをしないでちょうだい。」
「これはお父さんの指示よ。」

 私は帰省が予定より遅れて、検査予約日の前の日遅く故郷の駅に到着しました。
母も所用で帰りが遅くなるそうなので、駅近辺で食事をすることにします。
夕食はめん類を食べるようにとの病院の指示を母から聞いていましたので、
駅の前のお店でチャンポンを食べました。
野菜が多く入っていました。
 デザートが食べたかったので、隣の喫茶店でミルクとキューイフルーツを
食べました。
それから自宅に帰りました。

 自宅にもどると、母が病院からもらった受診の心得の書類が置いてありました。
「大調検査を受ける人へ。
 夕食は具のないうどんを食べて下さい。
 野菜、きのこ、海草、乳製品、トマト、いちじく、キューイなど種の
 あるものなど、消化されにくいものは食べないで下さい。
 朝食は食べないで下さい。
 水は飲んでもかまいません。
 夜寝る前に渡した下剤を飲んで下さい。」

 
 私はしまったわと思いました。
野菜は食べたし、ミルクやキューイは食べてはいけなかったのです。
母に聞くと下剤は私が取りに行くと思い、もらってこなかったそうです

 いよいよ検査の日の朝になりました。
緊張のせいか、朝、排便はありませんでした。
大調の検査は初めてのことで、緊張しながら病院へ向かいます。
 受け付けを済ませます。
2階に案内されます。
検査を受ける人が数人まっていました。
 まず更衣室で検査着に着かえさせられます。
衣類は全部脱いで、お尻の部分に穴のあいたパンツをはきます。
それから、短い検査着、さらに長い検査衣を着用します。
薄いものですが、寒くはありません。

 それから病室に移動します。
ベッドで待っていると、ナースがやってきて血圧測定と問診がありました。
便通の有無、病歴、体調を聞かれました。
そして、言いました。
「えり子さんは下剤を飲んでいませんね、そしてお通じもなかったんですね。」
「はい。」
「お薬を飲む前に処置がありますから、ここで待っていて下さい。」

 (その2)

 しばらくして、ナースが二人やってきました。
一人は若く、20代前半の新人のようです。
もう一人は40代のベテランナースです。
新人ナースが手にもつトレイには何とガラスの浣腸器がありました。
どうやら、私、これで浣腸をされちゃうようです。
100ccの大きなものです。
乳白色の筒に赤い目盛が鮮やかです。
そして独特の形をした嘴管がいやらしく見えます。
あれが私のお尻の穴に入るようです。

「えり子さん、今から浣腸をしますからベッドに寝て下さい。」
  予想もしていない、いきなりのビッグプレゼントでした。
私は指示通りにします。
 浣腸そのものはうれしいことですが、病室には女性の患者が数人いますし、
ナースがなぜか2人なのです。
カーテンは閉められるものの、とても恥ずかしく感じます。

 ベテランナースの指示で、新人ナースが施浣します。
どうやら、新人の教育に私が利用されているようです。
ガラスの浣腸器もそのためにわざわざ使うのかも知れません。
教育のために私のお尻が利用されるのは心外ですが、ガラス浣腸器を使われる
のはラッキーなことです。
功罪相半ばという感じで、許しましょう。

 浣腸はあっという間に終わりました。
嘴管が挿入されたとき、ベテランナースが
「えり子さん、お尻の方に入りましたね。」
と言ったのが、とても恥ずかしく、強く印象に残っています。
新人ナースがティシュの束を私のお尻に当てます。
ベテランナースが言います。
「できるだけがまんして下さい、トイレは廊下を出て、左にあります。
 流さずに、ナースを呼び見せて下さい、ボタンはトイレ内にあります。」

 トイレは男女別ですが、隣が男子トイレで、うすいかべで仕切られただけ
なので、音や声がよく聞こえてとても恥ずかしいです。
 排便後ナースを呼びます。
別のナースが来ました。
名前を聞かれます。
「えり子です、今、浣腸をされました。」
「そう、たくさん出ましたね。
 病室に戻っていいですよ、お薬を飲んでいただきます。」
  便を見られるって、浣腸以上に恥ずかしいことです。
特に、今はたくさん出たので・・・。

 (その3)
 
 病室で待っているとナースがニフレック1.5Lとコップをもってきます。
「これを1時間以内に全部飲んで下さい。
 そしてトイレに6回以上行って下さい。
 便の色がオシッコのようになったら検査が受けられます。
 3回目から便は流さずに見せて下さい。」
 
 ニフレックはまずい味です。
仕方なく少しずつ飲みます。
最初の便意が来て、おトイレに行きました。
先に飲み始めた人が便のチェックを受ける声が聞こえます。
「*さん、合格ですよ、検査を受ける準備をしましょうね。」
「*さん、もう一息ですよ、もう1回頑張って下さい。」
「*さん、まだだめですね、まだ2、3回頑張って下さい。」

 2度目にトイレに行きました。
またナースの声が聞こえます。
「まだだめですね。」
別のおトイレから女性の声で
「もうこれ以上出ません。」
「もう一度トイレに行って下さい、だめならおなかを洗いますから、
 心配しなくていいですよ。」

 また驚きました。
半ば不安に、半ば興味しんしんで、おなかを洗うってどうするんだろうと
思いました。

 ニフレックを飲み終え病室で待っていると、ナースがやって来ました。
「えり子さん、何度トイレに行きましたか?」
「2度です。」
「それでは今からトイレにすわって下さい。」
「はい。」

 おトイレに行くと便意が来て、3度目の排便がありました。
ボタンを押すと、あの新人ナースとベテランナースがペアでやって来ました。
ベテランナースが言います。
「おやおやこれはだめですね。
 シイタケが出ているし、小さい種のようなものも多くあります。
 かなり時間も経っているし、今から洗腸をしましょう。
 奥の広いトイレで待っていて下さい。」
 
 (その4)
 
 何をされるのだろうと、不安と期待で胸がまたドキドキし始めました。
男性トイレで水を流す音が聞こえました。
今の会話をきっと聞かれたに違いありません。
またまた恥ずかしくなりました。

 広いトイレで待っていました。
車椅子で入れるような配慮がしてあるようです。
 あのナース達がまたやって来ました。
新人ナースが買い物カゴを手にしています。
ベテランナースが言います。
「えり子さん、今からおなかを洗います。
 濡れるといけないから、着ているものを全部脱いでこのカゴに入れて
 下さい。」
 
 また恥ずかしいことです。
指示通りに全部脱ぎます。
一糸まとわぬ姿なので恥ずかしく、前を向いたまま呆然と立ち
尽くします。
 二人は準備をしています。
ベテランナースが指示をして、新人ナースが作業をします。
私は首だけ回してちょっと後ろを振りかえると、鉄製のスタンドがあって
細いイルリガートルがかけられています。
これは書物で見たことがあります。
 おなかを洗うというのは、高圧浣腸だったのです。
ナースはさすがにそんな恐い言葉は使わないのですね。
もちろんこれは生まれて初めての経験です。

「前の手すりをもって、お尻を少し突き出して下さい。」
「はい。」
  私は立った姿勢ですが、若いナースは私の後ろにしゃがみ込む
ような体勢で、私のお尻の穴に顔をくっつけんばかりの感じで
作業を続けています。
 こんなに至近距離からお尻の穴を見られるのは、例え同性と言えども、
とても恥ずかしいです。

「入れます。」
「お尻に入りましたね。」
「はい。」
「液が入ります。」
  私はあたたかい液がゆっくりお尻を通過するのを感じます。
「苦しいときは言って下さい。」
「はい。」
「もうすぐ終わりますよ。」
「はい。」
「終わりました。」
「ここで出していいですよ、流さずに見せて下さい。」

 浣腸が終わり、私はぼう然として立ったまま思います。
「こんな密室の中で、若い女性が全裸にされ、2人ががりで高圧浣腸をされる
 なんて、日常では考えられない行為じゃないかしら。
 病院だから許されるのね。
 こういうことをするのもナースの権限なのね。」

 ただ、高圧浣腸は言葉は恐そうですが、ふつうの浣腸より楽な気がしました。
おなかが痛くなりませんし、便意もソフトにやってきます。
 便器にすわります。
私の顔の上に、今使われたばかりのイルリガートルがあります。
ガラスには水滴が付着しています。
 長いチューブがスタンドにかけられています。
そしてその先端には黒く光る嘴管が垂れ下がっています。
今、私のお尻の穴から抜かれたばかりのものです。
 私はそれらをまじまじと見詰めます。
まぎれもなく、私は今、高圧浣腸を受けたのです。

 おなかに力を入れます。
そしておなかのものを一気に排出します。
ティシュでお尻をふきます。
これを便器のなかのじゃまにならない部分に置きます。
便を隠さないように言われているのです。
私の便はまだ濁っていて、着色もあります。

 ボタンを押してナースを呼びます。
若い方のナースが来ます。
便を見て、自分では判断ができないのか、ベテランナースを呼びに
戻ります。
 私のうんちが見世物になっているようで、悲しいです。
ベテランナースが言います。
「えり子さん、まだ粒があるので、これでは検査ができませんよ、
 もう一度、おなかを洗いましょう。」
 
 そしてまた同じことが繰り返されました。
今度は前より余裕ができたような感じで、苦しさは全くなく、肉体的には
快感のみが感じられました。
もちろん恥ずかしさは同じです。

 2度目の高圧浣腸でやっとお許しが出ました。
 
 (その5)
 
 私はベッドに乗せられて、検査室に向かいます。
ベッドの脇にはTVモニタのついた機械と、黒く太く長い大腸カメラ
があります。
 今度はあんな太いものが入るのかと、ちょっと不安になります。
それにトレイにはやはり太いプラスチックの浣腸器が3本並べて
あります。
 恐くて仕方ありません。
点滴が打たれます。
 指に脈拍のモニタが付けられます。

 内視鏡担当のナースが私の体を横にします。
そして、モニタのスイッチを入れます。
先生がやってきました。
「えり子さんですね、では検査を始めます。」
先生は手袋をしているようです。
 お尻の穴に何かが塗られました。
そして、先生の指が入ってきました。
 きもち悪いような、きもちいいような不思議な感覚です。
先生は私のお尻の中で指をぐるぐる回します。
 もううんちはないはずなのに、うんちをしたくなるような感覚
になります。

 このときも頭にある考えが巡ります。
男性がまったく面識のない若い女性を拘束して、お尻の穴に無理矢理
指を挿入し、中をかきまぜているのです。
これも、通常なら許されない行為ではないでしょうか。
 これも病院だから許せるのです。
これは医師の特権なのです。

 指が抜かれ、カメラが入れられるようです。
モニタに瞬間ですが、私のお尻の穴が見えました。
そしてすぐに、TVは私の腸の中をくっきりと写し出しました。
カメラはどんどんと奥へ進みます。
きっと私のお尻の穴から黒い尻尾が生えているような光景なの
でしょう。

 途中に体位を変えさせられます。
先生は浣腸器を使って、私の体内に液体を入れます。
それからおなかを押さえます。
 どうやらカメラは腸の曲がり角を通過したようです。
おなかの中がちょっと引っ張られたような感触がありました。
またカメラは進みます。
もう一度体位変換がありました。

 先生が言います。
「カメラが奥まで入りました、抜きながら内部を観察します。」
「この付近は盲腸です。」
「問題はありません。」
  モニタには白いトンネルが写し出されています。
不思議な光景です。
今、私の腸の内部が見えているんです。
何もなくきれいです。
 まるで友人達と行った焼肉店で出てくるホルモンのようです。
あれはモーさんの腸なので、同じように見えても不思議では
ありませんね。

 途中、黒い塊があります。
「先生、あれは何ですか?」
「便です。」
  私は恥ずかしくなりました。
  
 突然、かべと大きなシワが見えました。
「ここが直腸で、正面に見えるのが肛門です。」
  恥ずかしいことに、私のお尻の穴でした。
 カメラで見ると、拡大されて、ずいぶん大きく見えます。
これも恥ずかしい映像です。

「痔はありません、肛門はきれいです。」
  先生の言葉が恥ずかしさに拍車をかけます。
 モニタの映像が消えました。
お尻からカメラが抜かれたのです。

 ナースがお尻を拭いてくれます。
後ろを振りかえると、いつの間にか先生とは別の背の高い男性が
来ていて、検査の様子をニヤニヤしながら覗いていました。
私と目が合うと、彼は検査室から出て行き、消えてしまいました。
白衣を着ていたので、医療従事者のようです。

「終わりました、異常はありません。」
  こう言って先生は去られました。
  
「ガスが出るかも知れませんが、空気を入れたのでそれが出る
 だけですから心配しなくていいですよ。
 お疲れさまでした、ゆっくり休んでからお帰り下さい。」
  ナースが言いました。 
  
 私はナースに質問します。
「今居た人は誰ですか。」
「検査技師です。
 ここでは彼は見学してもいいことになっています。
 彼は若い女性のときは必ず来るのよね。
 気を悪くなさらないでね。
 もし機械の調子が悪いときは彼が 調整することになっています。」
 
  その話を聞いて私は何だかちょっと割り切れない気になりました。
 やはり恥ずかしいですから。
 直接関係のない人の見学は止めて欲しいです。
 うら若き乙女がお尻の穴にカメラを挿入された恥ずかしい姿を見られる
 ことは耐えられません。
  確かに、大学病院では若い女性が大腸検査を受けるときは見学者が
 多くなるというお話を聞いたことを思い出しました。
 
 長い1日が終わりました。
もう外は暗くなっていました。
いろんなことを経験しました。
 もうこんな検査はこりごりよと主張するえり子と、是非もう一度
検査を受けて見たいわと言う、2人のえり子が私の心に居ました。


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